2014年6月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
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総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。6月号は「第15章 草田男のまぼろしの座談会」。筆者(寒太主宰)は4月号より、中村草田男の「芸と文学―楸邨氏への手紙」(昭和21年)について論じており、今回はその3回目。草田男の「手紙」は、〈楸邨の主宰する「寒雷」が戦時中、軍部の勢力者と結びつき、それに便乗することによって、勢力の拡大をはかったとし〉て、〈楸邨の世俗的汚穢をなじり、戦後の楸邨の出発がこれらの過誤への深い反省と払拭がなければ信用がおけないことをのべた〉ものです。これに対して筆者は、〈怜悧な草田男にしては、唐突かつお粗末な論である〉と評し、4月号にまず「手紙」の全文を掲載、つづいて5月号・6月号で、楸邨が〈結びつい〉た〈軍部の勢力者〉(と草田男が目していたであろう)3人について、楸邨の文章や筆者自身の見聞を基に叙述。3人それぞれへの、楸邨の〈思いは篤い〉ことを示し、だから〈楸邨にとっては、この草田男の手紙はかなり応えた〉と推察します。〈戦前・戦中、かなりの量の俳論を書いている〉楸邨ですが、〈昭和20年の半ばを過ぎると、論の方は減少している〉のは、〈草田男のこの手紙を端著として論の空しさを知り、あとは俳句実作者のみによって自分の生き方を証明したい、そんな風に変えた〉からだと筆者は断言します。一方、〈草田男が、喜々として、楸邨批判をしたのは、まさに時流の波に乗った〉のだという背景も明かしていきます。
炎環の炎
- 岐阜県郡上市「水とおどりの里俳句大会」(4月25日、NHK学園・郡上市・郡上市教育委員会)
・加古宗也選「秀作」〈白鳥や群れて音符のごとき首 永田吉文〉
・加古宗也選「佳作」〈花冷えや寝そびれし夜の馬上杯 本田修子〉
・茨木和男選「佳作」〈咳の子のみまひのことば糸電話 たむら葉〉 - 総合誌「俳句」(KADOKAWA)6月号「平成俳壇」
・小島健選「秀逸」〈針穴へ糸の尖りし寒さかな 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」6月号の「特集 女から見た男、男から見た女」にて、関根誠子が「夏雲へ」と題し、〈夏雲の沖見る背の振り向かず〉など5句と短文を発表。
- 総合誌「俳句界」6月号の「俳句の未来人」にて、倉持梨恵が「水へ」と題し、〈曖昧な象の足踏み花の昼〉など10句を発表。
- 総合誌「俳句界」6月号の「この本この一句」(長嶺千晶氏)が片岡宏文句集『防波堤』を紹介。句集から〈我が前に激流として氷河あり〉を取り上げ、〈原始の地球に対峙するとき、一句に荘厳な雄々しさが生まれている〉と鑑賞。
- 総合誌「俳句界」の「第四回全国方言俳句」が応募総数296句から、最優秀賞1句、優良賞11句、佳作11句を選出し、6月号に発表。
・「佳作」〈だんとうの花の捨て場の昼の虫 曽根新五郎〉*だんとう=お墓、墓地<東京都式根島の方言(同句は北見弟花選「秀逸」) - 総合誌「俳句界」6月号「投句コーナー」
・大高霧海選「秀作」(兼題「家」)〈ひとところ家族のやうな冬すみれ 曽根新五郎〉 - 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)6月号の「『現代俳句年鑑2014』を読む」で松田ひろむ氏が「感銘十句抄」に、〈無い筈の戦火の記憶冬花火 長谷川智弥子〉を選出。
