2024年度 炎環四賞
第二十九回「炎環新人賞」記念作品
大和田 響子
北巨摩
- 出立の春はあけぼの都庁かな
- 巨摩行きの一〇番線へ初蝶来
- 昏睡の車両青葉に染まりたり
- 隧道を越し万緑となりにけり
- 終点の窓叩きけり晩夏光
- ホームより見知らぬ峰や秋の風
- 林間の青き薄闇鵙の声
- 霧晴れて小屋現るる水甘し
- 草引きて花束ひとつ小屋の卓
- 赤松は紅葉せぬ族りゆうりゆうと
- 地を攫む武道家の足木の実降る
- 仔のやうに挟まれてをり鹿二頭
- 七竈寂しき空に火のごとし
- 雨氷の樹脆きこどもの手をひきて
- 星死して深雪となりし朝かな
- 子狐の嗄れ声や闇まろし
- 途中より囀りとなる夫の声
- 料峭やバス停ひとつ森のなか
- 片道の上り切符や山桜
- 隧道を越すたび葉桜となりぬ
受賞のことば
この度は炎環新人賞という身に余る名誉ある賞をいただき誠にありがとうございます。
二〇一四年に入会して十年余りですが、殆どが休眠中という状況でした。カレンダーの数字を塗り潰すように生きていた時期があり、潰しても潰しても数字が続いていくのが恨めしかったものです。投句はもちろん炎環誌を開くことさえしなかったある時、もうやめてしまおうと退会の電話をかけました。数日経たない内に後悔し再度担当の方に電話をし「辞めるのをやめたいのですが」と申し出た時、その方はわずかな沈黙の後に「あ、私手続きするのを忘れていました」と言ってくださった。その方に深く感謝いたします。三年程前より毎月投句できるようになり俳句を読むのも詠むのも楽しいと思えるようになりました。全国メール句会への参加は以前では考えられないことでした。ありがとうございます。まだ知らないことがたくさんあります。
皆様ご指導よろしくお願いいたします。