2017年12月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。12月号は「第57章 句集『まぼろしの鹿』時代(二)」。本章では、まず句集『まぼろしの鹿』の第1句目《希みあれ枯山越ゆる鳥見えて》を鑑賞、次に〈注目すべきはその数句後にある「原爆図七句」と前書きがある連作である〉としてその7句を掲げ、〈全集では「七句」となっているが、句集の初版本では(初めの)3句のみ。次の4句は、新たに加えられた補遺の句である。森澄雄、矢島房利の削った4句を復元しているのだ。楸邨は削るには忍びず、全集で補ったことになる〉という点を、前章に続いてここでもまた触れた後、その中の2句《原爆図中口あくわれも口あく寒》と《壁に対へば冬まぼろしの原爆図》を鑑賞します。そして、〈この原爆図の連作のあと、「雪国の旅」の連作がつづく。『まぼろしの鹿』では、途中の手術・大患の一部をのぞいては、他の句集と比べると、圧倒的に旅の句が多い〉ことを指摘します。実際に楸邨は盛んに旅に出ていました。『まぼろしの鹿』は昭和28年から41年までの句を収めていますが、その間に楸邨が、いつ、どこを、だれと、何の目的で旅したか、筆者(石寒太主宰)は年表からその部分を拾い集めて一覧します。そのあとは、〈句集の中心ともなっている〉38句を、句集全体から抜き出して一挙に並べ、そのうちの3句《人焼くや飛驒の青谷蟬が充ち》《寒卵どの曲線もかへりくる》《花を拾へばはなびらとなり沙羅双樹》について、筆者(寒太主宰)の著書『加藤楸邨一〇〇句を読む』からの引用によって鑑賞します。
- 毎日新聞11月27日の「歌壇俳壇」面の新刊案内が、石寒太句集『風韻』を取り上げ、〈主宰誌「炎環」の創刊30周年を記念して刊行の第7句集。入院の句などもあるが、かつての大病を克服し積極的に各地へ出かけて得た作品を中心にまとめた。亡き師、加藤楸邨を心に置いた句も多い。《隠岐泊り仰ぎてひとつ流れ星》〉と紹介しています。
- 朝日新聞12月10日の「歌壇俳壇」面の新刊案内が、石寒太句集『風韻』を取り上げ、〈30周年を迎えた「炎環」主宰の第7句集。病を経て、いのちを穏やかに見つめる。《いかのぼり風のいのちにつながれり》〉と紹介しています。
- 総合誌「文学界」(文學の森)12月号の特集「平成俳句検証」における「平成を代表する句、平成を代表する俳人」というアンケートで、中里麦外氏が平成を代表する「句」として、《いのちひとつ爆忌ふたつや今朝の秋 石寒太》を選び、〈この句は、一切の説明を排して、原爆の不条理が示されている〉とコメントしています。
- 結社誌「蘭」(高﨑公久主宰)8月号の「俳句月評」(髙橋美登里氏)が、《葉桜のまつ只中へ生還す 石寒太》を句集『生還す』より取り上げ、〈平成11年、突然大腸ガンを宣告され、入院、手術、生存率40パーセントからの生還を果たされた。病は気からの言葉通り、氏は早く治してみんなと俳句を作り度い一念から、快方に向い、二度目のがんも克服され、執筆活動に意欲的に取り組まれておられる。書店でページを繰っていて購入したのが、石寒太、谷村鯛夢共著、『脳活俳句』入門で、俳句はつきつめると生と死を詠むことであり、俳句は生活の日記として詠えばよいと述べておられる。俳句の根幹は短かさと定型のリズム。約束があるからこそ面白く、楽しいのであると。まさに俳句礼賛の一書、大いに元気を頂け、俳句と共に歩み、脳を活性化させ続けたいもの〉と鑑賞しています。
- 結社誌「沖」(能村研三主宰)12月号の「現代秀句鑑賞」(大矢恒彦氏)が、《ぽこぽこぽ楸邨乗り来茄子の馬 石寒太》を取り上げ、〈(作者は)「俳句界」に『牡丹と怒濤・加藤楸邨伝』を長期に連載。楸邨のすべて、短歌まで、語り尽くそうとしている。楸邨の句《天の川わたるお多福豆一列》が浮かんでくる。楸邨の人柄の一面と作者の楸邨への傾倒が伺える〉と鑑賞しています。
炎環の炎
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伊藤航が、句集『縁 えにし』を、紅書房より11月17日に刊行。序文を石寒太主宰が「航さんとの縁――『縁 えにし』の船出を祝う」と題して認め、〈航さんの愛妻俳句は広く知られていて、挙げ出したら、切りもなく妻の俳句は出てくる。妻だけではなく、航さんの句には、父母や子への愛情深い句も多い。この人は基本的に慈愛の人、こころの優しい人なのである。さて、この齢になると、いくつか俳号を付けることを依頼される。いくつか頼まれて命名した俳号の中では、私としては「航」はかなり気に入っているひとつである。いまはもう航さんなしには炎環は回らない、そういうほどの中心人物となっている。航さんは自分では少し抜けたところもある、と謙遜してはいるが、外面的には何を依頼してもしっかりと計画しきっちりと正確に仕事をこなしてくれる。「炎環25周年記念祝賀会」や「第1回炎環全国俳句大会in松山」は、航さんがいなかったら成り立たなかったように思う。この句集の結びは、《神仏の定めし縁合歓の花》となっている。この縁を大切に、これからも我々の中心として頑張って、「炎環」を引っ張って行って欲しい〉と紹介。
