2015年6月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 石寒太主宰が谷村鯛夢と共著で『いきいき健康「脳活俳句」入門』(ペガサス)を刊行。寒太主宰は同著の「はしがき」で、〈俳句は「座の文芸」です。一人ではできません。みんながいて励まし合って作る、共同体の文芸です。この本を読んでいただければ、さまざまな方々が俳句に支えられて生き、いかに皆でいい俳句生活を楽しんできたか、それがとてもよくわかると思います。俳句を作ることが、健康のためにどれほど役に立つか。その具体的なヒントが、この中にはいっぱい隠されています〉と述べています。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。6月号は「第27章 「第二芸術」論の波紋(四)」。〈ヨーロッパの近代小説は、いずれも「人生いかに生くべきか」の解答だ――そう考えていた桑原が、そのホコ先を俳壇へ向けたのが、昭和21年11月、「第二芸術」という論文を雑誌「世界」に発表した時で〉、本章では、当時の俳壇がこれによって受けた〈衝撃〉を概観します。その上で寒太主宰は、〈だが「第二芸術」論は日本と西洋、伝統と現代といった問題意識をふくんでいたために、加藤楸邨をはじめとする多くの意欲的な俳人に、現代俳句の可能性をさぐらせるきっかけにはなった。この意味で、「第二芸術」論は、戦後俳壇の出発点になったということができるのである〉と、それを位置づけます。そして、俳誌「炎環」が平成20年1月に、「終結「第二芸術」論」と銘打った特集を組んだことに触れ、寒太主宰はその理由について、論が出てから60年というタイミング、また、これを知らない若手俳人が多い、ということに加え、〈私は、俳句をはじめて、加藤楸邨に学んだ。師・楸邨は俳句の表現を文学たらしめんと最大に努力した俳人であった。楸邨の目指す文学がどのようなものであったか、それを探り当て、私の俳句に生かそうとすることは、楸邨の求めたるところを知ることにつながる。それが自分の今後の俳句の在り方にもかかわる根幹の部分である、そう考えたからでもある。「第二芸術」論の中で説かれている「俳句の非現実性」にその時触れることは、加藤楸邨の芸術性を相対化させ、ひいてはいま私のつくろうとしている俳句とその仲間たち「炎環」の句づくりの指針をあらためて確認するということにもつながる、そう思ったからでもある〉と述べています。
- 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)6月号が芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した仲寒蟬氏を特集。そこへ石寒太主宰が寄稿し、「虚実の実を探る」と題して、〈仲寒蟬の俳句の魅力はどこにあるのかといえば、ずばり虚と実の間の実にある、といっていいだろう。『巨石文明』の中の「独活食めばなめとこ山の風の音」という一句。「独活食」むという上五の現実と、中七・下五の「なめとこ山の風の音」という非現実をとり合わせてみると、なるほど……、と思わされてしまう。「なめとこ山」というのは、詩人・宮沢賢治の童話によく出て来る山で、賢治ワールドのひとつである。仲寒蝉は、そこには風が吹いていて、その音を感じている〉と論評しています。
炎環の炎
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)6月号「俳壇ワイド作品集――今月の有力同人」に谷村鯛夢が、「今宵はロゼを」と題して、〈蝌蚪もはや流れに乗る子逆らふ子〉〈花の下今宵はロゼをシルヴプレ〉など7句と短文を発表。
- 「第16回虚子・こもろ全国俳句大会」(長野県小諸市、4月29日)が応募2,395句から16句を各賞に選出。そのうち「小諸市長賞」に〈会へさうな虚子先生の懐手 佐藤弥生〉。各選者の入選句は以下のとおり。
・星野椿選「特選」〈会へさうな(前掲)佐藤弥生〉
・櫂未知子選「秀逸」〈信州の空より白き野梅かな 武田漣〉
・宮坂静生選「秀逸」〈銀海鼠千年前のかたちかな 曽根新五郎〉
・石寒太選「佳作」〈鍵かけることなき島の良夜かな 曽根新五郎〉〈子に遺す墓碑の一句や柿若葉 伊藤航〉
・松田美子「佳作」〈てのひらの影ころがして竜の玉 曽根新五郎〉〈冬ざくら火入れ待ちゐる登窯 中西光〉
・山本土十選「佳作」〈紅葉且つ散る遺骨なき墓標かな 曽根新五郎〉〈ひとひらの遺書ひとひらの帰り花 曽根新五郎〉
・深見けん二選「佳作」〈会へさうな(前掲)佐藤弥生〉
・横澤放川選「佳作」〈三月十一日の泣き砂泣けり 曽根新五郎〉
くわえて大会の当日句(席題「蝶」「小諸市内嘱目吟」)に対する各選者の入選句は以下のとおり。
・高野悠子選「佳作」〈いづくより小諸時代の黄蝶かな 石寒太〉〈浅間嶺の影の蒼さよ白蝶来 前島きんや〉
・星野高士選「佳作」〈いづくより(前掲)石寒太〉
・高瀬竟二選「佳作」〈磨きたる硝子に写る白き蝶 佐藤弥生〉
・鈴木しどみ選「佳作」〈虚子庵に長居や小諸紅枝垂 長谷川いづみ〉〈俳小屋や熊蜂天に動かざる 大澤徹也〉 - 「第16回隠岐後鳥羽院俳句大賞」(3月15日)宇多喜代子選「入選」〈晩秋の二等船室島訛 北原恵子〉
- 東京新聞4月26日「東京俳壇」鍵和田秞子選〈母とゐて笑ひの減りし花筵 片岡宏文〉
