2020年2月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の炎
- 宮本佳世乃が、第2句集『三〇一号室』を、港の人より2019年12月21日に刊行。著者はあとがきに〈濃淡の差はあれど、体験は意味となり、私の経験として蓄積されていく。ときが来ると、俳句になることもある。もちろん、俳句になったからといって救われるわけではないけれど。淡々と日々を過ごしていたら、ずいぶん遠くまできてしまった。本書は二〇一三年から二〇一九年までの俳句をまとめた私の第二句集です〉と記述。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号の「今日の俳人(作品7句)」に、山岸由佳が「暗唱」と題して、〈息白く来て土の酸つぱい匂ひ〉〈咲くやうに昏き水面に咳こぼれ〉〈暗唱のくちびる灯り凍れる夜〉など7句を発表。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)2月号の「俳句会への招待――注目の俳人をピックアップ!!」に、永田寿美香が「如己堂」と題して、〈如己堂の確かな二畳春近し〉〈熱燗や龍馬人肌ひと誑し〉など5句を発表。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)12月号の「俳句四季新人賞最終候補者競詠」に、柏柳明子が「柔き棘」と題して、〈竜の玉チャイムとともに仕舞ふ本〉〈抱きしめられてセーターは柔き棘〉など5句を、倉持梨恵が「シュレッダー」と題して、〈まばたきに弾く目薬今朝の冬〉〈神の留守言葉を刻むシュレッダー〉など5句を、箱森裕美が「絵の具」と題して、〈水多き絵の具のごとく冬の蝶〉〈作業着を振りて寒靄落としけり〉など5句を発表。
- 「第23回毎日俳句大賞」(毎日新聞社)が、応募総数約6,000句(一般の部)を予備選考によって822句に絞り、その中から11名の選者により各々が特選1句、秀逸1句、佳作30句を選出、その結果最終選考に残った32句から、再審査により、大賞2句、優秀賞4句、入選26句を決定。
◎「入選」〈野生馬のたてがみ二百十日かな 曽根新五郎〉=井上康明選「特選」〈台風が近づく九月初旬の季節感を背景に、野生に生きる馬の荒々しい生命感が伝わる。たてがみが吹き始めた風になぶられるようになびく。その色艶がありありと伝わってくる〉と選評。
▽最終選考まで残った入選候補句
○〈わが畑に雉子降り立つ佳き日かな 綿引康子〉=大串章選「佳作」、小澤實選「佳作」。
○〈筑波嶺の雲ひとつ浮き蝌蚪の国 辺見狐音〉=有馬朗人選「佳作」、高野ムツオ選「佳作」。
※特別企画「暮らしの俳句」は、応募約2,000句を予選選考によって458句に絞り、その中から11名の選者により各々が特選1句、秀逸1句、佳作10句を選出、それらから大賞1句、準大賞2句、優秀賞8句、入選12句を決定。
◎「準大賞」〈空よりも青田眩しく退院す 竹市漣〉=宇多喜代子選「特選」〈嬉しい退院の日。久々の戸外の輝きが目にしみる。まぶしい夏空から目を転ずれば、眼前に青々と広がる青田。病床から戻ってきた喜びが湧きあがる〉と選評、井上康明選「佳作」。
▽その他、各選者の入選句
・有馬朗人選「一般 佳作」〈尾瀬ヶ原新任教師たりし夏 松本平八郎〉
・石寒太選「一般 佳作」〈検眼の順番待ちやつくつくし 渡辺広佐〉
・宇多喜代子選「一般 佳作」〈日めくりの三月十一日握る 曽根新五郎〉
・宇多喜代子選「一般 佳作」〈障子貼り替へて未来の前にゐる 内野義悠〉
・小川軽舟選「一般 佳作」〈透かしみる血潮の向かう鳥渡る 内野義悠〉
・小澤實選「暮らし 佳作」〈盆用意渚の砂を墓へ敷き 曽根新五郎〉
・高野ムツオ選「暮らし 佳作」〈月光の染み込む島の一夜干し 曽根新五郎〉
・津川絵理子選「一般 佳作」〈はまなすや大きくうごく夜の海 南風子〉