- 機関誌「現代俳句」6月号の「今、伝えたい俳句 残したい俳句」に田島健一が寄稿し、同誌3月号から5句を取り上げ鑑賞。うち1句は自句自解、〈右眼から鳥になる願わくば鶴 ――ある夜、部屋の電気を消すと右眼だけが暗闇のなかでさらに暗く塞がれているようだった。いわゆる鳥目。右眼だけに何かが居座って、そこから、身体が変わっていくような。これは、私の願い〉。
- 結社誌「小熊座」(高野ムツオ主宰)3月号の「星座渉猟」(関根かな氏)が、〈千日の地震の記憶よ凍星よ 北原麦秋〉を取り上げ、〈東日本大震災から3年目。千日が過ぎた実感が、深く込められている。あの地震の事実は永遠に「記憶」されなければならない。俳句という詩形で「記憶」を留めることもまた、肝要で尊いことと思う。「凍星」の光りが、蘇る「記憶」と呼応し、さらに光りを増している〉と鑑賞。
- 結社誌「雲」(鳥居三朗主宰)2013年7月号の「句集のこころ」(飯田晴氏)が宮本佳世乃句集『鳥飛ぶ仕組み』を紹介。10句を取り上げて鑑賞しつつ、〈時折よくわからない句にも遭遇する。「あはゆきのほどける音やNHK」「花の昼けふ天皇となつてしまふ」など。しかし、わからないことが俳句をつまらなくしているわけではない。作者を表現に駆り立てているものが感じられ、俳句を意味と因果から解き放とうとする意識も強い〉と批評。
- ひらのこぼ著『俳句発想法歳時記 夏』 (草思社文庫)が「夕焼」の例句として、〈夕焼けを壊さぬやうに脱ぎにけり 宮本佳世乃〉を採録。
- 結社誌「りいの」(檜山哲彦主宰)4月号の「交響する言葉 書評ほか」で卓田謙一氏が齋藤朝比古句集『累日』を紹介。〈意外性がある対象の捉え方こそ、作者の持ち味。少しずらした視点で言葉と遊んでいる〉と批評。
- 結社誌「秋」(佐怒賀正美主宰)4月号の「現代俳句句集評」(阿部周二氏)が齋藤朝比古句集『累日』を紹介。〈凝視に基づく写生の段階で、より深いものを目指して苦闘を続け、最適の比喩や象徴性の高い句に到達〉と批評。
- 結社誌「門」(鈴木節子主宰)4月号の「俳書紹介」(小嶋誠氏)が齋藤朝比古句集『累日』について、〈著者はまだ四十代ながら句暦二十年。全編に分かり易い言葉が並ぶ〉と紹介。
- 結社誌「甘藍」(いのうえかつこ主宰)4月号の「恵贈句集抄」(加藤克子氏)が齋藤朝比古句集『累日』について、〈さりげない日常の中の独自の発見が印象的〉と紹介。
- 結社誌「かびれ」(大竹多可志主宰)5月号の「句集余情」(富成千花氏)が齋藤朝比古句集『累日』を紹介。〈日々積み重ねてこられた独自な世界の新鮮な詩眼に魅了された〉と批評。
- 結社誌「岳」(宮坂静生主宰)6月号の「句集縦横」(佐伯千年氏)が齋藤朝比古句集『累日』を紹介。〈色眼鏡や屈折ガラスを通さずありのままにすっと捉える著者のまなざしは、見事な詩情を醸しだす。一句一章の句が断然多い〉と批評。
- 結社誌「耕」(加藤耕子主宰)6月号が齋藤朝比古句集『累日』を紹介。
- 結社誌「椎」(九鬼あきゑ主宰)6月号の「書架光彩」(戸塚きゑ氏)が齋藤朝比古句集『累日』を紹介。〈力むところがない自然体の作品。独自の目で見えているものの更に奥を詠み詩情ある作品へと昇華させている〉と批評。
- 結社誌「澤」(小澤實主宰)6月号の「窓 俳書を読む」(田沼和美氏)が齋藤朝比古句集『累日』から6句を鑑賞。そのうち〈てのひらをゆつくり開きさくら貝〉については、〈「てのひらをゆつくり開き」が本当にゆっくりなスローモーションの感じ。最後に「さくら貝」が出てきて手品でも見たような気分〉。