2021年3月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号の「作品16句」に石寒太主宰が「冬から春へ」と題して〈玄室のこゑ玄冬の地底より〉〈仰ぎつつくぐりし山廬雪の門〉〈冬たんぽぽ絮吹く円墳の絶巓〉〈AI対人間HAIKU年詰る〉〈戦ぐ陰毛漂ふ魔羅の初湯かな〉〈初夢のひとつ宇宙のゴミ掃除〉〈春疾風芭蕉立机の日本橋〉〈写真集「TSUNAMI」の鬼哭風光る〉など16句を発表しました。
炎環の炎
- 総合誌「俳句界」(文學の森)3月号の「北斗賞受賞作家競詠」に西川火尖が「偏在」と題して、〈銀紙の雲の破れし寒さかな〉〈ぼろぼろの白息漏らす画家の黙〉〈夕焚火抜けても寄目やめられず〉など10句を発表。
- 関西現代俳句協会のホームページにこのはる紗耶が「すり傷」と題して、〈綿虫のすりぬけてゆく示談かな〉〈数へ日を堰き止めてゐるパトランプ〉〈『アナタノタメヲ思ツテ言フノ』初電話〉など10句を発表。
- 「第24回毎日俳句大賞」(毎日新聞社)が、応募総数約5,700句(一般の部)を予備選考によって1,856句に絞り、その中から11名の選者により各々が特選1句、秀逸2句、佳作40句を選出、その結果最終選考に残った85句から、再審査により、大賞1句、準大賞1句、優秀賞5句、入選25句を決定。
◎「優秀賞」〈見送つて取り残されし風の盆 曽根新五郎〉=正木ゆう子選「特選」〈華やかに賑やかに、踊りの列を見送った後の思わぬ寂しさが、読者にも惻々と伝わる。「取り残される」という感情を、予想していなかったのだ。どこか人生にも通じるような〉と選評、宇多喜代子選「佳作」。
◎「入選」〈みちのくの遺書みちのくの帰り花 曽根新五郎〉=井上康明選「秀逸」〈東日本大震災から十年。初冬に咲くあえかな帰り花は、あたかもみちのくからの遺書であるかのようだ。帰り花のひそかな華やぎは、長い歴史の中のみちのくの逆境を語っている〉と選評、津川絵理子選「佳作」。
◎「入選」〈光背の裏まで拝む秋の昼 高橋透水〉=宇多喜代子選「秀逸」〈秋の昼ならではの参詣である。大気が乾き、御堂の中にまで爽やかな秋気が漂う。仏と対面して拝するだけでなく、その仏像の裏に回り、背面までを拝む〉と選評。
▽最終選考まで残った入選候補句
○〈テーブルに水の広がる晩夏かな 曽根新五郎〉=宇多喜代子選「佳作」、津川絵理子選「佳作」。
○〈家系図の先を書き足す良夜かな 曽根新五郎〉=有馬朗人選「佳作」、井上康明選「佳作」。
○〈一本の足浮いてゐる茄子の馬 鈴木健司〉=小澤實選「佳作」、津川絵理子選「佳作」。
○〈いくさある星より見上ぐ大銀河 高橋透水〉=石寒太選「佳作」、高野ムツオ選「佳作」。
▽その他、各選者の入選句
・有馬朗人選「佳作」〈十六夜の先をゆづりし渡月橋 曽根新五郎〉
・有馬朗人選「佳作」〈蓮の実や女船頭櫓で唄ふ 高橋透水〉
・石寒太選「佳作」〈ホスピスの母の口より田植唄 谷村康志〉
・井上康明選「佳作」〈八月の造花ばかりの墓前かな 曽根新五郎〉
・宇多喜代子選「佳作」〈つぎつぎと写メールの来る良夜かな 万木一幹〉
・大串章選「佳作」〈新涼の掬へば消ゆる水の青 曽根新五郎〉
・小川軽舟選「佳作」〈コスモスや夢の少女は母なりき 高橋透水〉
・小澤實選「佳作」〈橋梁の錆落とす音雲の峰 堀尾笑王〉
・津川絵理子選「佳作」〈青インク滲みしプール日誌かな 結城節子〉
・夏井いつき選「佳作」〈箱庭の平和こはさぬやう遊ぶ 結城節子〉
