2018年3月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号の「俳壇ヘッドライン」が、「炎環」創立30周年記念大会・祝賀会の模様を写真と文章によって記録、「「心語一如」を受け継いで」の見出しを付け、〈乾杯の挨拶で、毎日新聞社会長の朝比奈豊氏は「石さんは『俳句α』で25年間編集長を務めてくれた。毎日俳句大賞は20周年。俳句の毎日新聞にとっての宝です」と、昨年『俳句α』の編集長を引退した石氏を労った。来賓の半藤一利氏は「僕は炎環の最も熱心な読者」と語り、宮坂静生氏は「太陽神アポロンのような集団としてこれからも俳壇を引っ張ってほしい」と、若手が多く活気に溢れた会を激励した〉と記述しています。記事には一句《太陽の黒点へ急く蟻ひとつ 寒太》を添えています。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)3月号の「俳句界ニュース」が、「炎環」創立30周年記念大会・祝賀会の模様を写真と文章によって記録、〈当日は有馬朗人、芳賀徹、半藤一利、宇多喜代子、永田和宏、大串章、宮坂静生、池田澄子、大木あまり、夏井いつきなど多彩な各氏のスピーチが行われた。寒太主宰の長年に亘る交友の広さと、俳句への貢献が伺われた。金春流シテ方・山井綱雄氏の祝賀仕舞や、噺家・金原亭馬生の三本締めなどが行われ盛会裡に終了した〉と記述しています。また、「炎環」誌について、〈創刊昭和64年、主宰石寒太、師系・加藤楸邨 東京で創刊。「心語一如」をモットーに現代俳句に多彩な人材を輩出する。乳幼児連れの大会を運営面、金銭面でサポートするなど未来志向を積極的に打ち出している〉と紹介し、一句《おぼろ月流され王の黒木御所 寒太》を添えています。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)3月号の「結社の声――わが主張」に「炎環」が登場、「炎環」の成り立ちと歴史、「炎環」の主張、「炎環」の年間活動と現状、会員の作品を、丑山霞外が綴っています。会員の作品では、《楸邨のことばのちから茨の實 石寒太》を筆頭に昨年の同人や巻頭の句からピックアップした43句を紹介しています。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号の大特集「春の季語入門」において、藤田直子氏(「秋麗」「未来図」)が「起源から知る季語の本意」と題する文章の中で、《吹けば飛ぶごとき紙雛たなごころ 石寒太》を例句として取り上げています。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。3月号は「第60章 句集『まぼろしの鹿』時代(五)」。当句集の中から、前章までは〈病気や親しい知り合いとのいくつかの別れ〉の句を読みましたが、本章では、〈喜ばしい祝儀の句〉を読みます。楸邨の妻・知世子の初句集『冬萌』出版(昭和28年)を祝う句2句、長女・道子の結婚(昭和29年)を祝う句3句、長男・穂高に長女誕生(昭和36年)を祝う句2句、長女・道子に次男誕生(昭和36年)を祝う句1句、教え子の花柳若葉が名跡を継いだこと(昭和38年)を祝う句1句、弟子の田川飛旅子が桜楓社「俳句シリーズ」の第16巻『加藤楸邨』を刊行したこと(昭和38年)を祝う句1句、これらを丁寧に鑑賞します。また、ついでに、長女・道子の婿は大成建設の伊藤勤で、彼が〈ダム建築の現場監督をしていたので、その陣中見舞をもかねての句〉である「御母衣(みぼろ)ダム建設現場にて 十五句」「切妻(きりづま)合掌部落にて 十六句」の全句を紹介し、筆者(石寒太主宰)は〈力のこもった句であるので、心して読了した〉と述べています。さらに加えて、田川飛旅子著『加藤楸邨』に関連し、楸邨の色紙を巡る秘話、楸邨と飛旅子と筆者(寒太主宰)の特別な関係などを語り、〈何もかもが、遠いむかしの、私の青春時代の思い出とつながって、いまも私の胸奥にひろがってくるのである〉と結んでいます。
