2020年7月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)7月号の「名句水先案内」(小川軽舟氏)が、《少年の雨の匂ひやかぶと虫 石寒太》を取り上げ、〈句集『風韻』(二〇一七年)所収。石寒太(一九四三年~)は加藤楸邨に師事、毎日新聞社に勤めながら俳人として旺盛に活動してきた。この句は雨の日に一人でかぶと虫と遊ぶ子どもを想像させる。網戸の外に降りしきる雨の匂いが少年にも染みついている。少年とかぶと虫と言えば捕虫網を掲げて日盛りの野山を駆け巡る健康的な姿を連想するが、中七でそれをひっくり返してみせた句である。雨の匂いは今日の天気の匂いというだけではない。それはおそらく作者の幼少時の経験にも根差した少年の本質の一つなのだ〉と鑑賞しています。
炎環の炎
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)7月号の「精鋭10句競詠」に、西川火尖が「慣性の国で」と題して、〈注がれしごと入学の列来る〉〈いつからか逃げ花冷えの鬼ごつこ〉〈はちみつを減らし家族の五月闇〉〈紫陽花やぼとりぼとりと棄てらるる〉など10句と短文を発表。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)7月号「投稿俳句界」
・高橋将夫選(題「日」)「秀作」〈乗るものは日のひかりのみ花筏 高橋透水〉
・高橋将夫選(題「日」)「秀作」〈大屋根の茅滑りくる春日かな 長濱藤樹〉
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈春光を押し分けてくる滑り台 高橋透水〉
・古賀雪江選「秀逸」〈最期まで看取りし朧月夜かな 曽根新五郎〉
・古賀雪江選「秀逸」〈春愁の口笛掠れやすきかな 結城節子〉
・西池冬扇選「秀逸」〈白梅や縁切寺の急階段 堀尾笑王〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)7月号「令和俳壇」
・星野高士選「推薦」〈島の子の一人のための卒業歌 曽根新五郎〉=〈島の学校は児童が一人ということもあるのであろう。中七の措辞が嬉しいことではあるがどこか切ない。胸を張った一人の卒業生の姿がいきいきとして伝わってきた〉と選評。 - 産経新聞6月18日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈黒揚羽この荒ぶ世をおほらかに 谷村康志〉 - 毎日新聞6月22日「毎日俳壇」
・西村和子選〈ポルト酒の酔ひ仄として夏館 谷村康志〉 - 読売新聞6月29日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈この坂を登れば登るほど緑 谷村康志〉 - 東京新聞7月5日「東京俳壇」
・石田郷子選〈もう少し生かしてもらふ新茶かな 片岡宏文〉 - 読売新聞7月6日「読売俳壇」
・正木ゆう子選〈また作るからと宥めて豆御飯 谷村康志〉=〈早々とお釜が空になってしまった豆ご飯。食べ足りない家族を「また作るから」と宥めている。グリーンピースの旬はあっという間だ〉と選評。 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)7月号の「新刊サロン」において、宮本佳世乃句集『三〇一号室』を榮猿丸氏が「感覚の冴えに驚く」と題して紹介、句集より8句を取り上げて鑑賞しているが、そのうち《来る勿れ露草は空映したる》《咲きながらおほかみの足跡のゆく》に対しては〈二句とも上五の表現にインパクトがあるが、露草と空の色、おおかみの足跡と花片のかたちの類似により、読者は無理なくその穏やかな詩情を受け取る。どこかアニメ的な映像世界をも思わせ、そこに現代の感覚がある〉と、また《密柑山はやく帰つてはやく死ぬ》に対しては〈いきなり刃を突きつけられたような、怖い句である。しかし何度も読んでいると、上五中七と下五「はやく死ぬ」の落差に、不思議なカタルシスを覚える。意味や解釈によるものではなく、音楽的なそれに近い。こうした感覚の冴えに驚かされる〉と記述。