2022年4月

春禽

小熊 幸

• 大寒や診察室のドア開く
• 保育所の「職員募集」梅ふふむ
• 「収束」の消えてしまひし梅三分
• Ｌ Ｉ Ｎ Ｅ よりの赤ハゲ山よ草萌ゆる
• 春禽や介護施設の駐車場

花子

常盤 優

• 正午告ぐからくり時計旅はじめ
• 大冬木星の放牧始まりぬ
• マフラーにうづめてしまふ涙かな
• 病むひとへ短きメール寒の星
• 立春大吉花子と名付けられし豚

冬の雷

道坂 春雄

• 公園のゴムまりひとつ冬の雷
• 通ひ猫のすがたの見えず牡丹雪
• 蟹蒲の七尾の「スギヨ」春きざす
• 音楽室の少し窓開き梅日和
• 人を避け人を求めて青岬

四温

小佐井 芳哉

• 飲み薬ひとつ減りたる四温かな
• 宙に浮く五目チャーハン春近し
• あつけなく人死ぬドラマ春炬燵
• 解錠の確かな音や春の闇
• 女体めく海のうねりや草城忌

春に死す

高橋 透水

• 春に死す対面のなく遺書のなく
• 早春の土の匂ひに脚の酔ふ
• 梅東風や恋のいくさを待ちかねし
• 老眼か遠視か春の虹親し
• 春の宵貝の寝息の窓なりし

大黒天

河野 幸子

• 助手席の遺影にかけしカーディガン
• 左義長や父の手彫りの大黒天
• 護摩壇の大師のまなこ淑気かな
• 超音波の検査の無音春近し
• きさらぎや昭和歌謡のうづむ町