2019年10月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句界」(文學の森)に石寒太主宰が連載中の「牡丹と怒濤――加藤楸邨伝」。10月号は「第七十八章 句集『怒濤』の完成度」。〈『怒濤』は第十二句集。昭和六十一年十二月十日、花神社刊。A5変型版、布製、函入、二八四ページ。一ページ三句組み。装幀・熊谷博人。句数六四一句。各扉に石寒太の楸邨勤行が記されている。「あとがき」一ページ。初句索引十ページ。「加藤楸邨主宰句集目録」がある。前句集『吹越』につづき、昭和五十一年五月から昭和六十一年六月までの十年間の句を収録している。五十八年再び隠岐を訪れた記憶が忘れがたくこの集の題とした〉と、寒太主宰は句集についてまとめています。本章の冒頭で寒太主宰は当連載の題名について、〈姜琪東会長(株式会社文學の森代表取締役会長)と、この連載の約束をしたその電話口で、「連載は〝牡丹と怒濤―加藤楸邨伝〟にします」と即答したのは、この題以外にははじめから頭になかったからである。楸邨の句といえば、巷間にすぐ口にのぼるのは、やはり、《火の奥に牡丹崩るるさまを見つ》である。次に心に浮かぶのは、《隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな》 誰もが、というより、私の心の中の二句、と限定した方がいいかもしれない〉と述べています。《火の奥に》は『火の記憶』所収(40歳の作)、《隠岐やいま》は『雪後の天』所収(36歳の作)の句です。そして本章のテーマである『怒濤』ですが、〈この句集の中ころ、昭和五十八年の四月二十八日~五月一日に、「隠岐再訪」として「ふたたび隠岐 十二句」が見える。楸邨がはじめて隠岐を急遽訪れたのは、昭和十六年(一九四一)三十六歳の時であるから、実に四十八年ぶりのことだったのである。当然、楸邨にとっては感無量であった。十二句を書き下ろして句集に載せている〉、その12句の中に《撼りあがる怒濤眼中に撼るる牡丹》《牡丹の奥に怒濤怒濤の奥に牡丹》があります。さらに〈この句集の中心はやはり掉尾の、六十一年の妻・知世子の死である。自身も「あとがき」で、「六十一年一月三日、妻知世子が永眠した。生活の上でも俳句の上でも大きな伴侶だつたのでこれは手いたい打撃だつた」と記している。句集の最後は、この知世子の「永別十一句」ほか四句で締めくくられている〉。この句集『怒濤』について寒太主宰は、〈いままで、楸邨がもっとも色濃く出ている句集は『野哭』、句として皆に受け入れられたのは、蛇笏賞を受賞した『まぼろしの鹿』、私も当然そうは思っていたが、今度この稿を起こすに当たり、もう一度句集『怒濤』をじっくり読みかえしてみると、句集『怒濤』はもっとも楸邨らしく、また句としても秀れていることを再確認した〉と結んでいます。
炎環の炎
- 加藤美代子が句集『手を置く』を、文學の森より9月26日に刊行。序文を石寒太主宰が「生きる軌跡」と題して認め、〈エッセイ「手を置く」は第十四回「炎環」エッセイ賞受賞となった。この後には「十五の夏――豊川海軍工廠」十五句で結ばれている。最後の句は、《八月や六日九日わが七日》 また、本文中にも次の句がある。《八月の埋もれし七日砂時計》《戦の昭和地震の平成蕗の薹》 これらを遺したかったために、加藤美代子さんは今度の句集『手を置く』を纏めたかったのであろう。その意味で今度の句集は、加藤美代子の人生の軌跡を示したもの、といえるだろう。加藤美代子さんは、今年八十九歳となる。本当に元気である。一読したところ、旅の句がとりわけ多い気がする。それは、国内はもちろん海外にまで及んでいる。いずれも旅を共にした折の句で、なつかしくなった。どの旅もこの旅も忘れ難く、捨てられない旅の一歩である。もしかしたら、遺書のつもりでこの句集を出す決意をしたのではないだろうか? そんな気がしてご本人に確かめたところ、さらに驚いた。この句集のあと、もう一冊、決定版句集を出すつもりでいるらしい〉と紹介。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)10月号に、齋藤朝比古が「西日」と題して、〈白南風やさつと構へて鼓笛隊〉〈人間も神も揺らして祭かな〉〈ちちははを西日の部屋に置いてきし〉〈缶切と栓抜錆びし盆用意〉など12句を発表。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)10月号「投稿俳句界」
・稲畑廣太郎選「特選」〈ナイターの勝者敗者の終電車 髙山桂月〉=〈どうしても、甲子園球場の阪神巨人戦を想像してしまう。我がタイガースの圧勝で、球場近くの居酒屋で祝杯を挙げ、阪神電車の終電車に乗ると「六甲おろし」の大合唱に。奇しくも自棄酒を呷った巨人ファンも乗り合わせる〉と選評。
・角川春樹選「秀逸」〈けふひと日生くる日傘を開きけり 山内奈保美〉
・鈴木しげを選「秀逸」〈曾良の碑の乞食二文字夏怒濤 永田寿美香〉
・辻桃子選「秀逸」〈傘雨忌や京の町家の簡易宿 山内奈保美〉
・行方克巳選「秀逸」〈万緑の揺れ全山の揺れにけり 曽根新五郎〉
・山尾玉藻選「秀逸」〈ナイターの(前掲)髙山桂月〉
・山尾玉藻選「秀逸」〈曾良の碑の(前掲)永田寿美香〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)10月号「令和俳壇」
・五十嵐秀彦選「秀逸」〈風黒く黒く蜘蛛の巣綯はれゆく このはる紗耶〉 - 東京新聞9月29日「東京俳壇」
・石田郷子選〈限りある命の無数星月夜 片岡宏文〉