2018年2月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 毎日新聞2月1日「文化」面に井上卓弥記者が、〈炎環創刊30周年 「心語一如」をモットーに 創刊の精神受け継ぎ、新しい変化へ〉の見出しで、〈俳誌『炎環』(石寒太主宰)の創刊30周年を記念した祝賀会が1月21日、東京都内のホテルで開かれ、作家の半藤一利さんらゲストのほか、俳壇・歌壇の関係者ら約400人が集まり、大きな節目を祝った。/石さんは「超結社の同人誌『無門』を引き継いだ『炎環』の出発は昭和の終わり。当時の俳壇は、心で俳句を作る伝統的な“抒情派”と言葉をたくみに駆使する“ことば派”の両極端に流れていた。『炎環』はいずれにも偏らず、それらを敏感に捉えながら、いま一番大事なものを切り取る『心語一如』をモットーとしてやってきた」と振り返った。/『炎環』創刊号では、あらゆる芸術分野と交響しつつ、俳句の独自性を極める「俳句+α」をうたっており、石さんが長く編集長を務めてきた雑誌『俳句αあるふぁ』(毎日新聞出版)にも通じる。30周年にあたって第7句集『風韻』(紅書房)を出版した石さんは「平成も30年。来年4月で元号が変わり、新しい時代がくる。創刊の精神を受け継ぎ、新たな変化に向って皆さんと一歩ずつ進んでいきたい」と決意を新たにしていた。祝賀会に先立ち、歌人の永田和宏さんが、俳人の父や2010年に亡くなった妻で歌人の河野裕子さんらの作品を引きながら「ことばの力」と題して記念講演を行った〉と報じました。
- 静岡新聞が1月28日の紙面にて、〈石寒太さん(伊豆市出身)主宰 俳句結社「炎環」30周年祝う〉の見出しで、〈本紙読者文芸選者の俳人石寒太さん(伊豆市出身)が主宰する結社「炎環」の創立30周年記念大会が東京都内で開かれた。石さんは同人や会員、来賓約350人を前に、「皆さんと一緒に一歩ずつ力強く、新しい時代に踏み出していきたい」とあいさつ。平成とともに歩んできた歴史を、昨年解散したアイドルグループの「スマップと同じ」と表現して和ませた。大会実行委員長を務めた谷村鯛夢さん、稲見寛子さん(伊豆市出身)ら23人が特別功労表彰を受け、記念句会に続き、昨年12月に現代短歌大賞を受賞した歌人で京都産業大学教授(細胞生物学)の永田和宏さんが「ことばの力―歌が伝えるもの」と題して講演した。祝賀会には、東大総長や文部大臣を歴任し、静岡文化芸術大理事長で国際俳句交流協会会長の有馬朗人さん、静岡県立美術館名誉館長で東大名誉教授の芳賀徹さん、俳誌「炎環」30周年記念号で石さんと対談した作家の半藤一利さん、テレビでも活躍する俳人の夏井いつきさんらが集った。記念号で石さんは、芭蕉や恩師楸邨の言葉を借り、自覚の中にこそ独自性が生まれると、「自得」の心を強調。世阿弥の「果実思想」にも触れ、「動かない実に対し、花は動くもの。絶えず変化して新しいものになる」とし、節目にとどまらない姿勢を誓った。結社は、自らの心のいまを自らの言葉で表現する「心語一如」を目指し、全国に36句会、600人を抱える。ホームページを俳誌との二本柱に据えて若手の参加を促し、現代俳句新人賞を5年連続で輩出、若手登竜門の鬼貫青春俳句大賞を20歳学生が受賞した。記念大会・祝賀会は、子ども連れでの参加がしやすいように、乳幼児対応を図った〉と報じました。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。2月号は「第59章 句集『まぼろしの鹿』時代(四)」。〈『まぼろしの鹿』は、14年間の長い歴史を一冊にした句集〉、すなわち昭和28年から41年までの、楸邨48歳から61歳までの1,502句を収めています(全集本)。