2021年度 炎環四賞
第二十五回 炎環賞 受賞作
スクラップブック
鈴木 健司
- 教科書のゆるき折り癖春の雷
- ふらここへ生命線をたどり来し
- 靴箱の伱間に春の星ひとつ
- 新入生手元のジョーカーは二枚
- 切取線の内を花筏で埋めよ
- せつかちなラジオの時報若楓
- 白南風や三段跳びの着地せり
- 夏空へ解き放たれし万華鏡
- 味方にはならない人の白靴よ
- 遠花火眼鏡の少し曇りたる
- 階段を登れば八月の呼吸
- スクラップブックの行方竹の春
- 簡単に戻る知恵の輪けいとうくわ
- 二十三夜サイドミラーの硬く閉づ
- 烏瓜もう足跡を照らさない
- 冬日和三分割のリコーダー
- 白線に囲まれてゐる枯野かな
- 敬礼の眉の鋭角冬の月
- 楽園に入り切れない兎たち
- 風花の鼻の先より溶けゆけり
受賞のことば
この度は第二十五回炎環賞を頂きまして、どうもありがとうございました。石寒太先生をはじめ、選考委員の方々に御礼申し上げます。普段お世話になっている阿佐谷ナイト句会、笹塚句会、亜夜句会、スカラベ句会の方々、今は亡き丹沢亜郎さん、佐藤良重さんに感謝申し上げます。また、俳句の世界へ導いてくれた先達であり、二人目の師であり、よきパートナーでもある妻の柏柳明子にも感謝しています。また五分の一会の皆さんとの勉強会は大変有意義でした。どうもありがとうございました。
三年前に同人になったとき「本当に大変なのは同人になってからであり、その先が続くかどうかはこれからだ」と寒太先生や先輩の同人から忠告されたことを覚えています。句会で高得点の句を作れることに満足するよりも、いかに人と違う個性を発揮できるか。そのことに多くの同人が悩み、苦しんでいると思います。炎環賞は会員の頃から毎年応募してきましたが、特に同人になってからは、応募が俳人としての道標となりました。周りには年齢を問わず優れた俳人が多く、自分はまだまだ勉強不足だと痛感していますが、応募作品を作る過程で得るものは大きかったと思います。俳人としていかに個性を伸ばしていくのか、そのことを考えるうえで苦しくも意味のある経験となりました。これからも精進していきたいと思います。