2021年度 炎環四賞
第二十六回「炎環新人賞」記念作品
前田 拓
日のさすとこへ
- 水掻きを過去へ押し出す真鴨かな
- 耳当ててみる白樺の雪もよひ
- いつせいに顔の出でたる昼の火事
- 白帯の空手の型の淑気かな
- 初空に引つ掛けてある時刻表
- 新雪の鳥の脚あと途絶えけり
- 蕗の薹ひとつは陽だまりの重さ
- 「本日欠席」卒業証書授与式
- 初夏やカレーの端の寄つて来る
- 短夜の寝るまで続く電話かな
- 足遠くしてゴーグルを探しをり
- 半島の先端にゐる夏帽子
- 大夕焼負け顔並ぶ車窓かな
- 二回目のワクチンまでの百日紅
- 初秋の舌に乗りたる切手かな
- 盆の海より手招きのありにけり
- 茄子の馬罪の記憶の駆け廻り
- 賞状にぶつかつてゆく鬼やんま
- コンタクトうまく入らず休暇明
- 蓮の実の失せたる穴の雫かな
受賞のことば
この度は、新人賞という名誉ある賞をいただき、とても光栄に思います。皆様の温かな励ましによって賜ることができました。本当にありがとうございました。俳句を始めて一番実感していることは、人、もの、こと、どれひとつとしておろそかにして良いものはないということです。すべては繋がっているということを、俳句を通して学ぶことができました。
私は「吾輩は猫である」の一節、「呑気と見える人々も、心の底を叩いてみると、どこか悲しい音がする」 という言葉が好きです。句座には大切な人を失ってしまった方や、心身に病を抱える方、人知れず孤独な方など、人には見えないマイナスの感情をもって参加している方もきっといると思います。人間探求派のひとりとして、自分はどうあるべきなのか、何ができるのか、それを考えていくことを主題のひとつとして、これから邁進していきたいと思います。