2021年9月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の炎
- 「第67回角川俳句賞」(角川文化振興財団)が784篇の応募作品(1作品50句)から選考委員4名(小澤實・岸本尚毅・仁平勝・正木ゆう子各氏)により岡田由季作「優しき腹」を受賞作と決定。受賞作品、選考経過等については「俳句」11月号誌上に掲載予定。
- 箱森裕美が「第35回川口市芸術奨励賞」を受賞。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)9月号「令和俳壇」
・井上康明選「推薦」〈遠くなる船遠くなる卒業生 曽根新五郎〉=〈小学生か、中学生か、島に居住する児童生徒が、卒業して就職、進学するとき、島を出ていかなければならない。その卒業生を見送る情景。〈遠くなる〉の繰り返しに見送る人の惜別の思いが籠る。ひとりひとりの思い出とともに〉と選評。 - 総合誌「俳句界」(文學の森)9月号「投稿欄」
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈葉桜の空のちらばる余白かな 曽根新五郎〉
・辻桃子選「秀逸」〈またひとつ消えゆく会や余花の雨 長濱藤樹〉
・中村正幸選「秀逸」〈山ひとつ招き入れたり夏座敷 長濱藤樹〉
・能村研三選「秀逸」〈葉桜の風のリレーの並木かな 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)9月号「四季吟詠」
・水内慶太選「秀逸」〈てのひらの湯の花朧月夜かな 曽根新五郎〉
・行方克巳選「秀逸」〈飛魚の飛んで吉報届きけり 曽根新五郎〉
・髙橋千草選「秀逸」〈日の永き島の単身赴任かな 曽根新五郎〉 - 日本経済新聞8月14日「俳壇」
・黒田杏子選「1席」〈母訪へば薪割つてをり炎天下 谷村康志〉=〈この母上様のお姿、私にはありありと眼に浮かびます。疎開児童の私は30代の母が薪を割っていた日々を今も忘れられないのです〉と選評。 - 毎日新聞8月23日「毎日俳壇」
・小川軽舟選〈風鈴に風のぶつかる正午かな 岡良〉 - 毎日新聞8月30日「毎日俳壇」
・井上康明選〈被爆樹の八月の影動かざる 谷村康志〉=〈広島を想像した。被爆した大樹が8月の陽光を受け、影を宿したまま立ち尽くしている〉と選評。 - 読売新聞8月30日「読売俳壇」
・矢島渚男選〈酔ひ泣きの仔細は知らず扇風機 谷村康志〉 - 産経新聞9月9日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈部屋干しの下着ながめて熱帯夜 谷村康志〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)9月号の「ピックアップ注目の句集」は増田守句集『回帰』。まず、作者の自選5句と、「わが俳句を語る」と題して綴った作者のエッセイ。そのエッセイでは〈これからも韻文的表現と散文的表現という異別の世界における漂流を楽しんで行ければ幸いである〉と記述。つづいて、句集『回帰』鑑賞を竹内洋平が執筆し、「人はなぜ句集を編み、そして読むのか」と題して、〈個人的に贈呈を受ける句集はいつの間にか本棚の数段を占めるまでになっているにもかかわらず、書店や図書館で個人句集が並んでいるのをみることは稀だ。一部の専門俳人のそれを除いて「句集」が俳句を作る仲間同士の内輪の範囲にとどまっていて一般の読者向けに編まれていないのは明らかだ。ではなぜ人は句集を編み、それを読むのか? その疑問に答えるには増田さんの実践は極めて示唆に富んでいて句集のあるべき姿を示そうとしているように思われる。増田さんの句を概観すると、まず「言葉の意味性を排除」しようとする近年の俳句の傾向とは一線を画し「テーマ」を前面に押し出して憚らない。また俳句の妙味は思いがけない言葉と言葉の出会いにあるが、俳句に馴染まない読者が敬遠しがちなのは取合せの句の中でも特に二物衝撃の句である。句仲間同士で納得、理解できて褒め合うのは構わないが、これをよしとする辺りが俳句を内輪の世界にとどめている要因であるに違いない。詩に昇華していない奇抜で恣意的な取合せは外に向けての門口を閉ざしているも同然である。増田さんの句は自然な流れの中に無理なく配合されていて読み手は率直に共感し、その詩興に浸ることができる〉と論述。そして「一句鑑賞」として小熊幸が《振り返ること許されず牡丹の芽》を取り上げ、〈上五中七の「振り返ること許されず」は、柔らかな表現の裡に哀しみや辛い気持が込められているように感じられて胸が痛む。その苦悩を湛えたフレーズをしっかりと支えているのが、季語「牡丹の芽」だ。生命力漲る牡丹の芽は本格的な春の訪れを待っている。困難な状況にあっても希望を見出していくポジティブな力を、静かに伝えてくれる秀句に出会えたように思う〉と鑑賞。また結城節子は《ゆつくりと回帰の途上寒の星》を取り上げ、〈永遠に繰り返すという意味を内包する「回帰」という言葉の力が大きい。「寒の星」は道標のようでもあり、星と一体となって往還する作者のようでもある。第一句集『時空の旅人』のあとがきで、自らを「時間と空間を旅する者」と記した作者の辿り着いた心境を表す一句である〉と鑑賞。
- 結社誌「銀化」(中原道夫主宰)7月号の「現代俳句月評」(志麻茜氏)が、《芹摘むや角のとれたる風を頰 関根誠子》を取り上げ、〈田んぼか水辺で、しゃがんだ姿勢のまま夢中で芹摘みをしていると、頬に風を感じた。その風が意外に柔らかく感じたのである。何日か前の風は突き刺さるようだっただけに、今日の風は格別である。慣用表現の「角が取れる」は人間が円熟して穏やかになること。無生物の風に用いることはない。しかし今日の風には、この表現が一番ピッタリするのである。作者の周りで芹を摘むのも、角の取れた人ばかりだったのかもしれない〉と鑑賞。句は「俳句」5月号より。
- 現代俳句協会ホームページの「地区協会長インタビューシリーズ」、その第5回は柏柳明子が神奈川県現代俳句協会長の尾崎竹詩氏にインタビュー。