- 朝日新聞4月27日「朝日俳壇」長谷川櫂選〈戦には屈せぬこころ山桜 寺半畳子〉
- 東京新聞5月3日「東京俳壇」鍵和田秞子選〈花盛る飢え懐しき時計塔 片岡宏文〉=〈戦争末期から戦後にかけての食糧難時代に学生だった人。校塔に時代を象徴させ、今は懐しい思い出を一句に〉と選評。
- 毎日新聞5月4日「毎日俳壇」小川軽舟選〈花の雨食べ終へし子の走りをり 中島憲武〉
- 東京新聞5月10日「東京俳壇」小澤實選〈残花美し人を焼ききる一時間 片岡宏文〉=〈亡き人を骨にするまでの一時間。故人が今年の花になんとか会えたことを喜ぶ思いも含まれているかもしれない〉と選評。
- 朝日新聞5月18日「朝日俳壇」長谷川櫂選〈初夏の日差し眩しや四畳半 池田功〉
- 総合誌「俳句界」(文學の森)6月号「投稿俳句界」
・角川春樹選「特選」〈木の芽風母の手紙の誤字二つ 松本美智子〉=〈母親から手紙が届いたという、生活感のあるあたたかい作品。文面に見つけた些細な誤字ではあるが、巡り来る季節の推移の一方で、齢を重ねてゆく母親への慈しみが描かれている〉と選評。
・田中陽選(兼題「夜」)「秀作」〈耕して夜学に向かふオートバイ 高橋桃水〉
・森潮選(兼題「夜」)「秀作」〈朧夜の背伸びしてゐる甲斐の山 長濱藤樹〉
・大串章選「秀逸」〈乗り越して戻りたる駅涅槃西風 松本美智子〉
・原和子選「秀逸」〈大寒の鏡の中の喪服かな 曽根新五郎〉 - 機関誌「俳句春秋」(NHK学園)4月号「四季課題詠」宇多喜代子選(兼題「冬菫」)〈繭倉の礎石百年冬すみれ たむら葉〉
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)6月号の「私の自由時間」に吉田悦花が、「俳句とそばと雑学の楽しみ」と題してエッセイと自身の写真とを寄稿。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)6月号の座談会「最近の名句集を探る」(筑紫磐井・齋藤愼爾・水内慶太・山田佳乃)が、岡田由季句集『犬の眉』を取り上げ、〈山田「誰もがやるような日常の行動を詠んでいますが、誰もが作れるような句ではないと思います」、筑紫「こういう作風の方がこれからどんどん増えていくとすると、俳句はどうなっていくのかなとはちょっと思います」、山田「岡田さんは対象をしっかりと見て作っているので安心して読めました。これを読んで俳句をやってみようと思う若い人もいるのではないでしょうか」、齋藤「俳句を始めたばかりの人なのかなと思ったら句暦16年なんですね。凡庸な感覚の持ち主ではないから、これから確実に伸びる俳人のひとりだとは思います。句集名は一考の余地があると思う」、水内「初期の頃の方が面白い句がたくさんあったと思います。俳句がわかってきてからはいじり過ぎてかえって面白さが薄くなっているような印象がありました」、筑紫「悪い意味ではなく、初心者俳句を深めていった俳句だと思います。こういうわかりやすくて素朴な俳句は一般読者から歓迎されて、案外これからの俳句の大きな流れになっていく可能性もある。岡田さんはそうした若手俳人の集団を引っ張っていく存在だと思います」〉とそれぞれが評価。
- 結社誌「田」(水田光雄主宰)5月号の「俳句月評 一瞬と永遠」(栗山政子氏)が、〈縄跳びのリズムのままに帰りゆく 岡田由季〉(「俳句」3月号より)を取り上げ、〈縄跳びの余韻が人の体にも地にも残っている〉と鑑賞。
- 結社誌「風土」(神蔵器主宰)5月号の「現代俳句月評」(南うみを氏)が、〈雑炊の吹いても消えぬ光かな 岡田由季〉(「俳句」3月号より)を取り上げ、〈どんな「雑炊」でしょうか。家庭でつくる「すまし汁」に刻んだ野菜を入れ、卵でとじた雑炊を想像します。ごはんの粒々と卵の黄色が吹いても吹いても光り輝くのです〉と鑑賞。
- 結社誌「天塚」(宮谷昌代主宰)5月号の「現代秀句鑑賞」(松岡寿)が、〈縄跳びのリズムのままに帰りゆく 岡田由季〉(「俳句」3月号より)を取り上げ、〈春夕焼の中を子供達が縄跳びの続きのように弾んだ足どりで家路をたどる様子が見える。縄跳びのリズムと足音が重なり読み手まで心が弾むようである〉と鑑賞。
- 月刊紙「子規新報」に連載中の「次代を担う俳人たち」、その第162回(4月30日)は「岡田由季の巻」。〈(筆者=三宅やよい氏が)由季さんにとって俳句とはどのようなものか。質問をぶつけてみたところ、次の返事が返ってきました。「日常は雑事のなかでどんどん過ぎてしまいますが、そのなかで俳句は少し意識を活性化してくれるようなものだと感じています。始めたころは、俳句はスナップショットのようなものだと言われ、なんとなくそんなものかと思っていました。今ではそれは俳句の一面でしかないと思っています。ただスナップショットというと今は別の側面が気になっています。それは意図しないものが写りこんでしまうということがあることです。俳句でもそのようなことがあって、それが俳句の面白さの一因になっているように思います」。影響の受けた俳人として星野立子、そして好きな句は「桃食うて煙草を喫うて一人旅」を揚げてくれました。由季さんの句はすんなりと素直な言葉づかいが基本。それでいて見過ごしてしまいそうな日常のささいな出来事から異次元の世界がちょっと見えるようなずらし方が魅力です〉と紹介。