2017年度 炎環四賞
第二十一回「炎環賞」受賞作
心理テスト
鈴木 陽子
- 葉桜の影の淡さへひざまづく
- こどもの日波間へじぐざぐと夕陽
- クレマチス悪役の唇うつくしく
- 紫陽花や待合室の透けてゐる
- 白抜きのノンブル老鶯の行方
- 夏の雨神父ひとしく二人見つめ
- かろき噓向かひのベランダに鴉
- 突つ伏して昼寝や仔犬守るごと
- 風鈴やたつた二択の心理テスト
- 朝食を抜いて海月に会ひに来し
- 蚊柱へ磁石となりし吾が頭
- 八月の水面の貌をひと撫です
- もう誰のビールか分からずに乾杯
- 遠花火まなこの硬き縫ひぐるみ
- おほげさな匂ひ帰省のにはか雨
- 水槽に塀に囲まれ金魚なり
- デパートのベッドに坐り秋の昼
- 月光の卓のカクテル拭く布巾
- 塩水へさらす林檎や給料日
- 壁紙の継ぎ目うつすら天の川
受賞のことば
物事があまり長続きしない私だが、俳句は続けていきたいと思い、この数年も俳句を作りながらあっという間に過ぎた。20代半ばまでの自分を思うと何だか信じられない。とはいえ、環境や心境の変化も色々あった。好きで俳句をやっている筈なのに、納得のいく俳句ができず苦しい。自分で自分の句がわからなくなることも多い。仕事などの慌しさも相まって、弱気になることも。それでも、句会で俳句の面白さを再確認したり、ふとした時に素敵な句に出逢い元気を取り戻したり、そして、先生、先輩、友人や家族の支えがあり、俳句を続けてこられている。迷った時は、俳句をはじめた時の新鮮な気持ちを思い出しながら俳句に取り組むよう心掛けるようになった。そのような中で思いがけず賞をいただき、大変ありがたく、嬉しく思う。
しかし、今回の作品をつくったのも既に過去で、この「今」も容赦無く過去になってゆく。受賞に感謝しつつ、今後も油断せず、学びを大切に、日常でかかわる様々な人々や事柄に触れ、邁進していきたい。不器用ゆえ、ゆっくり、半歩ずつしか進めないが。
この度は、本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。