2016年8月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。8月号は「第41章 句集『山脈』とその時代(三)―高村光太郎との邂逅」。昭和26(1951)年の秋、〈楸邨は詩人の高村光太郎氏を、東北花巻の山中に訪ねた。人間の邂逅は回数でははかれない。たった一回きりではあったが、光太郎との出会いは、楸邨にとって生涯忘れられないものになった〉と筆者(寒太主宰)。光太郎68歳と楸邨46歳の邂逅でした。光太郎はこの5年後に世を去ります。〈句集『山脈』のひとつのピークは、病臥後の回復期「浅間の麓 二十六句」の連作群。そして、もうひとつは、句集の後半に位置する「岩手に高村光太郎を訪ひて 九句」の塊であろう〉として、本章ではこの光太郎との邂逅に焦点を当て、「私の中の高村光太郎」と題する楸邨の文章を引用しつつ、この出会いが楸邨にとっていかに重要な意味を持ったかを述べています。そして筆者(寒太主宰)は次のようにも分析しています。すなわち、〈詩人・歌人の中で、高村光太郎と斎藤茂吉のふたりが、楸邨にとっては特に思い出深い人物として綴られたり、語られたりしている。ふたりは、戦争中の戦争協力者として、一時戦犯者の指摘を受けている。楸邨が戦中も戦後も一貫してこれらの詩・歌人にひたむきな尊敬の念を傾けたのは、先述した中村草田男からの身に覚えなき戦争批判を受け、自分の道とほぼ同じような傷痕の著しい典型的なふたりの大詩人に触れていたいという、その身の寄せ方に特に親しみを覚えた、ということにあったのだろう。〉
- 総合誌「俳句界」(文學の森)8月号が、「炎環」全国俳句大会in松山(6月4日・5日)について、グラビア「俳句界ニュース」に集合写真と記事を掲載、「句会レポート」のページでは、たむら葉の報告による吟行・懇親会・句会の模様と、石寒太主宰の特選3句(天・地・人)、本選5句を掲載し紹介しています。
- 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)7月号の「今、伝えたい俳句 残したい俳句」(布川直幸氏)が、《「炎環」に人の種蒔き芽生えけり 石寒太》を取り上げ、〈結社は人が拠らなければ、その存続は叶はない。そのために人の種を蒔く。その種が芽生えを見せたときほど主宰冥利に尽きることはない。「人の種蒔き芽生えけり」の措辞の裏側には、人を育てることに対する並々ならぬ決意と慈しみが隠されてゐる〉と鑑賞しています。
炎環の炎
- 増田守が、第四句集『虚数』を、角川文化振興財団より7月25日に刊行。序に石寒太主宰が「虚数讃――ほんものの詩(うた)」と題した詩を寄せていわく、〈ほんとうのことをいうと、ウサン臭がられ、/うとまれる。/でも、真実を表現しないと、poemは生まれない。/守さんは、はじめからずっとほんとうのことだけを、/俳句の中で詠みつづけてきた。/こんども、そこに一本筋が徹っている。/虚数は実数でない複素数。/でも、実数になることが夢。/句集『虚数』は、/詩だ。/ほんもののうたである。〉と。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)8月号の「作品12句」に、齋藤朝比古が「陰暦」と題して、〈陰暦に暮して新茶酌みにけり〉〈朴の花とほくの人へ開きけり〉〈強と弱くらべてゐたり扇風機〉など12句を発表。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)8月号の「今日の俳人」に、谷村鯛夢が「空耳」と題して、〈伊予の春お好きな句はと聞かれけり〉〈水軍の〇上の旗大南風〉など7句と短文を発表。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)8月号「平成俳壇」
・名村早智子選「秀逸」〈草千里千里の風の光りけり 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)8月号の「俳句会への招待――注目の俳人をピックアップ!!」に、たむら葉が「星砂」と題し、〈沖縄忌小瓶の星砂に落暉〉など5句を発表。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)8月号「投稿俳句界」
・大高霧海選(題「水」)「秀作」〈春愁の水一滴のありがたさ 金川清子〉
・大高霧海選(題「水」)「秀作」〈春愁の広がつてゐる水輪かな 曽根新五郎〉
・高橋将夫選(題「水」)「特選」〈食む音の水音となる春蚕かな 高橋桃水〉=〈たくさんの春蚕がざわざわと桑の葉を食べている。その音が水音のようだという。せせらぎの水音と捉えた感性に強く共鳴した。「食む音の水音」は、きれいな繭と美しい絹に繋がっているように思えてくる〉と選評。
・高橋将夫選(題「水」)「秀作」〈「水滸伝」好きだと言へば鮨食へと 中村万十郎〉
・田中陽選(題「水」)「特選」〈生き者の殺し合ふ星水温む 堀尾巌〉=〈「水温む」春のおとずれの歓びを一転、「生き者の殺し合ふ星(地球)」といった刺激的な言葉にかえて思索する。その思索の果ては当然、“人間”におよび、日本国憲法九条の理念に行き着く(「生き者」をあえて原句のままとした)〉と選評。
・田中陽選(題「水」)「秀作」〈食む音の(前掲)高橋桃水〉
