2020年5月

防疫

増田 守

• 申告は山を越えけりウイルス禍
• 若布干す波に鋳型のあるやうに
• ウイルスの影の徘徊余寒かな
• 生も死も淘汰の過程寒戻る
• 防疫の湾のうねりや埠頭春

ウイルス禍

波田野 雪女

• 戻れざる橋のいくつよ春一番
• 合格の少女旅立つ芽吹き雨
• 副都心地下みちのくの春野菜
• ウイルスに戦く地球こぶし咲く
• ウイルス禍休む日永となりにけり

椿咲く

前島 きんや

• 芭蕉庵の種より咲きし椿かな
• 消しゴムの塵はらひをり春の雪
• 自転車のセーラー服や蘆の角
• 栄螺焼く茶店に動く猫の髯
• 取り消しのならぬメールよ春の雲

「拝啓」

千葉 楓子

• そこここにちひさき段差梅ひらく
• 「拝啓」に始まる前書き春浅し
• 折り返すバスのふたつや花菜畠
• きさらぎや円空仏の片ゑくぼ
• 春の雪大円卓のタブレット

治験

肥後 直美

• 早朝の治験の注射紫木蓮
• 旧陸軍病院の窓クロッカス
• ガラガラの急行列車桃の花
• 断捨離や九年前のマスク箱
• 口コミの次亜塩素酸春の列

葉脈

このはる 紗耶

• ものの芽や足なげだして読む絵本
• 知らぬ子に鳥を教はる春の園
• 葉脈の朽ち残りたる古巣かな
• 山笑ふ閉経の身をとほる白湯
• なに植ゑませう荷づくりのいらぬ春