2022年度 炎環四賞
第二十七回「炎環新人賞」記念作品
小笠原 黒兎
デテケデテケ
- 喰積に人情噺日がなかな
- 噺家のひよこひよこ帰る花の雲
- 散る桜食べたし口をぱかと開く
- 花疲れ袱紗畳まず恋疲れ
- 五十両にひとの売られし鼓草
- 新宿は白雨のなかや寄席提灯
- 紙切の鳥飛び発てり夏の窓
- 隣席のひとの連れ来る暑さかな
- モニターの無防備な貌日雷
- 短夜の傍ら死神のダンス
- おつとりと羽織落としてより夜長
- 秋灯し木戸の小母さん若々し
- 何某の妾宅の門初紅葉
- 油点草雨の気配の降りて来し
- 自づから川へ落ちけり秋の蝶
- 志ん生のフィラーのリズム散紅葉
- 木戸口にふくら雀の親子かな
- コンビニで千円使ふ冬うらら
- 飛び帰る屏風の無くて寒雀
- 木枯しの町へデテケの太鼓かな
受賞のことば
炎環新人賞の連絡をいただいてから、なんだかおかしな心持ちで過ごしています。2016年9月阿佐谷ナイト句会に出席してから6年が経ちますが、俳句がすらりと出来たことはなく、考えたつもりがヘンな句になってしまうのは、相変わらずなのですから。俳句にセンスというものがあるとすれば、わたしにはそれが無いのです。それを寒太先生に訴えたこともあって、先生は「生涯には、逃したくない一瞬というものがある。その時をしっかり俳句に詠み留めるための準備だと思って、どんどん作りなさい」と言われました。
今回の受賞は、寒太先生のこうした寛容なご指導あってのこと。また阿佐谷ナイト句会、笹塚句会の、それぞれに熱心であたたかな句座に入れていただいていることも大きいと思います。先生、句座の皆さま、またご推薦いただきました方に感謝を申し上げ、これを励みにわたしなりの精進を続けていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。