2020年10月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の炎
- 総合誌「俳句界」(文學の森)10月号「投稿俳句界」
・中村正幸選「特選」〈てのひらのやさしき窪み初蛍 結城節子〉=〈初蛍の小さな命を、やわらかく抱くてのひらの窪みを、「やさしき窪み」と表現した作者のあたたかい心に惹かれた。てのひらの蛍と一体となった作者はいま至福の時にある〉と鑑賞。
・中村正幸選「秀逸」〈ハンカチの真白き光たたみけり 山内奈保美〉
・今瀬剛一選「秀逸」〈海神へ向かつて泳ぐ海びらき 曽根新五郎〉
・能村研三選「秀逸」〈野生馬のたて髪の風青嵐 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)10月号「令和俳壇」
・山田佳乃選「秀逸」〈しんがりにうなじの白き祭髪 松本美智子〉 - 日本経済新聞9月12日「日経俳壇」
・横澤放川選〈大仏は確かに美男秋高し 谷村康志〉 - 産経新聞9月17日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈餡蜜や俺もかつては不登校 谷村康志〉 - 日本経済新聞9月19日「俳壇」
・黒田杏子選〈マスカット最後の一粒は妻に 谷村康志〉 - 東京新聞9月20日「東京俳壇」
・小澤實選〈台風は大方西方浄土より 片岡宏文〉 - 毎日新聞9月21日「毎日俳壇」
・片山由美子選〈画廊から甘味処へ秋日傘 谷村康志〉 - 毎日新聞9月28日「毎日俳壇」
・西村和子選〈子は母の方へ寝返る秋の蚊帳 谷村康志〉
・小川軽舟選〈ホテルより見下ろす夜景震災忌 谷村康志〉=〈高層ホテルから東京を見下ろす。次の大地震でこのまばゆい夜景はどうなるのだろう〉と選評。 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)10月号の「名句水先案内」(小川軽舟氏)が、《ニュータウンの短き坂よ木の実降る 宮本佳世乃》を取り上げ、〈句集『三〇一号室』(二〇一九年)所収。宮本佳世乃(一九七四年~)は石寒太の「炎環」に所属しつつ同人誌でも活動する。多摩ニュータウン、千里ニュータウンなど高度経済成長期の住宅供給はニュータウンと称する大規模開発によって賄われた。整然とした舗装路に残る坂はかつての地形の記憶でもある。里山の樹木は切り倒されたが、ニュータウンが時代を経て古びるとともに、幼かった街路樹が鬱蒼たる大木になり木の実を降らす。何気ないスケッチに戦後日本の歴史が刻まれていることが興味深い〉と鑑賞。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)10月号の「本の庭」(菊田一平氏)が、柏柳明子句集『柔き棘』を取り上げ、〈章立ては「他人」「おしやべりな鏡」「明日の服」「アマテラス」「遠き虹」の五つ。タイトルはそれぞれ、《学校のわたしは他人赤い羽根》《おしやべりな鏡を閉ぢてクリスマス》《台風圏四角くたたむ明日の服》《闇鍋の闇を開けたるアマテラス》《遠き虹渋滞すこし動きだす》の句による。章立てのタイトルだけ読んでいると俳句というよりは短編小説のタイトルのように即物的だ。表題句となった《抱きしめられてセーターは柔き棘》にしても、「柔き棘」だけでは句集の表題とはどこか風情が違う。小説風のタイトルや表題が「柏柳風季語のマジック」でいい具合に「ほんわり」した一句になっている。感性に溢れた素晴らしい一冊だと思った〉と紹介。
- 愛媛新聞9月15日のコラム「季のうた」(土肥あき子氏)が、《台風圏四角くたたむ明日の服 柏柳明子》を取り上げ、〈直撃されれば甚大な被害となる台風。あらゆるデータから進路予報が算出されるが、時として迷走するものもあり、まことに厄介な自然現象である。時間を追って示される暴風警戒域の予報円は徐々に大きくなり、日本列島を北上する。整然とたたまれた四角い衣類が、渦をなす台風に決然と対抗しているかに見えてくる〉と鑑賞。句は句集『柔き棘』より。
- 機関紙「神奈川県現代俳句協会会報」第149号(9月発行)の特集「句集紹介」において杉美春氏が、柏柳明子句集『柔き棘』を取り上げ「日常に潜む深淵」と題して、〈本句集の俳句には奇をてらった表現や力みがなく、親しみやすく平易である。しかし、この表現の平明さに騙されてはならない。作者は平凡な日常に潜む深淵やズレ、違和感をしっかりと捉えているのだから。言葉の柔らかな口当たりのよさに騙されてはならない。そこには「棘」が潜んでいるのだから〉と評し、21句を選んで紹介、《書くことは傷つくること冬の空》に添えて〈詠うことでモノに傷をつくること、世界に穴をあけること、表現者としてその傷や穴と向き合い格闘すること、対象に別の視点や発見をもたらすこと。表現者としての真摯な姿勢が伝わってくる句集である〉と記述。