※結社別予選通過句数においては、「炎環」は43句で、「鷹」(小川軽舟主宰)の158句、「百鳥」(大串章主宰)の47句についで第3位。
▽一般の部・いのちの俳句の予選通過句
〈蜉蝣の翅脈八月十五日 竹市漣〉〈実石榴の中より話し声がする 竹市漣〉〈光欠く目に手を置きし明易し 竹市漣〉〈地球史に人といふ染み草の花 内野義悠〉〈そぞろ寒箪笥の上の置薬 前田拓〉〈春の闇合せ鏡の向かう側 深山きんぎょ〉〈蒼天へ瀬音高まり初紅葉 前島きんや〉〈井月の石ころの墓野分蝶 村田敏行〉〈秋深む戦利品のごと本を積み 鈴木まんぼう〉〈ドラマ見てニュース見て泣き九月来る 深山きんぎょ〉〈貰ひきし檸檬のひとつ書架へ置き 深山きんぎょ〉〈周波数合はぬ夫婦よ赤とんぼ 前島きんや〉〈星空に恋をしてゐる案山子かな 高橋透水〉〈人の智の人を亡ぼす原爆忌 曽根新五郎〉〈私にはうれしき日なり敗戦日 曽根新五郎〉〈一杯の四万六千日の酒 曽根新五郎〉〈歯ブラシで仏像みがき年用意 高橋透水〉〈島人の数より多き猫の恋 曽根新五郎〉〈学校は島の中央文化の日 曽根新五郎〉〈明日葉の今日摘む三日目には摘む 曽根新五郎〉〈かき混ぜて漉すくさや汁豊の秋 曽根新五郎〉〈裏返すくさや勤労感謝の日 曽根新五郎〉〈いつも行く島の明日葉畑かな 曽根新五郎〉〈雑本の所狭しや冬銀河 渡辺広佐〉〈蕣を蒔いてふたりの暮らしかな 長濱藤樹〉〈南吹く渡舟の課外授業の子 南風子〉〈走り根に歩幅を迷ふ夏の山 林益子〉〈どの墓碑も海向く離島終戦日 鈴木経彦〉〈爽やかや退院告げし主治医の眼 永吉芳典〉〈駅前のお国訛りや葡萄売 大西ぼく太〉〈ひとり居の書物の整理初嵐 保田昌男〉〈学舎は今も学舎喜雨の中 永田寿美香〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)2月号「投稿俳句界」
・櫂未知子選「特選」〈海沿ひに線路の終り律の風 髙山桂月〉=〈「律の風」は、秋らしい趣のある風のこと。よくこの季語を見つけてくださったと感服致しました。上五中七の少し寂しい内容にもよく合っています〉と選評。
・櫂未知子選「秀逸」〈十六夜の伝言板のさやうなら 曽根新五郎〉
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈綺羅星の地表に播かれ蕎麦の花 小野久雄〉
・大串章選「秀逸」〈台風の真夜の看取りとなりにけり 曽根新五郎〉
・加古宗也選「秀逸」〈天国の話夜長の灯に集ひ 結城節子〉
・佐藤麻績選「秀逸」〈触れてみる兜太の庭の榠樝の実 堀尾笑王〉 - 毎日新聞1月13日「毎日俳壇」
・鷹羽狩行選〈薪割りのこつを覚えて冬日和 谷村康志〉 - 毎日新聞1月20日「毎日俳壇」
・小川軽舟選〈印鑑の朱肉鮮やか初仕事 谷村康志〉 - 産経新聞1月23日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈元旦や富士を仰ぎて武者震ひ 谷村康志〉 - 毎日新聞2月3日「毎日俳壇」
・片山由美子選〈香りよき名刺もらひて初仕事 谷村康志〉
・西村和子選〈愛犬の小屋繕ふも年用意 谷村康志〉
・鷹羽狩行選〈相客と通の顔して晦日蕎麦 谷村康志〉 - 産経新聞2月6日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈失脚といふ結末や冬木立 谷村康志〉 - 日本経済新聞2月8日「俳壇」