・正木ゆう子選「佳作」〈天高しコンバインより若き嫁 高橋透水〉 - 「第15回角川全国俳句大賞」(角川文化振興財団)が、応募総数自由題8,502句、題詠「雨」3,062句から、選者10名(有馬朗人・茨木和生・宇多喜代子・片山由美子・黒田杏子・高野ムツオ・西村和子・正木ゆう子・三村純也・宮坂静生の各氏)により、自由題部門の大賞1句、準賞3句、審査委員会特別賞3句、題詠部門の大賞1句、準賞1句、審査委員会特別賞2句、その他各賞の受賞句を決定し、総合誌「俳句」3月号にて発表。
◎自由題「審査委員会特別賞」〈しばらくは風のかたちの芒原 曽根新五郎〉=宇多喜代子選「特選」
・茨木和生選「特選」(自由)〈恵方へと抜けし胎内くぐりかな 曽根新五郎〉
・宇多喜代子選「秀逸」(題詠)〈万緑の雨万緑の雫かな 曽根新五郎〉 - 「第22回NHK全国俳句大会龍太賞」(NHK、NHK学園)が、608の応募作品(1作品15句)から、一次選考(選者は井上康明・今井肖子・岩岡中正・大石悦子・小島健・能村研三・吉田成子の各氏)により109作品を選出し、その中から本選者4名(稲畑汀子・宇多喜代子・大串章・高野ムツオの各氏)がそれぞれ入選作品を選んだのち討議により龍太賞1作品、選者賞4作品を決定して発表。
○「入選」竹市漣作「千年」〈恐るるほど白き胸なり大白鳥〉〈千年の礎石の落葉踏み締める〉など15句
○「入選」山内奈保美作「沖縄忌」〈自決壕の入口の窪とかげ這ふ〉〈室外機灼け島唄の酒場かな〉など15句 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号「令和俳壇」
・対馬康子選「秀逸」〈月冴えて三角錐の角にいる 木下周子〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)3月号「俳句界投稿欄」
・今瀬剛一選「特選」〈次々と大綿の飛ぶ句碑ひとつ 長濱藤樹〉=〈この作品は「句碑」を中心にして情景を堂々と見せているところがいい。「ひとつ」という限定したところもいいし、句碑を取り巻く情景の把握が確かである。動いては消え、また見えるという「大綿」の把握が巧い〉と選評。
・角川春樹選「特選」〈小春日や琥珀に眠る虫の影 結城節子〉=〈樹脂の化石である琥珀には、昆虫の入っているものも多い。掲句の虫も、琥珀に囚われてしまった虫の影である。琥珀の光沢と小春日が気持よく照応している〉と選評。
・角川春樹選「秀逸」〈秋深し面接待ちのパイプ椅子 堀尾笑王〉
・高橋将夫選(題「飛」)「秀作」〈飛行機を乗りついで行く神の旅 曽根新五郎〉
・古賀雪江選「秀逸」〈小夜時雨金券ショップの早仕舞 小野久雄〉
・辻桃子選「秀逸」〈敏雄忌の敏雄の好きなくさや焼く 曽根新五郎〉
・西池冬扇選「秀逸」〈冬夕焼被爆ドームの影法師 堀尾笑王〉
・能村研三選「秀逸」〈一枚の敏雄忌に焼くくさやかな 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)3月号「四季吟詠」
・齋藤愼爾選「秀逸」〈倶会一処共同墓地の蟬時雨 赤城獏山〉
・小川晴子選「秀逸」〈合鍵の形見となりし年惜しむ 曽根新五郎〉
・水内慶太選「秀逸」〈紅葉且つ散るその先は流人墓地 曽根新五郎〉
・行方克巳選「秀逸」〈飛石のひとつひとつや初時雨 曽根新五郎〉
・能村研三選「秀逸」〈天気図に雲ひとつ無き良夜かな 曽根新五郎〉
・髙橋千草選「秀逸」〈蓑虫の命の糸の細さかな 曽根新五郎〉 - 読売新聞2月16日「読売俳壇」
・小澤實選〈自らの頰ひつぱたき寒稽古 谷村康志〉=〈厳しい寒中の稽古に参加するに当たって、自分の頰をひっぱたいて気合を入れているわけだ。この気合、武道の稽古のような気がする〉と選評。 - 毎日新聞2月16日「毎日俳壇」
・片山由美子選〈水仙の蕾ほころぶ手術前 谷村康志〉=〈開きかけた花を前にして、きっとうまくいくはずとみずからに言い聞かせているのだろう〉と選評。