・名和未知男選(題「水」)「秀作」〈食む音の(前掲)高橋桃水〉
・能村研三選(題「水」)「秀作」〈春愁の(前掲)曽根新五郎〉
・今瀬剛一選「秀逸」〈たんぽぽの絮飛ぶ光の母の里 中村万十郎〉
・古賀雪江選「秀逸」〈行く春を庭の箒で戻しけり 高橋桃水〉
・佐藤麻績選「秀逸」〈青蜥蜴すこし遅るるパーカッション 長濱藤樹〉
・辻桃子選「秀逸」〈足尾芽吹くや訂正印の直訴状 中村万十郎〉
・原和子選「秀逸」〈非常口ひらきし桜吹雪かな 曽根新五郎〉 - 朝日新聞「朝日俳壇」
6月27日長谷川櫂選〈タウン誌の取材来てをり氷店 渡邉隆〉
7月11日長谷川櫂選〈炎天に取り残されし投手かな 渡邉隆〉
7月25日金子兜太選〈水脈を空へ空へと夏木立 渡邉隆〉 - 「第278回松山市観光俳句ポスト」(松山市・5月31日開函)が投句総数1266句の中から、特選3句、入選20句を選出(櫛部天思選)。
・「特選」〈飛び石を伝ひ庚申庵涼し 藤田良〉
・「入選」〈筒井門の無病息災梅雨に入る 中島領子〉
松山市観光俳句ポストは、松山の主要観光地や道後温泉のホテル・旅館、路面電車や四国八十八ヵ寺など90ヵ所以上に、また、小説『坂の上の雲』ゆかりの県外の都市にも10ヵ所以上に設置。松山市は特選句をポスターにして市内電車や観光地などに掲示。
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/haiku/haikuposttokusen.html - 「第17回隠岐後鳥羽院俳句大賞」が選考結果を発表(4月5日)、応募総数1929句から4人の選者がそれぞれ特選1句、準特選1句、入選28~30句、佳作29~31句を選出のうえ、7句の入賞を決定。
・稲畑汀子選「佳作」〈月を待ち鬼の控へし隠岐神楽 髙山桂月〉
・宇多喜代子選「入選」〈泣くやうに流人の島の踊かな 曽根新五郎〉
・宇多喜代子選「佳作」〈行在所跡の鉄柵草ひばり たむら葉〉
・宇多喜代子選「佳作」〈冬の雲手のひらほどの皇子の墓 村内徒歩〉
・石寒太選「佳作」〈行在所(前掲)たむら葉〉
・石寒太選「佳作」〈花過ぎの小さき島の火葬場 棗楕伊〉
・石寒太選「佳作」〈冬の雲(前掲)村内徒歩〉
・石寒太選「佳作」〈上皇の島の子の礼今朝の秋 伊藤航〉
・石寒太選「佳作」〈泣くやうに(前掲)曽根新五郎〉
・石寒太選「佳作」〈上皇の無念の怒涛冬の隠岐 鈴木経彦〉
・小澤實選「入選」〈花過ぎの(前掲)棗楕伊〉
・小澤實選「入選」〈上皇の(前掲)伊藤航〉
・小澤實選「入選」〈行き渡る島のサイレン冬紅葉 武知眞美〉 - 結社誌「響焰」(山崎聰主宰)7月号の「現代俳句の窓」(森村文子氏)が、《ひつそりと靴擦れをして鳥曇 岡田由季》を取り上げ、〈何事もないように歩いているのだが、靴下のなかで微かに血が滲み、疼いている靴擦れ。それだけしか言っていないのに、作者の哀しみがわかってしまう。茫洋とした、鳥たちの羽ばたきが聞こえるような季語も効いている〉と鑑賞。句は「俳句四季」4月号より。
- 結社誌「秋」(佐怒賀正美主宰)6月号の「現代俳句句集評」(二宮洋子氏)が、柏柳明子句集『揮発』を取り上げ、5句を選んでそれぞれ鑑賞。そのうち、《緋のダリアジャズシンガーの揮発する》に対しては、〈ジャズの即興と灼熱。歌手とダリアの緋色が渾然となり、熱気につつまれる。常温で液体が気化するように、著者は家常の些事から瞬時に詩を発見するということであろうか〉と記述。全体として〈詩藻に富んだ、それでいて随所に清潔な抒情を感じることができる第一句集である〉と批評。
- 愛媛新聞6月12日のコラム「季のうた」(土肥あき子氏)が、〈てのひらの闇ごとわたす螢かな 宮本佳世乃〉を取り上げ、〈立っている暗がりよりも、手のひらに包む闇がずっと濃く感じられるのは、魚が水にすむように、蛍には闇がなければ生きていけないように思われるからだろう。闇という言葉には暗さだけではなく、得体の知れない不安も含まれており、手渡されるものの重さが際立つ〉と鑑賞。句は句集『鳥飛ぶ仕組み』より。
- 結社誌「多摩青門」(西村睦子主宰)夏号に、三輪初子が「多摩青門2016春号感想」と題して、同誌より10句を選んでそれぞれ鑑賞。《烏瓜閻魔の抜きし舌の数》に対しては、〈烏瓜を、閻魔様が嘘を吐いた人間から抜いた舌に見立てたのでしょうか? 天辺のは誰の舌? 下の方にあるのは誰の舌かと、幽界の物語が生まれそう。閻魔の登場に衝撃がはしった〉と、《初電話歩けぬ兄と山のこと》に対しては、〈足の御不自由なお兄様との初電話の内容は、その昔、お元気だった頃お二人で山遊びを楽しんだお話などであったかと思う。たった五七五の中七に兄を思う弟のやさしさが伺えて、言葉の選択の技が光る〉と記述。
- 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)7月号の「特別作品」に、三井つうが「冬の空」と題して、〈来し方の句点読点蕗の薹〉〈ときどきはさくらにとけてバスを待つ〉〈冬の空高し「なあんだそうなんだ」〉など10句を発表。
- 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)7月号の「テーマの一句『海』」にイザベル真央が、〈九十九里五月の海の定食屋〉を投句。