2018年11月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。11月号は「第68章 『吹越』の世界(二)」。楸邨第11句集『吹越』の巻末に置かれた3句は、いずれも「吹越」を季語としており、〈「吹越」ということばはそれまでにもあったが、俳句の中に据えられて季語として使われたのが、はじめて楸邨によって成った〉ことを、本章において筆者(石寒太主宰)はまず指摘し、続いて、その3句のうちの1句目《吹越に大きな耳の兎かな》についての大岡信氏の文章を引用します。氏の論旨の中心は、「この句は《作者の自画像》である」ということ。その意味は、《「吹越」という壮大な現象を眼中に想い描いたとき、何たることか、ただ一羽の「大きな耳の兎」をその大景に向き合せるだけで足り、他の何者にも眼をくれようとはしない、そういう作者の心の動き方そのものに、まずもってありありと作者自身がいる》ということ、また《ユーモアあるいは軽みの問題》として、《楸邨氏は元来、飄逸になっても軽々しくは決してならない俳人だが、句集『吹越』の随所に出てくるその種の句には、内ぶところのひろさ、柄の大きさがありありと感じられるものが多く、「吹越に大きな耳の兎かな」もまたその一つ》で、《句そのものが、その全体において加藤楸邨であ》り、《「吹越」という、思いみるだに豪壮な気象現象も加藤楸邨その人であり、それをきょとんと、あるいは恍惚として見あげている、可憐なあるいは茫洋とした兎もまた、加藤楸邨その人だ》ということ。氏のこうした論に対して筆者(寒太主宰)は、〈いかにも大岡氏らしい、少し思いこみはあるものの、まさに当を得ている卓見である〉と述べています。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号の「俳句の未来を探る」が「「炎環」Sara句会訪問」と題して、平成30年8月12日(日)に行われたSara句会の模様を取材して掲載。〈この日は石寒太主宰も含め、13名が揃った。参加メンバーには、現代俳句協会新人賞受賞者の柏柳明子氏、宮本佳世乃氏、山岸由佳氏、俳壇で活躍している田島健一氏などの顔も見え、多士済々である。参加資格は「精神年齢が自称二十代の方」とある。出句の数は特に定めがない。全一二一句を清記したコピーが配られ、選句作業に入る。純粋な句の批評をめざし、各自の選が披講されても名を名乗らない。寒太選のユニークさは、主宰の添削込みの句で選ぶということだろう。中嶋憲武氏の進行で、寒太選を中心に批評会が始まる。参加メンバーたちは、選の基準をはっきりと述べあっていた。「この句は○○だから私は○○である」「○○さんはこの句を○○といっているが、○○の理由で私はとらない」など、一見まとまらないような議論になるが、ここからが「炎環」の句会の意外な展開である。「先生はこの議論についてどう思いますか」と進行役が主宰に問う。それに対する答えは、イエス、ノーだけではない。「私にはわからない」という答えも用意されている。ダメとはいわない。才能の芽を摘むような発言はしない。勝手にせよと打ち捨てているわけでもなく、よく自分で考えて勉強せよということなのだろう。懐が広い。ここ「炎環」で若手が育ち、実力者が揃うというのも納得がいく。参加者同士の批評が、切れ、取り合わせ、散文と韻文、リズムと表現などの問題に及んだことも印象深かった。「炎環」は、若い俳人の登竜門である現代俳句協会新人賞の受賞者が多いことでも有名である。この日の取材を通じて、寒太主宰の指導にその鍵があるのだろうと感じた〉と記述しています。
炎環の炎
- 朝日新聞10月17日夕刊「文芸・批評」面の「あるきだす言葉たち」に、柏柳明子が「他人」と題して、〈踊子の闇をひらいてゆく躰〉〈柘榴の実アレサ・フランクリン逝けり〉〈コスモスや心のなかの糸電話〉〈学校のわたしは他人赤い羽根〉など12句を発表。
- 同人誌「―俳句空間―豈」(邑書林)61号(2018年10月)が「第4回摂津幸彦記念賞」を発表。応募総数37篇の中から、3名の選考委員(大井恒行氏、池田澄子氏、築紫盤井氏)により、「優秀賞」8篇、若手推薦賞3篇を選出(「最優秀賞」は該当作品なし)。
・「優秀賞」中嶋憲武作「旋律」〈白鷺へ倦みやや強き眼鏡の度〉〈骨格の正しく夏の月に添寝〉〈向日葵の保守系無所属へ雨粒〉〈干物食べてゐる水着の紐ほそく〉〈蟻地獄旋律の吸ひ込まれゆく〉など全30句。 - 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号「投稿俳句界」
・山尾玉藻選「特選」〈梅雨深し防音室のベートーベン 結城節子〉=〈この「防音室」とは学校などの音楽室で、そこに「ベートーベン」の肖像画が掲げられているのでしょう。聴力を失った所為か、絵を見る限り彼はなかなか険しい眼差しをしていますが、その面差しが「梅雨深し」の雰囲気を一層増幅しているように感じます〉と選評。
・岸本マチ子選「秀作」(題「穴」)〈大穴にどよめく夏の競馬場 堀尾笑王〉
・今瀬剛一選「秀逸」〈美術館の長き鉄柵青葉風 長濱藤樹〉
・角川春樹選「秀逸」〈熔接面外す少女の汗の顔 堀尾笑王〉
・角川春樹選「秀逸」〈夜の秋金一円の詩集かな 長濱藤樹〉
・田島和生選「秀逸」〈初蟬や古墳出土の耳かざり 泉義勝〉
・辻桃子選「秀逸」〈秋天やバケツに受ける山羊の糞 松本美智子〉
・西池冬扇選「秀逸」〈夕焼に仕舞ふピエロのコスチューム 中村万十郎〉 - 読売新聞10月22日「読売俳壇」
・正木ゆう子選〈団栗の帽子をとればお尻かな 保屋野浩〉 - 読売新聞10月29日「読売俳壇」
・正木ゆう子選〈賑やかに物干して留守秋さくら 保屋野浩〉 - 東京新聞10月21日「東京俳壇」
・石田郷子選〈胸張つて衰へてゆく曼珠沙華 片岡宏文〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号の特集「俳句で音楽鑑賞」に吉川久子が文章と音楽俳句を寄稿、題して「奥の細道を演奏して」。〈私は昨年、芭蕉の「奥の細道」の世界に遊ぶと題したコンサートを行いました。芭蕉が旅路でどんな音を聴いていたのかを句から読み取り、日本の楽曲と重ねてみました。芭蕉の句には、音楽の三要素である、旋律、リズム、ハーモニーを感じとれます。俳句から音を探る。音や音楽から俳句が生まれる。芭蕉の句はこんな味わい方もできると感じています〉と記述。音楽俳句は〈「待ちぼうけ」の陽気なリズム胡麻の花〉〈フルートのロングトーンや雲の峰〉など5句。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)11月号の「俳壇ヘッドライン」が「第10回石田波郷新人賞選考会」の記事を選考委員らの集合写真とともに掲載。写真内に齋藤朝比古、谷村鯛夢。