2020年度 炎環四賞
第二十五回「炎環新人賞」記念作品
内野 義悠
解錠
- 木柾の小さきささくれ冬めきぬ
- 凩や削り出すからだの真芯
- 的外すダーツにも影寒灯下
- うすうすと涙痕のあり冬の朝
- 溜まりゆく録画番組雪もよひ
- 花八手古歯ブラシで磨く目地
- 枯芝に伏してあばらの透きとほる
- 枯蟷螂沈黙どこか濁りをり
- しつぽなき鯛焼き分け呉れし妻よ
- 懐手解きてさあ最後の直線
- 冬夕焼まだ浸け置きのカレー鍋
- 凍星睨み解錠の電子音
- 白鯨を想へば重くなる瞼
- うたた寝の終流れ込む木菟のこゑ
- 月冴ゆるピント合はせるまでの黙
- 遠火事の窓ファスナーを下ろす指
- 心音聴くとき羚羊の眼の昏く
- 置き去りぬ夜明けのセロリ噛む音も
- 祈ることなき手を翳す焚火かな
- おもかげへ白息尽きるまで叫ぶ
受賞のことば
この原稿を書いている今、頭に浮かぶのは俳句を始めた当初のことです。何の気なしに応募したある俳句賞をきっかけに句を作り始め、二年後ここまで自分の中で重たく、大切なものになるとは思ってもみませんでした。俳句を始めると今までは素通りしていた四季の景や、日常にありふれているものから句が生まれる経験が楽しく、いつしか自分の軸の一つになっていました。同時に学ぶほどに「カタチ」にとらわれ、見て見ぬふりをするようになった感覚やことばも多くあります。
今回、受賞の連絡を頂いてからしばらく、意図的に作句から離れてみました。少しだけ、そういった感覚を閉じ込めてしまった部屋が解錠されたような気がしました。これを機にもっと自由に俳句を楽しんでいきたいと思います。
改めまして、この度は炎環新人賞を賜り感謝申し上げます。今、やっとスタート地点に立たせていただいたものと思っております。この先も引き続きよろしくお願い致します。