2016年2月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)1月号の「俳誌の散歩道」に、石寒太主宰が「炎環」を紹介、〈「心語一如」のもとに、言葉にも情趣にも偏らず、内から噴出してくるこころをいちど沈静化して、自分のかけがえのない言葉として、いまを表現する俳句を求める。時代に迎合するのではなく、それらを敏感にとらえながら、他の芸術文化はもちろん、あらゆる分野と交響しつつ、そこで俳句でしかできないことは何かを判断し、俳句の独自性をめざしていきたい〉と述べています。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。2月号は「第35章 社会性俳句と楸邨の動向」。前章(1月号)は、桑原武夫の「第二芸術」論への批判でもあった、同人誌「風」を中心とする「社会性俳句」論議についてでした。その〈社会性俳句が盛んに行われたのは、昭和28年から31年ころの短い時期〉。本章では、まず社会性俳句の〈各俳人の話題の佳品を一句ずつ引いて〉列挙(全26句)、また社会性俳句に関する資料をリスト化して、読者の参考に供しています。一方、「第二芸術」論から「社会性俳句」に至る時期の楸邨はというと、昭和24年7月に第8句集『起伏』を刊行、昭和30年10月に第9句集『山脈』(「やまなみ」と読む)を刊行していますので、本章では次に句集『起伏』について、寒太主宰の書いた『加藤楸邨全集』別巻の句集解説によって紹介、つづけて、『山脈』に至るまでの楸邨の軌跡を、『全集』で寒太主宰がまとめた年譜によって辿っています。
炎環の炎
- 「第19回毎日俳句大賞」(毎日新聞社)が、応募総数約1万2500句(一般の部)を予備選考によって1041句に絞り、その中から11名の選者により各々が上位3句、秀逸10句、佳作30句を選出、その結果最終選考に残った79句から、再審査により、大賞1句、準大賞2句、優秀賞4句、入選24句を決定。
◎「大賞」〈みちのくは今もみちのく稲の花 結城節子〉=大峯あきら選「上位」・石寒太選「上位」
◎「優秀賞」〈鬼やんま法話の中を通りけり 添田勝夫〉=大峯あきら選「上位」・石寒太選「上位」
◎「入選」〈泣き砂の三月十一日の声 曽根新五郎〉=金子兜太選「上位」
◎「入選」〈時鳥今一生のどこらへん 戸田タツ子〉=大峯あきら選「上位」
◎「入選」〈騎馬武者は一時帰村よ野馬祭 堀尾巌〉=黒田杏子選「上位」
・最終選考まで入選候補作品として推された秀逸句
〈倒産やヘクソカズラは咲きのぼり 保屋野浩〉
〈背泳ぎの空に音無く戦闘機 岡島理子〉
〈八月の柱時計のねぢ巻けり 竹内洋平〉
・有馬朗人選「佳作」〈鬼やんま(前掲)添田勝夫〉
・宇多喜代子選「秀逸」〈汚染土の上に汚染土夏薊 加藤美代子〉
・大串章選「佳作」〈麦秋や母の文箱にちちの文 武田漣〉
・大串章選「佳作」〈八月の(前掲)竹内洋平〉
・大峯あきら選「上位」〈鬼やんま(前掲)添田勝夫〉=〈法座の最中の本堂へどこからか一匹の鬼やんまが入ってきたかと思うと悠然と外へ出ていった。南無阿弥陀仏の名号を聞いたものは、空飛ぶ虫けらのたぐいでも成仏する、と経に説かれている〉と選評。
・大峯あきら選「上位」〈みちのくは(前掲)結城節子〉=〈津波と原発事故は、大きな災害と悲しみをもたらしたが、みちのくがみちのくであることには何一つ変わりはしない。稲は今年も頼もしく花をつけた。みちのくの深層を詠んだ作〉と選評。
・大峯あきら選「上位」〈時鳥(前掲)戸田タツ子〉=〈あとどのくらいこの世にいることだろうか。誰にも答えのわからない、この問いがふと湧いてくることがある。意識の皮膜をはがすような時鳥の鋭い声を聞く夜中〉と選評。
・大峯あきら選「佳作」〈父へ剪る母の畑の菊の花 曽根新五郎〉
・小川軽舟選「秀逸」〈手首より外す時計や原爆忌 万木一幹〉
・小川軽舟選「秀逸」〈八月の(前掲)竹内洋平〉
・小川軽舟選「佳作」〈父へ剪る(前掲)曽根新五郎〉
・小澤實選「秀逸」〈倒産や(前掲)保屋野浩〉
・小澤實選「佳作」〈重箱のふたをあければ良夜かな 曽根新五郎〉
・小澤實選「佳作」〈背泳ぎの(前掲)岡島理子〉
・鍵和田秞子選「佳作」〈吾亦紅かなしきときは身を折りて 南風子〉
・鍵和田秞子選「佳作」〈倒産や(前掲)保屋野浩〉
・鍵和田秞子選「佳作」〈みちのくは(前掲)結城節子〉
