2016年1月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 毎日新聞(12月16日)が「第19回毎日俳句大賞」の受賞者を発表。審査員の石寒太主宰は「選を終えて」の項に、〈今年も多くの作品が寄せられたが、戦後70年ということもあってであろう。平和や戦争、また生きとし生けるものの、いのちを詠んだ句がとりわけ多かったのが特徴だった〉とコメントを出しています。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。1月号は「第34章 「第二芸術」論と楸邨(2)」。本章では、〈桑原の問題提起よりも数ヶ月はやい、昭和21年5月に楸邨の弟子たる澤木欣一が編集兼発行人として生まれた、一地方金沢の超結社形式の同人誌「風」〉を取り上げます。〈集ったのは当時の若手俳人のエリート集団。同人誌として出発し、「俳句における文芸性の確立」をめざし、評論と実作に熱気ある活躍を展開〉、〈昭和20年代末から30年代半ばまで、社会性俳句論議を巻き起こし、澤木欣一・原子公平・金子兜太らが中心となって、俳壇の表舞台におどり出てリードした〉のでした。〈この「風」の中心同人に楸邨の「寒雷」所属の人々や楸邨と親しかった俳人が多かったのも、楸邨の主張と決して無関係ではなかった〉と筆者(寒太主宰)は指摘します。楸邨の主張とは、前号で述べられているように、当時楸邨が、〈俳句没落の不安を意識し〉て、〈人間的要請に立脚し、そこから自分の人間としてのあり方が生きるような表現を実現しようともくろみ〉、〈自分の中でその人間的要請を実証するために戦って〉いたことを指します。しかし、〈人間的要請の俳句的表現ということが、一個人の内面に執しすぎれば社会全体には触れていないではないか、そういう批判も当然のごとく出てき〉ます。〈「風」に拠り集った当時の若い俳人たちが、次第に社会性に目を転じて、個を社会というひろい場に引き出し、それとのかかわりの中から捉えようとしはじめていたのも、楸邨に育てられて来た若い俳人たちが、それらを超克して楸邨の執していた個を社会におしひろげていくひとつの過程としての動きだった〉と主宰は分析します。また、若い俳人たちが、〈世界的な冷戦への突入に伴い、右傾化、反動化し、再軍備〉する政治状態に対して〈戦争反対の政治的立場に立つとともに、「第二芸術」論の影響を受けて伝統的な花鳥諷詠に反発し〉たことも、その背景として挙げています。
炎環の炎
- 毎日新聞(12月16日)が「第19回毎日俳句大賞」の受賞者を発表。記事によると、一般の部応募総数8300句から、――
「大賞」〈みちのくは今もみちのく稲の花 結城節子〉=〈津波と原発事故は、大きな災害と悲しみをもたらしたが、みちのくがみちのくであることには、何ひとつ変わりはない。稲は今年も頼もしく花をつけた。みちのくの深層を詠んだ作〉と審査員大峯あきら氏が選評。
「一般の部優秀賞」〈鬼やんま法話の中を通りけり 添田勝夫〉=審査員大峯あきら氏は〈法座の最中の本堂へ、どこからか一匹の鬼やんまが入って来たかと思うと、悠々と外へ出て行った。南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)の名号を聞いたものは、空飛ぶ虫けらのたぐいでも成仏する、と経に説かれている〉と選評。
「一般の部入選」〈泣き砂の三月十一日の声 曽根新五郎〉〈時鳥今一生のどこらへん 戸田タツ子〉〈騎馬武者は一時帰村よ野馬祭 堀尾巌〉
「いのちの俳句・優秀賞」〈一人居のひとりの為の魂送り 中川志津子〉 - 「相馬御風顕彰俳句大会」(新潟県糸魚川市、11月29日)にて応募総数479句から、
・神野紗希選「特選」〈西瓜割るフォッサマグナの音立てて 北悠休〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)の「合評鼎談」が〈今年から新たな試みをスタート〉。〈1年間のホストを務める経験豊富な俳人に、シーズンごとに交代する気鋭の若手2人が切り込む〉もので、1月号から3月号までの〈第1期は高野ムツオ、田島健一、阪西敦子の各氏〉。1月号の「合評」で、高野氏が〈田島さんは42歳でしたね。昔の田園風景が体験の中にないのかな。1964年の東京オリンピックで街はガラッと変わりましたから〉と言うのに対して、田島健一は〈僕たちにとって歳時記の世界は一種のファンタジーなんです。これまで俳句をやってきた知識や経験である程度は読めるけれど、そこに自分の生きる実感があるかというと、正直なところ難しい〉と応答。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)1月号が「第10回角川全国俳句大賞」の選考結果を発表。応募総数10460句から、
・正木ゆう子選「特選」〈手をさして踊れば夢の叶ふかに 谷村鯛夢〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)1月号「平成俳壇」
・名村早智子選「秀逸」〈振り向かぬ影を見送る盆の駅 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)1月号「投稿俳句界」
・名和未知男選(兼題「山」)「特選」〈月山や芭蕉の道に虫すだく 高橋桃水〉=〈今でこそ「月山」は車で八合目まで登れますが、松尾芭蕉は強力を伴い、氷雪を登ること八里、息も絶え絶えに山頂に達しています。「おくのほそ道」のこのような記述を思い出しながら歩かれ、虫の音に耳を傾けられたのだと思います〉と選評。
・坂口緑志選「特選」〈山手線日暮里下車や獺祭忌 三角千栄子〉=〈根岸の子規庵はJR山手線日暮里駅と鶯谷駅の中程にある。獺祭忌は九月十九日。日暮里駅に降り立った作者は、子規への沢山の思いを胸に獺祭忌へ向かうのである〉と選評。
・鈴木しげを選「特選」〈秋うららなかなか泣かぬ泣相撲 高橋桃水〉=〈赤ん坊を抱いて東西から土俵にあがり、赤ん坊を見合わせ、先に泣き声をあげた方が勝つというほほえましい行事。この句の面白さは「なかなか泣かぬ」。お互いににこにこしている。まさに秋うららといったところ〉と選評。
・名和未知男選(兼題「山」)「秀作」〈ふたつ摘みひとつは土産山葡萄 三角千栄子〉
・岸本マチ子選「秀逸」〈秋うらら(前掲)高橋桃水〉 - 東京新聞「東京俳壇」
12月6日鍵和田秞子選〈菊くらべ紙一重なる確かな差 片岡宏文〉
12月20日小澤實選〈マイナンバー手渡されたり日向ぼこ 片岡宏文〉