2023年6月

啓明抄（貳玖什）

齋藤 朝比古

• 春キャベツ山積にして猫車
• 地球より好きな星あり水温む
• 玉の井にしがみつきたる燕の巣
• 校庭に四つの球技暮遅し
• 地べたから始まる市や木の芽風

花

山高 真木子

• 永遠に未完の散歩花の昼
• 窓枠の隅のあかるき桜かな
• たこの公園ふらここの背を押す手
• 春のきつつき新しきフライパン
• 転校生春野の風を曳きゆけり

目刺焼く

中西 光

• 連翹忌使はぬままの旅鞄
• 「桐壺」より寂聴源氏春ともし
• 家康の駿府城跡シャボン玉
• 家づとの信玄餅や梨の花
• いとほしむ老いのひと日や目刺焼く

ふりむく

綿引 康子

• 迎へられし僧院の庭枝垂梅
• 振り向けば影のふりむく彼岸かな
• 文のをはりの聖書の一句花青木
• あたたかや隣家にボーダーコリー犬
• 真ん中にボンゴのリズム草若葉

番鴨

髙橋 ビスカス

• 検診の急いて踏みたる春の霜
• 六年目の予約不要や水温む
• 佐保姫の目覚めうながす車椅子
• 春の水静謐やぶる番鴨
• 海境の星をぬすまれ黄砂ふる

花の雨

小関 由佳

• 差さぬまま銀座界隈花の雨
• 軒下に猫と自転車春の雨
• 十階のコールセンター花の昼
• 期日前地下投票所春の昼
• 春野遥けしなほまなうらに花野