・黒田杏子選〈リハビリの妻と初日を分かち合ふ 谷村康志〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)1月号・2月号の「【座談会】最近の名句集を探る」において、筑紫磐井・齋藤愼爾・榮猿丸・宮本佳世乃の4氏が、金子兜太句集『百年』、鍵和田秞子句集『火は禱り』、辻内京子句集『遠い眺め』、中嶋憲武句集『祝日たちのために』、藤永貴之句集『椎拾ふ』、生駒大祐句集『水界園丁』の6句集を取り上げて批評。この中で宮本佳世乃は、『百年』について〈句集の中で一つ大きく山になっているのが、二〇一一年の東日本大震災以降の、「津波のあとに老女生きてあり死なぬ」などを含んだ十五句と、二〇一〇年の一ヶ月間の入院の句も、死というものに向き合ったという意味で大きな意味を持つ作品群だと思いました。強いリズムのある句と、先ほど磐井さんが仰ったような穏やかな句があって、穏やかな句には花が何回も出てきています。例えばキブシの花やクロモジの花、ウワミズザクラなどがよく出てきて、自然と一緒にいるのも兜太さんの生活なんだと感じました〉と、また、『祝日たちのために』について〈中嶋憲武さんは同じ結社ですが、普段作っている句はこういう句ばかりではないです。アーティストが作るベストアルバムみたいなものではなくて、このアルバムはこういう意図で作りましたという意思がすごくはっきりしている、コンセプトアルバムのような句集だなと思いました。収録されている銅版画はこの句集に合わせて作ったそうです。句と銅版画を同時期に作ったということで、一冊の句集を作る意気込みみたいなものも感じました。この句集全体がいわゆる意味から外れるように作っていて、意味で理解してほしくない、リズム感とかイメージで読んでほしいという、そんな句集になっています〉と発言。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号の「鍵和田秞子句集『火は禱り』特集」における「一句鑑賞」に宮本佳世乃が寄稿。《夕蟬の声にどつぷり家古ぶ》に対して、〈生命のある限り、生き抜いてゆかんと意志を持つ存在として、夕蟬が、時間とともに「どつぷり」そこにある。毎年蟬の声を聞いてきた家の住人も、やがて歳を重ねる。同じく家も古びる。蟬も、人も、家もともに生き、今を息づいている。情感もありつつ客観的な「どつぷり」はなかなか出てこない〉と鑑賞。
- 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)1月号の「令和時代の現代俳句新鋭たち」という企画に宮本佳世乃が「俳句を生きる」と題して寄稿。昨年の石田波郷俳句大会新人賞を受賞した谷田部慶太氏の「はや濁る」について、〈この連作に作者はどのように介在しているかと考えると、俳句とがっぷり四つだ〉と述べ、つづいて小野あらた氏の第一句集『毫』をからいくつかの句を選んで鑑賞し、〈今回いただいた「令和時代の現代俳句」というのは、実は未だよく分かっていないが、どの時代に読んだとしても、この句集が好きと言うだろう。若いとか、若くないとかではなく、俳句を生きていることの切実さが伝わってくるから〉と記述。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)2月号において、「第三十四回俳壇賞」の候補作品となった倉持梨恵の「路線図」を選考委員の星野高士氏が、〈なかなか読み応えのある三十句。しかしながら佳句と凡句の差がどれくらいあるかはその作品の分れ目。《椋鳥の合流したる空の中》も好きな作ではあるが、「空の中」はもう少し考えられるかも知れない。《聞き慣れぬ曲に玉ねぎ刻みけり》、一寸面白い仕立て。この辺りを伸ばすと楽しくなる〉と講評。作品にはほかに、〈ボクシングジムに染み込む秋夕焼〉〈体温とハンドクリーム冬隣〉〈着ぶくれて牛乳ひとつ買ひにゆく〉〈路線図の絡まる都心夏来る〉など。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)2月号の「俳壇月評」(長嶺千晶氏)が、「俳句四季」十二月号俳句四季新人賞最終候補者競詠五句より、《書くことは傷つくること冬の空 柏柳明子》《時間外窓口狭し冬ざるる 倉持梨恵》を取り上げて紹介。