- 週刊誌「サンデー毎日」(毎日新聞出版)3月11日号の金子兜太氏逝去の記事に添えて、石寒太主宰が〈今、改めて味わいたい金子さんの句〉を10句選びました。10句は、《朝日煙る手中の蚕妻に示す》《曼珠沙華どれも腹出し秩父の子》《水脈の果炎天の墓碑を置きて去る》《銀行員ら朝より蛍光す烏賊のごとく》《朝はじまる海へ突込む鷗の死》《彎曲し火傷し爆心地のマラソン》《暗黒や関東平野に火事一つ》《梅咲いて庭中に青鮫が来ている》《夏の山国母いてわれを与太と言う》《東西南北若々しき平和あれよかし》。そして一句一句に解説と鑑賞を付けています。《夏の山国》の句には、〈金子さんは「丈夫な体を与えてくれた母に、心から感謝している」と言っていた。その母が、父を継いで医者にもならず、俳句にうつつを抜かす息子を「与太」と呼ぶ。権力におもねることなく生をまっとうした金子さんは、改めて「与太」の風格そのものだった〉と、また《東西南北》の句には〈『東京新聞』連載の「平和の俳句」。昨年末の最終回に寄せたもの。署名には《白寿 兜太》とある。戦後一貫して平和を訴え続けた金子さんから、すべての人への贈り物と受け止めたい〉と解説、鑑賞しています。
炎環の炎
- 「第21回毎日俳句大賞」(毎日新聞社)の特別企画として募集した「水の俳句」が、2500句近い応募の中から、大賞1句、準大賞3句、金子兜太賞2句、小川軽舟賞2句、優秀賞14句を選出。
◎「優秀賞」〈いくさ知る人みな老いし水の秋 波田野雪女〉=〈「みな老いし」は、波田野さん自身も「いくさ知る人」だからこその感慨なのだと思います。寂しさや悔しさの入り混じった思いが、水の秋の季語によって平らかに静められていくようです〉と選者が講評。 - 「第21回毎日俳句大賞」(毎日新聞社)が、応募総数約7200句(一般の部)を予備選考によって677句に絞り、その中から11名の選者により各々が上位3句、秀逸10句、佳作30句を選出、その結果最終選考に残った87句から、再審査により、大賞1句、準大賞1句、優秀賞2句、入選26句を決定。
◎「入選」〈かな文字の一字一音あたたかし 中西光〉=小川軽舟選「上位」〈日本語のかな文字は一字一音。「ん」以外はすべて明朗な母音がある。この句から子供の音読を想像してもよい。「あたたかし」が日本語そのもののぬくもりに通じている〉と選評。井上康明選「佳作」、津川絵理子選「佳作」
◎「入選」〈鍵かけることなき島の迎へ盆 曽根新五郎〉=小澤實選「上位」〈現代でも扉に鍵をかけなくても、侵入などされない島があるのだろうか。その島では常にそうなのだろう。ことに盆になると、その家の死者たちが扉を開けて帰ってくるのだ〉と選評。石寒太選「秀逸」
◎「入選」〈かなかなに覚めかなかなにねまるなり 添田勝夫〉=石寒太選「上位」〈ひぐらしは、その名のとおり夕方から鳴きはじめる。しかし朝のひぐらしもある。作者はそのひぐらしを朝に聴き、夕方にその音とともに一日を終える。まさに悠々自適なのであろう〉と選評。小川軽舟選「佳作」
◎「入選」〈筆談の懺悔室なり秋の湖 中川志津子〉=津川絵理子選「上位」〈懺悔室の小窓から紙片をやりとりするのだろうか。時折ペンを走らせる音が微かに聞こえる。静かな筆談の告解と、懺悔室へ届く秋の湖の光が響き合い、静謐な句の世界を作っている〉と選評。
▽最終選考まで入選候補作品として推された秀逸句
○〈遺句集が第一句集星涼し 曽根新五郎〉=大串章選「秀逸」、小川軽舟選「秀逸」、石寒太選「秀逸」、津川絵理子選「佳作」
○〈さなぶりの恵みの雨となりにけり 添田勝夫〉=井上康明選「佳作」、小澤實選「佳作」、石寒太選「佳作」
○〈戦前のやうな八月十五日 曽根新五郎〉=正木ゆう子選「秀逸」、津川絵理子選「佳作」
▽その他、各選者の入選句
・井上康明選「佳作」〈乗換ふる武蔵野線の夜の蝉 戸塚純一〉
