2018年度 炎環四賞
第二十二回「炎環賞」受賞作
落慶
竹市 漣
- 礎の天正の彫り蟻の列
- 初夏や黒き表紙の契約書
- 桐の花一礼したる宮大工
- 経行の咳に始まる地鎮祭
- 本堂の足場の組まれ雪ふり来
- 北颪鶴亀彫りの烏口
- 頭上より棟梁の声十二月
- 風花や上棟へ急く槌の音
- 大年の棟札文光方丈書
- 短日の空へ野垂木組まれゆく
- ふゆざくら瓦の裏の一句かな
- 格天井へ龍を納めて年惜しむ
- 磨り減りし大工の砥石雪女
- 鑿を研ぐ寒九の水に浄めつつ
- 鳥交る巴瓦の菊の紋
- 半年に一度の帰郷さくらんぼ
- 白シャツの皺ひとつなし宮大工
- 寺の名を太く大きく筆初
- 落慶法要の禅師の紫衣よ小鳥来る
- 稚児行列の鈴の近づき菊日和
受賞のことば
この度は第二十二回炎環賞のお知らせをいただき、只々、驚いています。第十六回では佳作をいただきましたが今回は戸惑いながらの応募でした。お忙しい中、選考の労を執られた寒太先生や選考委員の皆様に心より感謝申し上げます。
旧本堂の解体工事が平成二十二年。それから新本堂の落慶法要までの七年間、日記のように書き留めておいたなかからの二十句。この間の貴重な時間と体験と感銘が炎環賞という幸運に繋がり大変嬉しく思います。また、様々な方に瓦の裏に俳句や願目を書いていただき屋根に上げることもできました。
今年の夏の酷暑は尋常でなく気息奄々の夏負け状態。そんなところへの受賞の知らせ。身の引き締まる思いがいたします。
これを励みとし、果てなき俳句の道をゆっくりと、自然な息で、楽しみながら精進いたしたいと思います。
ここまで導き下さった寒太先生や諸先輩方の皆様、本当にありがとうございました。今後も変わらぬご指導をお願い申し上げます。