2019年1月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。1月号は「第六十九章 シルクロードへの旅」。第67章(10月号)より筆者(石寒太主宰)は楸邨第11句集『吹越』(1976年刊)を論じており、これまでに大岡信氏の文章を引用しながら、この句集の一つの特色として、「内ぶところのひろさ、柄の大きさ」という楸邨自身をありありと感じさせる「軽み」の句が多いことを指摘してきました。本章では、〈『吹越』のもうひとつの特色は、シルクロードの旅が収録されていること〉として、そのシルクロードの俳句51句を展覧しています。楸邨は昭和47(1972)年にシベリアからサマルカンド、ブハラ、昭和49年にパキスタンからアフガニスタン、昭和50年にレバノン、トルコ、イラン、イラクと、3回にわたってシルクロードの旅を敢行しました。〈すでに楸邨は、句集『砂漠の鶴』の時に述べたように、昭和十九年(一九四四)に土屋文明・石川信雄のふたりの歌人らとともに、中国からゴビ砂漠に入った大陸行の経験がある。それが今度の句集『吹越』所収の旅の句や紀行文につながったことも確かである〉が、〈俳句は、日本という湿潤性のつよい風土を土壌としたものであるが、それが、シルクロードの乾燥地帯の土壌の上に果して可能であるかどうか。シルクロードのような何もない乾燥地帯なんかで詠んでも、ロクな句になるはずはない(そういった人たちも多くいた)、でもいってみて挑んでみなければ、結果は分からない、それに賭けてみたい、楸邨の気分は必死だったのである〉と筆者(寒太主宰)は楸邨の心情を代弁して、その「新しさ」を強調します。
炎環の炎
- 【速報】〈戦争の終はらぬ星の星まつり 三輪初子〉が「第22回毎日俳句大賞」の「大賞」を受賞。
- 三橋瑞恵が、句集『鼾猫』を、ふらんす堂より2018年12月24日に刊行。序文を石寒太主宰が「二人と一匹」と題して認め、〈猫派と犬派があるそうだが、三橋瑞恵さんはなんといっても猫派である。この句集には、いろいろな猫が登場する。また、猫の耳、猫の爪、猫の足、猫の尾などさらに猫のディテールにまで踏み込んで詠まれている。本当に猫好きであるのが分かる。そして観察も鋭い。三橋瑞恵さんの句は、やさしいことばで誰にでもよく分かる、そういう俳句である。彼女の俳句を読むと、読者は安心し、心しずかに落着くのである。生活している身近なところに素材をみつけ、それでいてよく読むと彼女の人柄や生きている呼吸が、そこはかとなく、しかし読者に鮮明に伝わってくるのである。いまや彼女は「炎環」新宿若葉句会、石神井句会の中心である。これから、さらに俳句に打ち込まれることを、切に望んでいる〉と紹介。
- 山崎彩が、句集『ペリドット』を、ふらんす堂より1月11日に刊行。序文を石寒太主宰が「ペリドットから梟まで」と題して認め、〈山崎彩さんは、はじめ品川嘉也氏の俳句集団「雲雀」から出発した。「炎環」に入会して十五年、マイペースに句をつくりつづけている彼女であるが、毎回その個性的な発想には驚かされる。彩さんは伝統的な俳句の季語とはちがった、自分の新しい季節感を生み出している。それは従来の俳句の季語にはすべてとらわれない、自由奔放な季語の効果、その中に自分の身をどっぷりと置いている。家庭内のことはほとんど句材にしなかった彼女が、にわかにご主人・博史さんのことを句に詠み出したのは、ほんのこの数年、「炎環」に彼女が所属して十年以上経ってからのことである。この句集の後半「春の雷」と「いのち」の章には、癌が発症して亡くなるまでの彼への句がにわかに登場してくる。どの句も胸を打つ。本句集の絶唱である〉と紹介。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)の連載コラム「あにまる歳時記Ⅱ」に、岡田由季が1月号より隔月で1年間の連載を開始。1月号では、〈「コンパニオンアニマル」という言葉がある。「ペット」よりも動物を尊重し、家族の一員、伴侶としてみる考え方。私もコンパニオンアニマル達にずいぶんと助けられてきた。最初は文鳥。小学校高学年の春休み、雛を購入し、手乗りに育てた。初めて一人暮らしをしたときの相棒はハムスター。ハムスターが寿命を全うし、後に夫になる人がプレゼントしてくれたのが、うさぎ。そのうさぎの仲立ちもあり、二人と一羽の生活が始まった〉という内容のエッセイを記述し、これに添えて一句〈沈黙を兎のひげにくすぐらる 由季〉。
