2014年度 炎環四賞
第十九回「炎環新人賞」記念作品
深山 きんぎょ
交叉点
- 梅の花匂ひし今朝の白さかな
- ふらここを大きく揺らし帰りけり
- 肩凝りの肩に触れゆくもんしろ蝶
- 菜の花や飛んでみたいと思ふ夜
- 春月へ俄か病の顔向けし
- 菩提樹の花降るフリーマーケット
- 通り雨新樹の匂ふ交差点
- 太宰忌やアガパンサスの花の列
- 少年の尖りし肩よアゲハ蝶
- 青梅雨や病院といふ交叉点
- 幼子の泪西瓜の種ふたつ
- 遥かなる時を照らせり盆の月
- 月光に降る音あらばヴァイオリン
- 堀辰雄の胸の小鳥よ水の秋
- さびしさの果ての青空大根蒔く
- 花むくげ眉きつぱりの女の子
- クレヨンで床の瑕塗る良夜かな
- 歳時記の赤き傍線初時雨
- 世の中を斜めに冬の金魚かな
- 記念日の小さきブーケ冬麗
死に向かって生きる
今年の春、顎下腺の手術で入院をしました。今まで病院に縁のなかった私にとっては、青天の霹靂でした。退院後の受診の折、廊下で待っていると、いろいろな人が前を通って行きます。年齢・性別・職業・恐らくは暮し振りも多様な人々。退院する人もいれば、入院する人もいる。ふと、病院は人生の交 叉点かもしれない、と思いました。
堀辰雄は、自分の病んでいる結核のことを「私の胸にとまった小鳥」と表現しています。どのような思いなのか、胸中はよく分からないが、病(死)をもそのまま受け入れる、辰雄の優しさ、強さを感じます。
今回の入院で、人は死に向って生きている、ということを、少しだけ実感しました。六十過ぎて巡りあった俳句。日々の生活の中で、大切に続けていきたいと思います。
此度思いがけず、新人賞を頂きました。これから頑張りなさいと、エールを下さったものと感謝しております。有難うございました。