2020年4月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の炎
- 総合誌「俳句界」(文學の森)4月号「投稿俳句界」
・古賀雪江選「特選」〈音消えし工事現場の寒さかな 山内奈保美〉=〈昼間はクレーンが忙しく上がったり、多くの工事人で賑わっていた工事現場も、夕刻工事が終わるとぱたりと人声も聞こえず、俄かに寒さが募るようである〉と選評。
・古賀雪江選「秀逸」〈午後の日の庭半分の寒さかな 結城節子〉
・古賀雪江選「秀逸」〈湯気こもる波止場食堂冬の朝 松本美智子〉
・辻桃子選「特選」〈冬鳥の羽落としゆく堅田かな 高橋透水〉=〈作者は近江の堅田に来て松尾芭蕉の句《病雁の夜寒に落ちて旅ねかな》を思っているのだろう。すると、空を一羽の冬鳥が飛んでいき、一枚の羽がひらひらと落ちてきた。芭蕉と堅田への挨拶と敬意の心が表われている〉と選評。
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈介護士のマスクほほゑむまなこかな 香西さらら〉
・今瀬剛一選「秀逸」〈銀杏散る満たされてゆく大地かな 結城節子〉
・加古宗也選「秀逸」〈蕎麦ひとつ買うて服喪の年暮るる 髙山桂月〉
・西池冬扇選「秀逸」〈らふそくの火の縮こまる冬の朝 高橋透水〉
・西池冬扇選「秀逸」〈鰤起こしピッと立ちをる猫の耳 長濱藤樹〉 - 産経新聞3月19日「産経俳壇」
・寺井谷子選〈初蝶と赤信号を待ちにけり 谷村康志〉 - 毎日新聞3月30日「毎日俳壇」
・片山由美子選〈永き日や口さみしくてチヨコレート 谷村康志〉 - 日本経済新聞4月4日「俳壇」
・横澤放川選〈お婆さん荷物持たうか春夕焼 谷村康志〉=〈殺伐たる現代。昔はこんなだったといったら、頽齢だといわれるか。でもこの情感こそが春夕焼だ〉と選評。 - 東京新聞4月5日「東京俳壇」
・石田郷子選〈ビストロの不揃ひの椅子花ミモザ 渡辺広佐〉 - 毎日新聞4月6日「毎日俳壇」
・西村和子選〈お喋りをするもリハビリ芝桜 谷村康志〉
・西村和子選〈沖浪の音なく若布干しにけり 山内奈保美〉 - 日本経済新聞4月11日「俳壇」
・横澤放川選〈凍返る祖父沈みます海にして 谷村康志〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)4月号の「全国の秀句コレクション」が〈毎月の受贈誌より編集部選〉の一句として「炎環」誌より《五人と一匹家族写真や冬銀河 丸山きゅん》を採録。
- 朝日新聞3月29日「朝日俳壇」のコラム「俳句時評」(青木亮人氏)が、「うつろいの響き」と題して〈冬から春のうつろいを句で綴〉った文の中で、〈何気ない喜びに彩られた日常はあまりに馴染み深いため、喪失後に初めて尊さに気付く場合が多い。それは痛切な響きを伴いながら、いつの世も繰り返されたやるせない悼みだった。 《春の泥ブルーシートの奥は海》 宮本佳世乃『三〇一号室』の句で、東北のある地では春を迎えても往時の日常が戻らないままだ〉と記述。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)4月号の「合評鼎談」(三村純也氏・山尾玉藻氏・山口昭男氏)が、同誌2月号掲載の山岸由佳作「暗唱」について、〈三村「《ここも他郷冬の芒へ手を伸ばす》 類句があるような感じもするんですけど、ある意味で境涯性が出ているかな。 《冬麗の花粉をつけて戻り来し》 象徴的な言い方で、自分というものを表現していこうという、これも一つの方法なのかなあ」、山尾「《暗唱のくちびる灯り凍れる夜》 凍て付くような夜にしっかり動いているのは暗唱する口だけだという発見はある。〈くちびる灯り〉は「そこだけが明るい」という表現だと思います。それが分かったので戴きました」〉と合評。
- 俳句マガジン「100年俳句計画」(マルコボ.コム)4月号の「句集の本棚」(岡田一実氏)が宮本佳世乃句集『三〇一号室』を紹介して〈浮遊感ある言葉と言葉のつながりはどこか寂しげで、詩的空間の途方もなさを感じさせる〉と評し、《瓶を持つ手のふたたびの霧の中》に対して〈手だけが身体から遊離してあるわけではないのであろうが、手とその持っている瓶のみが浮いているような映像を想像させる。「霧」→「晴れ」→「霧」という周囲を取り巻く湿度や明るさ、明確さの移りゆく感じがモノの性格をも変異させるような風合いである〉と鑑賞。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)4月号の大特集「俳句再入門(入選の鉄則10カ条)」のうち「一物仕立てと取り合わせ」の項を宮本佳世乃が執筆。「『伝わる』俳句」と題して、〈句会で点が入ると嬉しい方は多いと思います。「伝わった」としみじみした気持ちになるからでしょう〉と筆を起こし、〈私も、取り合わせで句を作ることが多く、まず詠みたいことやものを俳句の種として、一句を作っています。作句途中で季語を選ぶことになった場合、時候、植物、動物……と歳時記をめくりながら、大きな括りをまず決めます。たとえば、心象を現したい場合、季語に植物を持ってくるなどです。途中でしっくりこないと思ったら、言葉や語順を入れかえてみたり、類義語辞典を引いてみたり、助詞を変えたりしています。私自身は、第一読者である自分自身に「伝わる」、自分の心がポーンと飛べるような、そんな俳句が作りたいと思っています〉と叙述。