・金子兜太選「上位」〈泣き砂の(前掲)曽根新五郎〉=〈東北地方大津波と福島原発の大被害が刻印のように印された日だ。「泣き砂」の声を聞く思いから離れられないということ。ちなみに今次大戦での東京大空襲が三月十日〉と選評。
・金子兜太選「秀逸」〈村ひとつ消えて蛍火強くせり 北悠休〉
・金子兜太選「秀逸」〈背泳ぎの(前掲)岡島理子〉
・金子兜太選「佳作」〈青空のふとおそろしき終戦忌 南風子〉
・黒田杏子選「上位」〈騎馬武者は(前掲)堀尾巌〉=〈相馬野場追いの歴史は古い。古式ゆたかな装束を着け、乗馬を子供の時から身につけてきた騎馬武者が、原発事故による各地の避難者より一時帰村して祭を挙行されるのです〉と選評。
・黒田杏子選「佳作」〈鬼やんま(前掲)添田勝夫〉
・津川絵理子選「佳作」〈日脚伸ぶ紙ヒコーキの設計図 伊藤航〉
・津川絵理子選「佳作」〈爽やかや音痴なれども祝歌 中川志津子〉
・石寒太選「上位」〈みちのくは(前掲)結城節子〉=〈3・11の震災を受けたみちのく。そのみちのくはいまはどうなっているのか。少し復興をみて、ようやく稲も実るようになった。下五の「稲の花」の季語がよく効いている〉と選評。
・石寒太選「上位」〈鬼やんま(前掲)添田勝夫〉=〈僧の読経がつづく中、鬼やんまがゆうゆうと頭の上を通りすぎていったという。状況を的確にとらえながら、何となくユーモア残る一句で魅かれてしまった〉と選評。
・石寒太選「佳作」〈重箱の(前掲)曽根新五郎〉
・石寒太選「佳作」〈九九いつもつかへしところさるすべり 波田野雪女〉
※結社別予選通過句数においては、「炎環」は52句で、「鷹」の92句につぐ第2位。 - 毎日俳句大賞の特別企画として同時募集した「いのちの俳句」、3000句近い応募の中から、「大賞」2句、「金子兜太賞」2句、「小川軽舟賞」2句、「優秀賞」16句を選出。
◎「優秀賞」〈一人居のひとりの為の魂送り 中川志津子〉=〈金子「これは、どなたかが死んで、魂送りをしている。全く一対一の思い出。ひとり暮らしの地の底につくような孤独感というかね、その寂しさをかみしめている句なんだな」、小川「たったひとりが、たったひとりの魂を送ったという寂しさですよね。茫々としたさびしさがある」、金子「自分もひとり暮らしなんじゃないかな」、小川「そうですね。それでおそらく、配偶者なんでしょうね。もう亡くなった魂を送る、そのひとりというのが」、金子「非常な孤独感がある。いのちをかみしめているといっていいかな」〉と両氏が選評。 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号「平成俳壇」
・山西雅子選「推薦」〈柿捥ぐを見てをり次郎貰ひけり 天野啓子〉=〈「次郎柿貰ひけり」でなく〈次郎貰ひけり〉であるところがこの句の妙味。赤子を抱くように大事に持って帰ったことだろう〉と選評。
・朝妻力選「推薦」〈東京の人へ手を振る島の秋 曽根新五郎〉=〈式根島にお住まいの作者。ここも勿論東京都でありますが、常時都区内に住んでいる人に対して〈東京の人〉という思いがあるのでしょう。季語が効果的で心情のよく伝わる作品です〉と選評。 - 総合誌「俳句界」(文學の森)2月号「投稿俳句界」
・高橋将夫選(兼題「手」)「秀作」〈野の風を手で抱へては萱を刈る 高橋桃水〉
・田中陽選(兼題「手」)「秀作」〈野の風を(前掲)高橋桃水〉
・田中陽選(兼題「手」)「秀作」〈案山子にも白き手を振る選挙カー 中村万十郎〉
・大串章選「特選」〈しばらくは喪服のままの秋思かな 曽根新五郎〉=〈葬儀後、しばらく喪服のまま故人のことを思っている。「秋思」とは本来、秋のころ心に感じ思うことであるが葬儀の後だけに一層その思いが深く強くなってゆく〉と選評。
・鈴木しげを選「秀逸」〈夕紅葉足になじみしスニーカー 藤井和子〉
・辻桃子選「秀逸」〈秋の蚊の非常ボタンに止まりをり 松本美智子〉
・夏石番矢選「秀逸」〈蟷螂の馬車はいまだに戻らざる 中村万十郎〉
・西池冬扇選「秀逸」〈秋の蚊の(前掲)松本美智子〉 - 毎日新聞「毎日俳壇」
1月4日大峯あきら選〈極月やふるさとにゐる父と母 辺見狐音〉 - 毎日新聞(2月2日)のコラム「季語刻々」(坪内稔典氏)が〈玉子搔き納豆を搔き春を待つ 関根誠子〉を取り上げ、〈「古事記」によれば、イザナギとイザナミの二柱の神は、天浮橋(あめのうきはし)に立ち、天沼矛(あめのぬぼこ)で混沌とした大地をかき混ぜる。すると矛からの滴りが積もって淤能碁呂島(おのごろじま)ができた。二神はその島で結婚、次々と国を産んでゆく。今日の句、その二神の気分で卵や納豆をかき混ぜている。春が生まれるのだろうか〉と鑑賞。句集『浮力』所収の句。