筆者(石寒太主宰)は、まずこの句集の特徴を示し、それをテーマに該当する句を提示して、それらに鑑賞や評釈を加えるという方法で論を進めています。第56章では、初版本(森澄夫・矢島利房編集)と全集本の違いをテーマに、昭和30年前後〈日本社会にとっても、安らかならぬ狂騒の一時期〉におけるいくつかの事件(砂川事件など)を句にした23句を提示し(その中の「一日本人として十七句」は、11句が初版本で除かれ、全集本にて〈復活〉)、つづく第57章では「原爆図七句」を掲げました(これも7句のうち4句が全集本で〈復活〉)。第57章の後半では、〈他の句集と比べると、圧倒的に多い〉旅の句と、〈いままでにはなかった、不思議な句〉をテーマに38句を抽出しました(これらが〈この句集の中心ともなっている〉)。第58章では追悼の句をテーマに16句を抜き出し、その対象となっている人物の事跡や楸邨の心情に触れながら鑑賞。そして本章においても追悼の句を5句追加したあと、こんどは楸邨の長女・道子の入院(昭和31年)の句4句につづけて、楸邨自身の入院・手術(昭和33年)をテーマに47句を一挙に掲出します。それら入院・手術の句には、長い前書の付けられている句がいくつかあり、〈その前書を辿ってゆくと、当時の楸邨の心境がよく伝わってくる〉、〈俳句は一句そのものが勝負、あまり前書に頼らない方がいい。これは日頃楸邨自身も言っていたことでもあり、そのとおりであろう。が、付した方が句を生かす場合もある。この句集の場合は、それがかなり有効に働いている〉と筆者(寒太主宰)は評価しています。
- 読売新聞12月25日の「歌壇俳壇」面の新刊案内「枝折」が、石寒太句集『風韻』を取り上げ、〈主宰誌「炎環」創刊30周年記念となる第7句集。表題は、こころ豊かに過ごしたいとの願いから。生への静かな感情が伝わる。《初木枯表札に父生きてをり》〉と紹介しています。
- 毎日新聞1月30日のコラム「季語刻々」(坪内稔典氏)が、《雪嶺や先へ先へと犬の鼻 石寒太》を取り上げ、〈雪嶺が見える。先へ先へと行きたがる犬にも雪嶺が見えている感じ。作者は1943年生まれ。20代のころからなにかと親しんできた私の俳句上の友人だ。今日の句、犬を連れているのが若者だと雪嶺は未来のシンボルか。老人だと雪嶺は若い日の思い出? 犬に引きずられて足元があぶないかも〉と鑑賞しています。句は句集『風韻』より。
- 結社誌「汀」(井上弘美主宰)2月号の「今月出合った句集」(土方公二氏)が石寒太句集『風韻』を取り上げ、〈この句集には師楸邨を豊かに思い出させる多くのオマージュの句が詠まれている。また、氏には宮沢賢治に関する著作も多いが、この句集でも多くの句が詠まれた。楸邨、賢治を詠み込んだ句群は、楸邨の句の一部を季語として使ったり、賢治を鮮やかにイメージさせる措辞に句を委ねて、季語は軽やかに取合わせるなどという詠み方で、やはり氏の独特の句法と言うべきであろうか。対象と自身との距離の近さを押し出すこの詠み方は、一種の説得力があって、句の世界を広げるのに成功していると思う。一方、この句集には、生活の中でふと気づく景を印象的に読み止めた句も多く、作者のおだやかな視線に共感するのである。《ももいろの猫の肛門春浅し》《風船屋台しあはせひとつ売りにけり》《乾鮭に塩振るたびの綺羅羅かな》《気の遠くなるまでひとり鳥の恋》 そして、読んだ後に心の温もりが伝わってきた句は、《うしろ向きに手を振る別れ寒の明け》 自画像である。背を向けて別れの手を振るのは、氏が少しはにかみ屋だからであろう。季語は「寒の明け」。そう寒いわけではないが、片手はポケットに入っている〉と鑑賞しています。
- 結社誌「椎」(九鬼あきゑ主宰)1月号の「句々燦燦」(主宰)が、当月抽出した5句の一つに、《楸邨の謎めく一句去年今年 石寒太》を選んでいます。句は句集『風韻』より。
