2016年4月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。4月号は「第37章 『起伏』とその時代」。前章(3月号)に引きつづき、楸邨の第8句集『起伏』(昭和24年7月刊)についてです。この句集には、《虹消えて馬鹿らしきまで冬の鼻》《鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる》《猫と生れ人間と生れ露に歩す》などの〈滑稽句がみえ〉、〈前句集『野哭』にあった、例えば《雉子の眸のかうかうとして売られけり》また《死ねば野分生きてゐしかば争えり》の句にみられた鋭い主観や慟哭は影をひそめ、少し余裕さえみられる。それは何故だろうか〉と寒太主宰は問いかけます。そして、その答えを、楸邨が昭和23年3月肋膜炎に倒れて闘病生活に入ったこと、すなわちそれは〈戦中・戦後の長い論戦によって心身ともに疲れ果て、ついに病臥の身となった〉ことに求め、〈病臥のために気息を沈静化され、冷静に自己をみつめる距離を、自分の中で保つことが出来るようになった〉からだと分析します。こうして句集『起伏』は、楸邨が、〈つきまとっていた観念的なものから脱して、つとめて実体を生かし即物的な身近なものから俳句を詠もうと一歩踏み出しはじめた〉ことにより、〈訴えかけるという強いことばへの牽引力からも身を退けようとしている〉と評しています。
- 結社誌「俳句饗宴」(鈴木八洲彦主宰)3月号の「俳誌燦燦」(主宰)が、「炎環」2月号より〈湯あがりの顔のほてりよ猫の髯 石寒太〉を抄出。
炎環の炎
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)4月号「平成俳壇」
・星野高士選「秀逸」〈五穀米硬めに炊かれ文化の日 原紀子〉
・星野高士選「秀逸」〈追伸の青きインクの年惜しむ 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)4月号「投稿俳句界」
・名和未知男選(兼題「高」)「特選」〈煤逃のスカイツリーの高きまで 中村万十郎〉=〈十二月になると「煤逃」を季語とする句が多数寄せられます。本屋へ行ったり、パチンコをしたり……。中村さんの「煤逃」はスカイツリーにまで逃げるのですから雄大です。富士山や筑波山も見えるのでしょうね。ユニークな「煤逃」の句が誕生〉と選評。
・夏石番矢選「特選」〈鮟鱇もキリストももう降りられよ 中村万十郎〉=〈売り場に吊り下げられる醜い深海魚と刑場の十字架に晒されるイエス・キリストの類似。いずれも常人から侮られた存在ながら、超越的特性がある。原句の「下りられよ」を「降りられよ」に改めた〉と選評。
・夏石番矢選「特選」〈自由猫だよ山頭火だよ寒い 堀尾巌〉=〈定住者は飼い殺しの生活を耐え忍ばなくてはならない。そこから離脱した自由とは聞こえがいいが、単独者かつ漂泊者には、常ならぬ寒さが待ち構えている。しかし、この一句には、どこか明るさが垣間見られる〉と選評。
・高橋将夫選(兼題「高」)「秀作」〈綾取の富士の高嶺を子に渡す 高橋桃水〉
・田島和生選(兼題「高」)「秀作」〈高階の病室なりし小鳥来る 辺見狐音〉
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈雪吊ややんちゃな枝は宥められ 高橋桃水〉
・鈴木しげを選「秀逸」〈鮟鱇もキリストももう下りられよ 中村万十郎〉 - 朝日新聞「朝日俳壇」
2月29日長谷川櫂選〈七十年虚し建国記念の日 池田功〉
3月7日長谷川櫂選〈春一番これから先も夫婦かな 池田功〉 - 「第17回虚子・こもろ全国俳句大会」(小諸市、4月29日)
◎「信濃毎日新聞社賞」〈夕月やまだ光ある千曲川 丑山霞外〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)4月号の「精鋭16句」に岡田由季が「接触」と題して、〈葱坊主同士もたまに接触す〉〈怖き夢思ひだしつつ泳ぐなり〉〈半分は機械が塞ぐ窓の雪〉など16句を発表。
- 「しょっぱい五・七・五 俳句コンテスト」(伯方塩業株式会社)が応募総数18379句から、グランプリ2句、準グランプリ6句、入選20句を決定。
◎「入選」夏井いつき選〈涙が落ちたほうの鯛焼きを下さい 大澤徹也〉=〈泣きながら鯛焼きを焼く?買う?もし私が売り手なら全部の鯛焼きに涙を落とすかもしれません〉と選評。 - 結社誌「鬣TATEGAMI」(林桂代表)第58号(2月20日)の「書評」において、永井貴美子氏が柏柳明子句集『揮発』を取り上げ、8句を選んでそれぞれ鑑賞。そのうち《梨剥いて360°ひとり》に対しては、〈刃物を持って梨を剥いている人がいる。そこを中心にカメラを外に向ける。もしくはカメラが俯瞰になり、そこには誰ひとりいない。この孤独に淋しい感じがしないのは梨の持つ光だろう。その光を解放した瞬間異空間に運ばれてしまったような感覚〉と記述。
- 結社誌「歯車」(前田弘代表)368号(3月1日)の「句集の散歩道」において、杉本青三郎氏が柏柳明子句集『揮発』を取り上げ、〈日常使用されているカタカナ言葉、これを使った句が違和感なく登場する。カタカナ言葉は作者の中で使い込まれていて、作者の言葉となっている〉、〈作者は、音や音楽に敏感であると思われる。日常生活の音に、常に敏感に過ごされているように思われる。冷蔵庫の音とか、機械音にも敏感なのであろう〉、〈カタカナ言葉や音がベースとなった句が、この句集の代表作となっている〉と批評。
- 結社誌「繪硝子」(和田順子主宰)3月号の「現代俳句鑑賞」(下島正路氏)が〈寒波来るペントハウスの家族葬 増田守〉〈クリスマス介護ホームの個の世界 増田守〉を取り上げ、〈作者は「社会の実相を直視し、心に投影されたものを自ら選び取った言葉で表すように努めている」と述べているが、実に社会の現状を深く考えさせられる作品である〉と鑑賞。「俳句」12月号に発表の句。