・宇多喜代子選「佳作」〈沖縄忌蟻の蟻引く砂の上 宮岡光子〉
・大串章選「佳作」〈学僧のキャッチボールや炎天下 堀尾笑王〉
・大峯あきら選「佳作」〈炎天や訪へば閑かに父母のをり 片岡宏文〉
・小川軽舟選「秀逸」〈秋暑したたきて使ふ老の腰 鈴木まんぼう〉
・小澤實選「佳作」〈トルストイ・ヘルマンヘッセ曝しけり 結城節子〉
・金子兜太選「佳作」〈学僧の(前掲)堀尾笑王〉
・津川絵理子選「佳作」〈新しき朝を迎へし水中花 戸田タツ子〉
・津川絵理子選「佳作」〈てのひらはフリースペース蝸牛 増田守〉
・津川絵理子選「佳作」〈一粒の欠けてゆるみし葡萄かな 曽根新五郎〉
・正木ゆう子選「佳作」〈ややあつてアウトのコール雲の峰 谷村鯛夢〉
・石寒太選「秀逸」〈哭きにゆく故里失せし合歓の花 高橋橙子〉
・石寒太選「佳作」〈彼の世から風の来てゐる五月かな 戸田タツ子〉
・石寒太選「佳作」〈花冷の一人娘の骨拾ふ 曽根新五郎〉
・石寒太選「佳作」〈もう鼾かかざる菊の柩かな 曽根新五郎〉
・石寒太選「佳作」〈居るやうに掛けられてゐし夏帽子 大沼ふじ代〉
・石寒太選「佳作」〈まどろみの母と花野に遊びけり 綿貫春海〉
・石寒太選「佳作」〈稲の花考へてゐる鳥一羽 壬生きりん〉
※結社別予選通過句数においては、「炎環」は45句で、「鷹」(小川軽舟主宰)の86句につぐ第2位。ちなみに三位は「百鳥」(大串章主宰)の20句。
▽一般の部・その他の予選通過句
〈八月や大岡昇平読み耽る 松本平八郎〉〈搾乳の父の十指や月見草 真中てるよ〉〈青眼の構へすつくと素足かな 波田野雪女〉〈渾身の声の切り込む稲光 波田野雪女〉〈ふれたれば母のぬくもり鶏頭花 北原恵子〉〈アルバムの積まれ八月十五日 伊藤航〉〈雲取や夏うぐひすの聲遠く 岡良〉〈麦秋の中やぽつかり保育園 吉田空音〉〈万緑の奥へ奥へと水跨ぐ 結城節子〉〈初桜きつと震へてゐるだらう 戸田タツ子〉〈こぼれ萩風に告げたきことひとつ 三輪初子〉〈宣告の一瞬長き百日紅 石川美好〉〈遺されて老いし八月十五日 曽根新五郎〉〈茨線に囲まれてゐる沖縄忌 曽根新五郎〉〈沖縄は今も八月十四日 曽根新五郎〉〈桜湯のひらききりたる浮力かな 曽根新五郎〉〈炎天下汚染土嚢の仮置場 万木一幹〉〈二人でこぐブランコ青空はんぶんこ たむら葉〉〈裸婦Aの青き眼差し夏の果 長濱藤樹〉〈デッサンを写すデッサン夜の秋 長濱藤樹〉〈産院に会釈の親子終戦日 髙山桂月〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号の「作品12句」に、田島健一が「紙のアジア」と題して、〈褞袍着て母国ぼやける大使たち〉〈孤島あり女王は湯たんぽを侍らし〉〈奏者きて座る冷たい時計の下〉〈雪きろくてき紙おむつ紙のアジア〉など12句を発表。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号の「男のドラマ女のドラマ」に山岸由佳がエッセイを寄稿。表題に《おぼろ夜のかたまりとしてものおもふ 加藤楸邨》を掲げ、〈楸邨独特の滑稽さもありながら、混沌とものを思う心と肉体の重量感がひとつとなり、まるで〈モノ〉に思考が宿っているような感覚に陥る。〈人間〉と〈モノ〉の境界が希薄となり、朧の闇にすべて包み込まれているのだ〉と前置きしてから、自身は〈一度だけ奇妙な体験というか感覚に陥ったことがある〉として、お風呂で洗髪中に〈不意に「命」という言葉が閃いた。と思うと、体の奥の方から何かをいとおしむような感情が湧いてきて、その瞬間、直感的に「宇宙」を思〉い、お風呂からあがって、〈なんとなくカーテンを開けて外を眺めた。春の月がぽっかりと、帰り道に見た時とは異なる位置に浮かんでいるのが見えた。心臓がとくんと鳴って、わっと泣きだしたくなった〉と叙述。
- 「第33回富澤赤黄男顕彰俳句大会」(八幡浜俳句協会・八幡浜市教育委員会主催、3月4日愛媛県八幡浜市)が応募総数2550句から、各賞全13句、入賞20句と、6名の招待選者、15名の特別選者による各選者の特選3句、秀作10句、佳作20句を発表。
