2023年度 炎環四賞
第二十八回「炎環新人賞」記念作品
鮫島 沙女
十月
- 翳りゆく窓見てゐたりハロウィーン
- 星流る持てあましたる願ひごと
- 吊り革の揺れて停りし霧の駅
- 碇星グラフの果ての地平線
- 棘のあるフォント選ばせたる秋思
- 契約の甲乙の差の身に入みぬ
- 秋夕焼シュレッダーの音ふと途切れ
- キーボードの「さ」「そ」「ひ」の並び律の風
- 決断のEnterキーや虫の声
- 残業の果てあをあをと秋北斗
- 月光やさらさら流れ去る愁ひ
- 天高し「大丈夫よ」と励まされ
- あるき神の拾う神なり神無月
- 秋晴るる師と仰ぐ人ただひとり
- 楸邨譲りてふ師の笑みや鰯雲
- 日に四度ひらく句帳よ色さやか
- 秋ともし子のお下がりの電子辞書
- 父母よ夫よ天にも秋来しや
- 残照のコスモス風へすくと佇つ
- 踏み入れし山脈はるか粧へり
受賞のことば
10月初旬、編集長からのメールを開くと私が新人賞に選ばれた由。目を疑い、何度も読み返しました。
2021年の春に炎環新人句会で俳句を勉強し始めてから数えても2年半、2022年の春に入会してからはまだ1年半。炎環誌上で「炎環四賞」のお知らせを見ても、私には関係ないことと読み流していたので、まさに青天の霹靂でした。
思い出すのは、息子がまだ小学校低学年の頃、国語の時間に作ったよと言って俳句を持ち帰った日のこと。「サイクリング春かぜいっぱいのみこんだ」と書かれた短冊に、先生の大きな大きな花丸がついていました。いいなぁ、私も俳句を詠んで花丸を貰ってみたい、と思ったものでした。
芭蕉翁は「俳諧は三尺の童にさせよ」と説いたそうですが、炎環においては三尺の童である私が、ビギナーズラックで大きな花丸をいただきました。候補者に選んでくださった主宰やご投票くださった同人の皆様の温かいエールを裏切らぬよう、さらに精進して参ります。誠にありがとうございました。