- 結社誌「岳」(宮坂静生主宰)12月号の「句々光彩」(主宰)が、当月抽出した5句の一つに、《太陽を愛する詩人蔦紅葉 石寒太》を選んでいます。句は句集『風韻』より。
炎環の炎
- 「第14回鬼貫青春俳句大賞」(公益財団法人柿衞文庫・也雲軒主催、兵庫県伊丹市) が、15歳以上30歳未満(1988年生まれから2002年生まれ)を対象に一人30句の作品を公募、それに応えた44の応募作品から、12月16日、柿衞文庫也雲軒塾頭の坪内稔典氏、「ホトトギス」主宰の稲畑廣太郎氏、詩人の山本純子氏、伊丹青年会議所副理事長の前田勝氏、柿衞文庫館長の岡田麗氏ら5名の選者による公開選考会にて、大賞、優秀賞、敢闘賞の各賞を決定。
◎「大賞」田中大河(=星野いのり)作「自由帳」〈玄関で遠足のことぜんぶ話す〉〈ずっと雲見る日にしよう夏休み〉〈ぴかぴかと小さくなっていくヨット〉など30句。 - 毎日新聞1月18日のコラム「季語刻々」(坪内稔典氏)が、《ハワイごっこしよ日向ぼっっこしよ 田中大河(=星野いのり)》を取り上げ、〈日向ぼっこしながら、ちょっとフラダンスなどをして、ハワイに来ている気分になるのだろう。作者は1997年生まれ、茨城県に住む20歳の若者だ〉と鑑賞。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)2月号「作品6句鑑賞」(吉田千嘉子氏)が、同誌11月号掲載の増田守作「途上」から、《子育ての途上勤労感謝の日》について、〈人間の子育ての長さを思わされる一句である。鳥や他の動物たちとは段違いに手間も時間もかかる。その途上に勤労感謝の日。「勤労を敬い生産を喜び」という理念は、会社勤めだけではなく十分に子育てにも通用する〉と鑑賞。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)2月号「投稿俳句界」
・有馬朗人選「秀逸」〈落柿舎の柿甘さうな渋さうな 堀尾笑王〉
・古賀雪江選「秀逸」〈蟷螂の斧振り上げて轢かれけり 中村万十郎〉
・行方克巳選「秀逸」〈落柿舎の(前掲)堀尾笑王〉
・西池冬扇選「秀逸」〈草紅葉電話ボックス撤去跡 堀尾笑王〉
・能村研三選「秀逸」〈あるだけの窓開け放つ夏料理 曽根新五郎〉
・山尾玉藻選「秀逸」〈落柿舎の(前掲)堀尾笑王〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号の「合評鼎談」(小澤實氏・関悦史氏・村上鞆彦氏)が、同誌12月号掲載の宮本佳世乃作「木の裂けて」について、〈村上「《日当たりのちがふ黄色い菊畑》 光の量が違うという微妙な差異を菊の色を通して発見した。そこに幸福な世界があります」、関「静かな個性みたいなものもあり、これがいちばんすんなりできています」、小澤「明るくていいね。私が戴いたのは、《飛蝗とぶ脈を探してゐる右手》 脈を測ろうと探している右手と飛蝗が飛ぶ感覚、その離れた二つの中に奇妙な通じ合いを感じました」、関「心象的、象徴的なものに見える句も幾つかあって、痛々しい感じです。《紅葉且つ散る木の裂けてゐるベンチ》《暮れかかる芒の見えてしまひけり》」、村上「〈紅葉且つ散る〉の表題句は痛々し過ぎませんか」〉と合評。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号「平成俳壇」
・井上康明選「秀逸」(題「故郷の虫」)〈船虫の太平洋の匂ひかな 曽根新五郎〉 - 東京新聞「東京俳壇」
・2月4日石田郷子選〈穏やかに過ぐ新聞の無き二日 片岡宏文〉=〈元日に分厚い新聞が届いたあと休刊日となる。辛いニュースをみない穏やかな「二日」。三日になるともう朝刊が恋しくなるが〉と選評。 - 読売新聞「読売俳壇」
・1月22日宇多喜代子選〈借金も預金もあらず十二月 堀尾笑王〉