・西村和子選〈熱燗や小心者と見破られ 谷村康志〉=〈ということは豪胆を装っているのだ。内心の忸怩たる思いを季語が語っている〉と選評。
・井上康明選〈守衛所の古びし薬缶雪しまき 谷村康志〉
・小川軽舟選〈春を待つ新幹線の窓に月 岡良〉 - 読売新聞2月22日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈OKと両腕で丸春来る 谷村康志〉 - 産経新聞3月4日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈骨となる父の軽さや枯木立 谷村康志〉 - 読売新聞3月8日「読売俳壇」
・宇多喜代子選「一席」〈歳時記の表紙はピンク春来る 谷村康志〉=〈桜や桃やレンゲなどに連なるピンク。まさに春の色である。春の季語のつまった歳時記の春の部。それだけでうきうきした気分になる〉と選評。 - 毎日新聞3月8日「毎日俳壇」
・小川軽舟選〈空を切る竹刀の音や寒稽古 岡良〉 - 週刊誌「サンデー毎日」3月21日号の「サンデー俳句王(特別編)」が、「3.11を詠む」をテーマに1月26日~2月8日の間に応募のあった俳句から6人の宗匠が選句し、その結果を発表。
・嵐山光三郎選〈生かされて生きて墓守墓洗ふ 曽根新五郎〉
・嵐山光三郎選〈地震十年故郷の花に逢ひに行く 福山みかん〉
・嵐山光三郎選〈十年待ったよ帰っておいであゆみちゃん 杉まろん〉
・嵐山光三郎選〈シーベルトの土の静けさ春の月 三井映泉〉
・石寒太選〈どっどどどどうど みちのくの春よ来い 北悠休〉
・石寒太選〈子へ伝ふてんでんこの語三月来 伊藤航〉
・石寒太選〈地震十年(前掲)福山みかん〉
・川上弘美選〈遁走の駝鳥の行くえ春の雲 三井映泉〉
・戸田菜穂選〈みちのくの幾万の灯よさくらの芽 福山みかん〉
・戸田菜穂選〈波なぎし海にやさしく三月来 杉まろん〉
・やくみつる選〈みちのくの(前掲)福山みかん〉 - 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)2月号の連載「続々・日本の樹木十二選」(広渡敬雄氏)が、当月のテーマである「楮・三椏」を解説する中で、三椏を詠んだ例句として《三椏の蕾ますます眠くなり 宮本佳世乃》を取り上げ、〈春光の中、それを見つめていると確かに眠くなる〉と一言。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)3月号の特集「俳人たちの3・11――東日本大震災から十年」に「愛情の反対語は無関心」と題するエッセイを寄せた福島県いわき市出身の山崎祐子氏が、そのエッセイの中で2012年11月刊行の俳句創作集『いわきへ』を紹介。同書は、氏らの企画する〈民族文化財に触れ、津波被災地を訪ねるツアー〉に参加した俳人7名によって編まれたもので、同書から1名1句ずつ取り上げた中の1句に、《なめらかに加はつてゆく踊りの輪 宮本佳世乃》。
- 結社誌「澤」(小澤實主宰)3月号の「窓 総合誌俳句鑑賞」(柳元佑太氏)が《謎解きの件に入る炬燵かな 宮本佳世乃》を取り上げ、〈どうやら謎解きの一場面のようです。探偵と被疑者数人が炬燵の四辺を囲んでいます。物語もいよいよ終盤、謎解きのくだりに入ってゆく。炬燵の上を飛び交う名推理と反駁。項垂れる犯人。得意げな探偵。みな炬燵の中。もう少し現実的な読み方をするならば、炬燵に足を入れ推理小説を読んでいて謎解きのくだりに入った、くらいでしょうか。「謎解きの件に入る」と「炬燵に入る」のどちらの意味でも取れる位置に「入る」が置かれており、不思議とシームレスな措辞の接着が行われています〉と鑑賞。句は「俳壇」1月号より。