2015年度 炎環四賞
第二十回「炎環新人賞」記念作品
鈴木 陽子
利き手
- 蜜柑の香ひとのまばらな自由席
- 手袋をならべて席をはづしけり
- 山眠る体育館へ荷をおろす
- 墨を擦る音のひくさよ神の留守
- カーディガン脱ぎ手本なき一筆目
- 初霜やゆつくり紙を持ち上げて
- 文鎮の跳ね返したる冬日かな
- 紙を干す洗濯ばさみ冬の蜂
- 墨かわくまでの散歩の枯野道
- 猫撫づる利き手定まり石蕗の花
- あかがりの確かむる葉のうらおもて
- 口すすぐ水の暮れゆく寒さかな
- 湯ざめして先生の部屋集ひけり
- 筆あらふ順を待つ間の冬の月
- 霜夜なる葡萄酒冷す窓のそと
- 朝風呂の約束そつと剥ぐ蒲団
- 直立の寒鴉合宿最終日
- 石鹸も汚れ落とされ十二月
- 雪もよひ鋲を打たれし地図の海
- あたらしき埃を上げし白ふくろふ
受賞のことば
書道を学んでいる。春と冬には、展覧会の作品作りの為の合宿がある。朝から晩までを練習に充てることが出来るが、他の人の様子を見に行ってもいいし、御茶菓子を食べてもいい。気分転換しつつ楽な気持ちで書くことが大事らしい。それでも最終日にはぐったりしているが、いつもの教室以外の先生、生徒の方々とも交流出来、刺激を貰えるので、毎回参加している。
だが、作品を先生方に見て頂く時は、今でも緊張する。俳句も全くそうで、句会で評される時、作者を公表される時はいつでもどきどきする。しかし、俳句と書道のいずれも表現することであり、人に見られるから伝わる、活きるものなのかもしれない。それを含めて楽しめるようになるのが今後の目標だ。その為にもっと勉強し、また、臆せず句作を続けていきたい。
この度は新人賞を頂き有り難うございました。優しく、時に叱咤激励して下さった皆様のお陰に他なりません。一層気を引き締めて参りますので、今後とも宜しくお願い致します。