2017年11月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 石寒太主宰が、第7句集『風韻』を、紅書房より11月1日に刊行しました。宇多喜代子氏がその栞に祝辞を寄せ、〈《冬近し賢治未完のままの宙》《乾鮭に塩振るたびの綺羅羅かな》《硯にも海坂のあり秋の蝶》 石寒太の俳句には、夢や幻を追うような難解な嘘がない。過剰な装飾や知識や薀蓄の偏重もない。自身が生きて、見て、感じたところから自らの内部の意識とことばに近づいてゆく。ことばで接するのにもっとも至難である「生」や「死」が、ごく自然に句の中で無理なく自身のテーマとして表現されているのも、他人の考えや他人のことばではなく、石寒太自身の思い、石寒太のことばで作品化されているからであろう〉と述べています。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。11月号は「第56章 句集『まぼろしの鹿』時代(一)」。本章より、楸邨が62歳のとき(昭和42年)に刊行した第10句集『まぼろしの鹿』を読み進めます。この句集は、楸邨48歳から61歳までの1,149句を収めていますが、句の選択は楸邨自身ではなく、森澄雄・矢島房利両氏の判断によっており、のちに楸邨は、『加藤楸邨全集第三巻・俳句三』(昭和55年刊)において、森・矢島の初版本に353句を加え、総句数1,502句としています。このところの事情を、全集の編集に携わった筆者(石寒太主宰)は、〈『まぼろしの鹿』は14年間の作品で、かなりの句数を一冊に纏めるという編集上の都合から、半数近い俳句を割愛せざるを得なくなった。その削られた作品の中には、楸邨としてはかなり愛着が深い作品があったようで、それを全集発刊の折に再び補っている。(楸邨は初版本を)よくよく覗めてみると、かなり自身としての愛着の句が省略されているのを憐れんで、全集によっての復活を試みた、そうみていいだろう〉、そして増補の結果、全集において〈本句集はほぼ本来の姿をとりもどすことが出来た〉と、本章で語っています。
- 結社誌「からまつ」(由利雪二主宰)10月号の「名句探訪」(安藤精重氏)が、「炎環」5月号より石寒太主宰の3句《さくら蕊降る無出撃の特攻艇》《一番船待つ卒業の島の子よ》《黄塵の只中一村美術館》を取り上げ、それぞれ鑑賞しています。《さくら蕊》の句に対しては、〈桜の花びらが散ったあとの、萼に付いている蕊がこぼれる様に降る。晩春の静かな気分を喚起させる。太平洋戦争の末期、若い軍人が、自分の乗った魚雷ごと突入して、敵艦を撃沈させようとしたが、これも適わず日本は無条件降伏の敗戦を迎えた〉と書いています。
- 結社誌「母港」(西山常好主宰)第85号(11月)の「諸家近詠(受贈誌より)」において、西山主宰が各誌から1句を抄出している中で、「炎環」からは《人間の鎖のつづく雲の峰 石寒太》を記載しています。
炎環の炎
- 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号の「作品6句」に、増田守が「途上」と題して、〈子育ての途上勤労感謝の日〉〈蔦枯るる生命維持のプログラム〉など6句を発表。
- 「第9回石田波郷俳句大会」(東京都清瀬市10月29日)が、応募総数2,230句の中から選者7名によるそれぞれの特選3句、入選10句を発表。
・石寒太選「特選」〈なにごともなき日の髪を洗ひけり 結城節子〉
・鈴木しげを選「入選」〈故郷に残る悲話あり水喧嘩 高橋桃水〉
・高橋悦男選「入選」〈棲み古りし団地の空や鳥渡る 増田守〉
・能村研三選「入選」〈桷の花の白き微熱や山の音 山口紹子〉 - 「第71回芭蕉祭」(三重県伊賀市10月12日)が、今年度芭蕉翁献詠俳句として応募された一般の部総数8,821句の中から選者17名によるそれぞれの特選2句、入選20句を発表。
・鍵和田秞子選「特選」〈背泳ぎの車輪の腕や雲白し 松本美智子〉
・宇多喜代子選「入選」〈母の日の家族の一部始終かな 渡邉隆〉
・黒田杏子選「入選」〈全島の停電中の良夜かな 曽根新五郎〉
・塩田薮柑子選「入選」〈青嵐熱戦つづく若き棋士 下田恭子〉
・西村和子選「入選」〈鍵かけることなき島の鬼やらい 曽根新五郎〉
・星野椿選「入選」〈産声のあがりし島の良夜かな 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号「投稿俳句界」
・有馬朗人選「特撰」〈父は子に永劫撃たる水鉄砲 中村万十郎〉=〈水鉄砲を買ってやると子供は喜んで何にでも水をかけようとする。父親は人にかけてはだめだと教える。すると今度は父親を的にする。だめだとしかってもきかない。でも父親は子供の元気の良いことを喜んでいる〉と選評。
・中西夕紀選「秀作」(題「無」)〈無表情な母となりけり沙羅の花 いなだ伊佐木〉
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈顔よりもスキンヘッドの汗を拭く 高橋桃水〉
・大串章選「秀逸」〈日焼の子親の喧嘩を仲裁す 高橋桃水〉
・佐藤麻績選「秀逸」〈遠ざかるやうに近づく天使魚 曽根新五郎〉
・辻桃子選「秀逸」〈道問へば山百合の咲く家といふ 辺見狐音〉
・夏石番矢選「秀逸」〈八月の影みな老いてしまひけり 曽根新五郎〉
・西池冬扇選「秀逸」〈潮焼けの船長鳴らす葬の鐘 松本美智子〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)11月号「平成俳壇」
・井上康明選「特撰」(題「故郷の道」)〈黒潮も銀河も太平洋の道 曽根新五郎〉 - 朝日新聞「朝日俳壇」
・10月2日長谷川櫂選〈春愁と別れ秋思とまた出会ふ 渡邉隆〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号の「句会レポート」が「「炎環万燈会」月見の会」について波田野雪女による報告を掲載。9月17日東京の新宿京王プラザホテルで行われた当会、〈台風18号の直撃で雨風が強い生憎の空模様であったが、遠路新潟、群馬を始め21名の炎環人が月なき中空45階に参集した〉と記述し、当日の石寒太主宰による特選句、本選句を紹介。また、会について、〈「万燈会」は石寒太主宰参加の式根島吟行の手厚いもてなしへの御礼として、7年前に始まった。この素敵なネーミングは45階の首都の夜景を望んだ主宰即決の命名である。「万燈会」は7年間の使命を了る。今日の月見の会を以て、発展的解消をすることとなった〉と記載。〈万灯の一つ消えたる良夜かな 波田野雪女〉が主宰特選「天」の句。