- 桐生タイムス(2015年10月6日夕刊)のコラム「きょうのうた」(杉みき子氏)が〈霧の始まりは改札口抜けて 近恵〉を取り上げ、〈簡単な用件で、あるいは単なる観光かなにかで、めったに来ることもないような小駅の改札口から出てみたら、そこに思いがけない霧が。もしかしたらこれは、このあと予想もしなかった事件に巻きこまれる前ぶれではないだろうか。などと先走って想像すると、なにやら恐怖ミステリーの発端のような気がしないでもない。思いがけない謎と陰謀に巻きこまれるヒロインの運命やいかに。まあ、単なる叙景ではあるのだけれど〉と鑑賞。句は角川「俳句」2013年11月号に発表したもの。
- 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)1月号の「ブックエリア」で渋川京子氏が柏柳明子句集『揮発』を取り上げ、「素顔の声は疾駆する」と題して、〈どの作品も自分の感じたものを自分のことばで表現しているところに、不思議な空間が漂っている。若さ故の孤立感、自虐性もこの作者にかかればまことに静か、大らかである。もともと備わっている自立の姿勢が力となって句が成立していると感じた。目の前に見えているものを通して、全身の感性とエネルギーを駆使して一句を完成させている。抑えたことばが眩しい〉と批評。
- 結社誌「港」(大牧広主宰)1月号の「秀句燦々」(主宰編)が〈大寒や横向いてゐる人体図 柏柳明子〉(句集『揮発』より)を抄出。
- 結社誌「歯車」(前田弘主宰)367号(1月1日発行)の「一書一句」(主宰編)が〈とんばうを数へ終らぬうちひとり 柏柳明子〉(句集『揮発』より)を抄出。
- 結社誌「沖」(能村研三主宰)1月号の「沖の沖」(主宰編)が〈打ち明けるごとく向ひし初鏡 柏柳明子〉(句集『揮発』より)を抽出。
- 総合誌「俳句αあるふぁ」(毎日新聞出版)2・3月号の「BOOKS」が柏柳明子句集『揮発』を取り上げ、〈どこかに「欠落」を抱えた世界観ながら、必ずしもネガティブな印象を受けない。それは俳句という詩形を通じた詩情によってその「欠落」が気丈な響きに変換されているからかも知れない。若いが侮れない作家である〉と紹介。
- 結社誌「歯車」(前田弘主宰)367号(1月1日発行)で吉田典子氏が岡田由季句集『犬の眉』を取り上げ、「一瞬のきらめき」と題して〈好きな句〉24句を選び鑑賞しつつ、〈とにかく発想や言葉が自在にはたらき、読み手を楽しませてくれる〉と批評。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団発行)2月号附録の「季寄せを兼ねた俳句手帖」が、ページの飾りに〈行く春や都電は音を轢きながら 増田守〉、「季寄せ」に〈大患の果ての失語や春浅し 増田守〉を採録。いずれも句集『序曲』所収の句。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号の「合評鼎談」で田島健一が「豚足の指そろへをる良夜かな」という句について、〈ユーモラスな句です。豚足を擬人化して、あたかも自分自身で指を揃えているようだと僕は読みました。実際は誰かが豚足の指を揃えておいているということでしょう。こういう主格とも読める〈の〉の書き方は一句に意外な主体が表れて効果的です〉と鑑賞、これを受けて高野ムツオ氏は〈田島さんの鑑賞を聞くと、なるほど、この〈豚足の指〉はそのようにも読める。とても面白い鑑賞だ。普通に言おうとすると「指そろひをる」ですね〉と発言。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)2月号の「句会レポート」にたむら葉が「第8回高津全国俳句大会」の模様を報告、〈当日のトークショーは石寒太氏と直木賞作家の安部龍太郎氏。寒太氏と龍太郎氏の出会いから長年の交友まで様々なエピソードをはさみながら生き生きと語られた。さらに寒太氏の時代・歴史小説家との出会いや、池波正太郎・津村節子・吉村昭・藤沢周平・司馬遼太郎・新田次郎各氏などとの交流や俳句作品について話が弾んだ。龍太郎氏からは歴史小説と『等伯』が生まれるまでの苦労話も語られた〉と記述。