2017年度 炎環四賞
第二十二回「炎環新人賞」記念作品
柿ノ木 裕
猫のふぐり
- かなかなの文学館へ長居せり
- 舟形の石棺ひとつ蓼の花
- 歯科医師の「はい口開けて」 鳳仙花
- 田にひとり畦へ一列曼珠沙華
- バス停へ芒の原を戻りけり
- ちぎれないクロワッサンや雁渡し
- 病む母の小言のふたつ秋桜
- 天高し遊行寺坂の仮店舗
- 虫売りへ追加の籠の届きけり
- 港区の坂の途中の秋祭
- 水澄むや祝日振替休園日
- 甲高の右の足より花野かな
- 秋天へ短きリフト乗り継げり
- 旅果の鞄にふたつ烏瓜
- 身に入むや床に積まるる洋書の背
- 陽をあびし耳朶の固さの吊し柿
- 黄落や町会テント墓地案内
- ブロンズの猫のふぐりや秋惜しむ
- ひろがつて歩く少年冬隣
- 冬あたたか福祉作業所レストラン
受賞のことば
新人賞の連絡を受けたばかりで、実感はないのですが、私としてはただ驚いております。七十歳少し前に始めた俳句での晩年の出来事だからです。
石寒太先生とは、二十七、八年前にご縁があって、中国旅行をご一緒させていただきました。旅の途次のある夕方、吟行という仕掛けがよくわからぬままに、俳句二句を提出といわれ作った句のひとつはよく覚えています。桂林の川下りの景です。季語などまったく知りませんでしたが、偶然にも入っています。
- 壮(ちわん)族の子ぱらぱらと落つ川遊び
俳句に「ぱらぱら」など擬音はよくないが、この句ではよいというご指摘がありました。
二十年後「炎環」に入会し、寒太先生が機会のあるたびにこの句会でのエピソードを引き合いにだし、励ましてくださるお蔭で、何とかやれている次第です。
これをステップに更に俳句とのかかわりを前進させたいと思っております。
新人賞は身に余ること、心より御礼申し上げます。