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常盤優が、句集『いきものの息』を、紅書房より11月17日に刊行。序文を石寒太主宰が「常盤優句集『いきものの息』の伝えるもの」と題して認め、〈生物学を教えることを生業に、またアマチュア天文家として過ごし、太陽や火星ほかの観測を長くつづけてきた優さんが、星や星座を沢山の俳句に詠み込んでいることは、当然すぎるほど自然な成行きだったことと思われます。彼女は、外から他人に“理系俳人”といわれることはあまり好きではないようです。でも句を読み進んでいくと、やはり賢治の存在は一時も無視できません。そして、とうとうみつけました。《遠花火賢治の「あかいめだま」どれ?》。作者の作品を読み返して、顕しいのはもちろん星。それ以上に多かったのは、生き物たちを詠んだ句でした。生物学を生業として来た作者からして、これは当然だったといえましょう。この句集は一読して小さないのちに焦点をあてています。作者の生き方をかえていったのも生きものたちかも知れません。彼女の生きもの讃歌に、これからの俳句に、ますます期待しているのは、私だけではありません〉と紹介。
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竹内洋平が、句集『f字孔』を、紅書房より11月17日に刊行。序文を石寒太主宰が「句集『f字孔』讃――ことばの力」と題して認め、〈洋平さんは、幼少時代から楽器演奏に親しみ、大学ではオーケストラ立ち上げの一員となり、また社会に出てからも市民オーケストラのリーダーを長年勤めてきた。俳句の方は、美穂夫人が25年以上も親しんでいるのを横目で眺めながら、まったく興味を示さず、ひたすら自分は音楽に熱中してきたらしい。ちょうどそんなころ、「オケの代表任期もずいぶんと長くなってしまった。なにかほかのものに目を向けてみよう」。そう考えはじめたころ美穂夫人の俳句雑誌をぱらぱらめくっていたとき、《生も死もたつた一文字小鳥来る 寒太》の一句が目に止まり、それまで抱いていた俳句のイメージが一新した。それが「炎環」入会のきっかけともなった。それ以後の洋平さんの俳句へののめり込み方は、凄まじいものがあった。その成果が、この一冊の句集『f字孔』である。俳句は句歴がすべてではない。集中した努力の成果が一気にして輝くということもある。『f字孔』がまさにそれを証明してくれている〉と紹介。
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三輪初子が、エッセイ集『あさがや千夜一夜』を、朔出版より11月25日に刊行。序文を石寒太主宰が「もうひとつの顔」と題して認め、〈初子さんには、すでに『初蝶』『喝采』『火を愛し水を愛して』の三冊の句集がある。初子さんはその間さまざまなところに短文を断片的に書かれている。そのエッセイはなかなか軽妙洒脱で面白い。そこで内容を好きな映画に関するものに絞って、「炎環」の2015年1月号から17年3月号まで連載してもらった。「炎環」30周年を記念として、次の句集を出版したいと申し出があった時、ぜひ、エッセイも入れたらどうか、と提案したのはこの私である。が、いろいろ考えてのことであったろう。彼女は、エッセイ集だけで一冊を纏めることにした。この本は7つの章によって構成されている。が、やはり何といっても興味深いのは、映画にまつわるエッセイであろう。誰がいつどこから読んでもいい。初子さんのやさしいサービス精神が、心をとらえて離さないことであろう。初子さんのあたたかい心が、誰にでも伝わってくるに相違ない。“文は人なり”、初子さんのもうひとつの顔を発見できる、そんな心あたたまる一集である〉と紹介。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)12月号の「作品6句」に、深山きんぎょが「黄落期」と題して、〈秋深し無菌無音の検査室〉〈墨東や袋小路に聖樹の灯〉など6句を発表。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)12月号の「精鋭10句競詠」に、宮本佳世乃が「木の裂けて」と題して、〈飛蝗とぶ脈を探してゐる右手〉〈皮膚に色重なり霧の森のなか〉〈紅葉且つ散る木の裂けてゐるベンチ〉など10句と短文を発表。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)12月号「投稿俳句界」
・田中陽選「秀作」(題「足」)〈足跡は浜昼顔のところまで 曽根新五郎〉
・中西夕紀選「秀作」(題「足」)〈青北風や開くことのなき具足櫃 長濱藤樹〉
・鈴木しげを選「秀逸」〈殉教の島へ行く船秋日和 松本美智子〉
・山田佳乃選「秀逸」〈天水を使ひし島の大暑かな 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)12月号「平成俳壇」
・井上康明選「秀逸」(題=故郷を詠む)〈大漁祭太平洋に囲まれて 曽根新五郎〉 - 読売新聞「読売俳壇」
・12月12日矢島渚男選〈無住寺の檀家総代障子貼る 堀尾笑王〉