・河村正浩選「特選」〈枯蓮田ピタゴラスより着信音 たむら葉〉=〈くの字への字に折れ曲がった枯蓮にピタゴラスの定理をイメージした。そのイメージをピタゴラスからの着信音と捉えた作者の感覚のさえは見事。現代的な把握〉と選評。
・神野紗希選「佳作」〈畦道の土竜の穴や赤黄男の忌 本田修子〉
・小西昭夫選「佳作」〈まづ足の阿呆になりたる踊かな 高橋桃水〉
・松本勇二選「佳作」〈掻き回す遠き青春冬の雷 高橋桃水〉 - 「第17回石田波郷記念「はこべら」俳句大会」(公益財団法人江東区文化コミュニティ財団主催、3月11日東京都江東区)が応募総数約700句から、5名の選者により各特選3句、入選10句を選出のうえ、はこべら賞(大賞)2句を決定。
・能村研三選 「入選」 〈霜の夜や火種のごとく波郷の句 北悠休〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)3月号の「作品6句鑑賞」(吉田千嘉子氏)が同誌12月号掲載の深山きんぎょの作品から、《少年のうすき唇黄落期》に対して〈少年と言えば多感な時期、そして薄い唇には情の薄さを感じてしまう。そのミスマッチや不安定さがこの句の魅力であろう。ただ、深秋の葉が散り落ちてしまう「黄落期」で収めているところがひっかかり、この少年のこれからが少々気にかかる〉と、また《墨東や袋小路に聖樹の灯》に対して〈近所の子どもたち共通の聖樹なのだろうか。袋小路と聖樹の意外な取合わせの妙〉と鑑賞。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)3月号「投稿俳句界」
・大高霧海選「特選」(題「瞬」)〈みちのくの祈り瞬時の流れ星 曽根新五郎〉=〈3・11の東日本大震災から今年で7年。初秋の8月11、12日頃に流れ星が最も多くみられるという。詠者は祈りの中途流れ星を見て死者の帰還だと信じ、祈りの心を募らせた。日本文芸の「もののあはれ」の濃き一句〉と選評。
・大高霧海選「秀作」(題「瞬」)〈玉手箱開けし瞬間鰤起こし 中村万十郎〉
・佐藤麻績選「特選」〈マスクして身を群衆に投じたり 中村万十郎〉=〈「身を群衆に投じたり」とはものものしい場を詠まれたのかとも思うが、街なかの雑踏に出向いたことを大仰に俳諧として詠んだものと思える。単に「マスク」一つでそうした場所に気おくれせず出掛けられるということだろう〉と選評。
・佐藤麻績選「秀逸」〈大根と靴下干さる男子寮 高橋桃水〉
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈犬の服のみに色ある枯野かな 髙山佳月〉
・大牧広選「秀逸」〈戦争のなき世のはなし干蒲団 金川清子〉
・田島和生選「秀逸」〈セーターを脱ぎて始まる宴かな 長濱藤樹〉
・西池冬扇選「秀逸」〈まひまひず井戸の底には冬青空 曽根新五郎〉
・能村研三選「秀逸」〈眼帯の冬青空へ解かれけり 曽根新五郎〉
・山尾玉藻選「秀逸」〈何処より灯油の匂い冬入日 髙山佳月〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号「第12回角川全国俳句大賞」発表。応募総数は、自由題が10,256句、題詠「地」3,470句。
・金子兜太選「特選」(題「地」)〈蟻穴を出てちりぢりの爆心地 曽根新五郎〉
・宇多喜代子選「特選」〈広島の影に加はる黒揚羽 曽根新五郎〉
・黒田杏子選「特選」〈まだ見ない三月十一日の夢 曽根新五郎〉
・正木ゆう子選「特選」〈まだ見ない(前掲)曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号「平成俳壇」
・岩岡中正選「秀逸」〈白セーター赤セーターとすれ違ふ 長濱藤樹〉 - 東京新聞「東京俳壇」
・3月4日石田郷子選〈老いの眼に老いゆく母校霙降る 片岡宏文〉