2019年4月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。4月号は「第七十二章 シルクロードへの旅(四)」。2013年4月から始まったこの連載は、加藤楸邨の句集を中心に据えて、その生涯を順々に辿り、昨年10月、第11句集『吹越』まで至りました。『吹越』には、昭和41年(楸邨61歳)から昭和50年(70歳)までの1192句が収められていますが、楸邨は昭和47(1972)年から50年にかけて3回にわたりシルクロードを旅しており、そのときの51句が『吹越』に見られます(同誌1月号にその全句を掲載済み)。数は少ないといえども、このシルクロードの句のあることが『吹越』の大きな特色であると筆者(石寒太主宰)は評しています。シルクロードの句は『吹越』のほかに、句文集『死の塔』(昭和48年刊)や、加藤楸邨全集にある紀行文「糞ころがしの歌」や「鸛と煙突」に見られます。『死の塔』に176句、「糞ころがしの歌」に73句、「鸛と煙突」に29句です。前章では『死の塔』の句をいくつか鑑賞しました。本章では、『吹越』や「鸛と煙突」から、《押す糞が消えて糞ころがしつまづく》(鸛)、《バビロンに生きて糞ころがしは押す》(吹)、《乾季来る石中の獅子駈けつづけ》(吹)、《蜥蜴うかがふ目には目を歯には歯を》(吹)、《塔消えて蝶のことばは曲線のみ》(鸛)などを鑑賞します。そして、〈詠めない風土、詠むことが不可能そうな生き物を、自分の俳句に詠んでみない限り、気がすまない〉楸邨の心に思いを致します。さらに、これらの楸邨の成果から学ぶこととして、筆者(寒太主宰)はこう述べます、〈砂漠の中でみつけた糞ころがしも、一匹の蜥蜴も蝶も、一見日本と同じような小動物ではあっても、風土も動物もまったく同じではない。固定したものではないのである。動いて流れてやまない永遠の時間の中でとらえなければ、何も見えてきはしない。俳句の「歳時記」も、固定したものが本質なのではない。牡丹でも蛙でもいい、どんな動植物に目を向けても、かぎりなく流動をくり返す一点を自分の静につなぎとめる指標として見なければ、何も見えてこない。いつでも動に解き放つことができるように、ことばの世界につなぎとめた動と静の接点に、自分を敏感に整えて置かない限り、物やことは何も見えてこないのである〉。
炎環の炎
- しんぶん赤旗3月22日の「今月の俳句」に、谷村鯛夢が「山笑ふ」と題して、〈春寒や蕎麦の湯切りの二拍半〉〈山笑ふ土佐は脱藩日和かな〉など5句を発表。
- 「第16回「富士山を詠む」俳句賞」(静岡県富士宮市ほか主催、3月18日)が応募総数1608句から、富士山賞天・地・人各1句と佳作7句を決定して表彰。
◎「佳作」〈あかあかと雲吐く富士や敗戦忌 北悠休〉=嶋田麻紀選「特選」、平野摩周子選「特選」 - 総合誌「俳句界」(文學の森)4月号「投稿俳句界」
・大高霧海選(題「初」)「秀作」〈金閣の金の雫の初時雨 曽根新五郎〉
・岸本マチ子選(題「初」)「秀作」〈初雀一茶の句碑へ糞ひとつ 長濱藤樹〉
・有馬朗人選「秀逸」〈柿すだれ海辺の白き天主堂 松本美智子〉
・今瀬剛一選「秀逸」〈蠟涙のあをき固まり寒の内 結城節子〉
・西池冬扇選「秀逸」〈ドローンの地を這ふ影や冬日和 小野久雄〉
・西池冬扇選「秀逸」〈ゆつくりとご飯を嚙んで年惜しむ 結城節子〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)4月号「平成俳壇」
・山田佳乃選「秀逸」〈水鳥のとぷんと消えて港に灯 このはる紗耶〉
・星野高士選「秀逸」〈海底の貝は桃色冬銀河 曽根新五郎〉 - 読売新聞3月25日「読売俳壇」
・正木ゆう子選〈御蔵にはひいな怖がる物ごろごろ 保屋野浩〉
・小澤實選〈オムレツにたんとケチャップ蝶の昼 堀尾笑王〉 - 東京新聞4月7日「東京俳壇」
・小澤實選〈どんぶりの底に福の字春の雲 山岡芳遊〉=〈食べ終えてどんぶりが空になると、底に福の一字がのぞく。陶の作者の祈りが沁みる。春の雲の取り合わせも明るい〉と選評。 - 読売新聞4月9日「読売俳壇」
・矢島渚男選〈チューリップ咥えて計る体温計 堀尾笑王〉=〈一瞬チューリップを咥えているのかと思わせる語順のいたずら。体温計を口に咥えて、花を見ている〉と選評。 - 朝日新聞4月14日「朝日俳壇」
・長谷川櫂選〈初花や犬とはいへど一周忌 渡邉隆〉
・大串章選〈高齢者に前期と後期亀鳴けり 渡邉隆〉