- 月刊誌「現代詩手帖」(思潮社)1月号の書評欄「Book」に宮本佳世乃が寄稿し、「とどまり、聴く」と題して白井明大著『一日の言葉、一生の言葉、旧暦でめぐる美しい日本語』(草思社)を紹介。〈本書は「一日の言葉」「一月の言葉」「一年の言葉」「一生の言葉」の四章で構成される。おもに季節や時のうつろいをあらわす二百以上の項目が並ぶ。その言葉についての簡単な説明があり、それに対する白井自身の思いを述べて、ひとつの項が閉じるようになっている。俳句や短歌、詩もふんだんに引用される。白井明大選のアンソロジーの要素もエッセイの要素もあり、気軽にさらさら読むこともできそうだ。しかし、私は何回も立ち止まる。山之口貘や宮沢賢治、阿波野青畝、永瀬清子をはじめとした約二百名の作品を読み、とどまり、聴く。この本には、言葉や作品の選びかたに白井なりの判断や基準のようなものがしなやかに示されている〉と記述。
- 「長谷川零余子記念・藤岡市桜山まつり俳句大会」(群馬県藤岡市)が2名の選者により各賞6句を決定。
◎「長谷川零余子賞(大賞)」〈零餘子の風の言霊ふゆざくら 竹市漣〉
◎「藤岡市議会議長賞」〈ひとひらは風ひとひらは花の遺書 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)1月号「投稿俳句界」
・山尾玉藻選「特選」〈一本の包帯干され秋高し 結城節子〉=〈「秋高し」「天高し」の季語は秋の広やかな清澄さを実感させる季語ですが、干されている「一本の包帯」というごく小さな対象がその趣を絶対のものにしています。このように日常的で瑣末な一景にもこころ動かされるのが誠の詩人です〉と選評。
・櫂未知子選「秀逸」〈命日の影よりひらく月見草 曽根新五郎〉
・行方克巳選「秀逸」〈項垂れてイエスのやうな案山子かな 高橋透水〉 - 朝日新聞1月13日「朝日俳壇」
◎第35回朝日俳壇賞・長谷川櫂選〈白といふ色の力や更衣 渡邉隆〉=〈「身中に老いさらばへし鷹を飼ふ」も一席。長年の投句、収穫の時〉と選評。作者は〈俳句の作り出す独特の世界が好きです。普通の語で十七文字を紡ぎ、わかり易いそして新しい表現での句作りを目指しています〉とコメント。 - 読売新聞12月17日「読売俳壇」
・正木ゆう子選〈恋の句の出来などもして冬の雨 保屋野浩〉 - 読売新聞12月24日「読売俳壇」
・矢島渚男選〈癖のある年寄になり薬喰 保屋野浩〉 - 朝日新聞1月6日「朝日俳壇」
・高橋れおな選〈はじめての出稼ぎですと牡蠣割女 池田功〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)1月号の新連載「結社誌全読破マラソン」(生駒大祐氏)が《三つの部屋に豚をらずして冷奴 荒川倉庫》を取り上げ、〈豚を詠む作者だからこそ、その不在をも詠める。「三」は『三匹の子豚』から来ているがうるさくない。冷奴のさりげなさ〉と鑑賞。句は「炎環」2018年9月号より。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)1月号の「榎本好宏句集『青簾』特集」における「一句鑑賞」に田島健一が寄稿、句集中の一句《牡丹咲く合はせ鏡の中にけふ》に対して、〈上五の《牡丹咲く》がこの句の出来事のすべて。中七下五ではその出来事の空間と時間が順に提示されている。《合はせ鏡の中に》で牡丹は無限に複製され果てしなく広がります。合わせ鏡の中で主体の視線も無限化し、複数化することで一旦中心を失っているように感じました。そして末尾の《けふ》はそうした無限=永遠を断ち切るように、それが「けふ(今日)」の出来事であることを告げるのです。それによって複数化した主体の視線の位置が、はじめて決定づけられたのではないでしょうか〉と鑑賞。
- 『俳句年鑑2019年版』(カドカワムック)の「今年の秀句ベスト30」において小澤實氏が、《流れつつ腐り桜の花びらは 近恵》をベスト30の一句に選び、〈川を流れ下っている桜の花びらを凝視して、流れつつあるんだが、それがもう腐っているところまで、しっかり見届けたところが素晴らしい〉と選評。句は「俳句」2018年6月号より。
- 結社誌「小熊座」(高野ムツオ主宰)1月号の「星座渉猟―俳壇近作鑑賞」(松岡百恵)が、《新しい部屋の小暗く鳥渡る 近恵》を取り上げ、〈見過ごしそうな身辺を詠んだ句でリアル。引っ越して新たに住むことにした賃貸の部屋。生活に必要な物を多少揃えたとしても、いまだ、生活感がない。自分の部屋なのによそよそしい。ちょっとした違和感から、小暗さを感じることになる。「鳥渡る」という季語から、窓の外の広い空が見える。転勤族として大いに共感した〉と鑑賞。句は「炎環」11月号より。