2021年11月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)11月号の「今月の華」に石寒太主宰が登場です。《かろき子は月にあづけん肩車 石寒太》を大見出しに掲げ、見開きの右ページに主宰の短章、左ページ全面に同誌発行・編集人西井洋子氏の撮影による主宰のポートレート。短章では〈この原稿の依頼の前日、手作りの小冊子とふたつのDVDが届いた。私の「俳句歳時記」(BS・日本テレビ)の一年間の録画とその内容を記録した、俳友の恩田周子さんからの手作りである。改めて番組を観直してみると、なかなか俳句の基礎知識を得るための教養番組としてはよくできている。番組の中間には、特別ゲストを迎える中休みの十分間がある。これがまた素晴らしい。ゲストを紹介しよう。小沢昭一(タレント)内田春菊(漫画家)江夏豊(元・プロ野球選手)檀ふみ(女優)森村誠一(作家)嵐山光三郎(作家・エッセイスト)冨士眞奈美(女優)江成常夫(写真家)熊井明子(ポプリスト)長嶋有(作家)吉川久子(フルート奏者)安部譲二(作家)奥田瑛二(俳優・映画監督)など多彩な人たちである。良くもまあ、これだけの客人が出演・参加してくれたもの、と改めて今回も感心した〉と述べています。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)11月号付録『季寄せを兼ねた俳句手帖2021冬・新年』が、《玄室のこゑ玄冬の地底より 石寒太》《もうゐないけんくわ相手よ雪催 石寒太》を採録しました。
炎環の炎
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)11月号の「現代俳句の窓」に谷村鯛夢が「コロナ盆」と題して、〈我が指をつかむ落蟬つかんでをれ〉〈ビザ発給拒むふるさとコロナ盆〉など6句を発表。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)11月号が「第67回角川俳句賞」を発表し、受賞した岡田由季作「優しき腹」(50句)と、その選考経過を掲載。選考は、応募総数784篇から編集部の予選を通過した40篇を無記名で印刷し、その中から選考委員4名(仁平勝・正木ゆう子・小澤實・岸本尚毅)の各氏が、最も推薦する1篇に◎、推薦する4篇に○を付け計5篇を事前投票、その結果をもとに選考委員による討議を経て受賞作を決定。「優しき腹」は正木氏が◎、小澤氏が○で、選考会において正木氏は、〈一言で言うと、私の好きな、のびやか、ですね。おっとりしていて、自分の感じたことをそれ以上でも以下でもないように詠んでいる。だから、詠み方にむらがなくて、丁寧で、いい句が多かった。鳥の句が多いですね。必ずしも成功しているかどうかわかりませんが、例えば《翡翠の声と色とが別々に》。この人は鳥をよく知っている。翡翠の姿を見るとき、見つけるタイミングと声がちょっとずれるんです。《太陽を見ぬやう鷹を見てをりぬ》、「鷹の渡り」の専門家の私としてはこれは本当にその通り。この方、ウオッチングをしているんでしょうね。《丹頂の前にエンジン冷めてゆく》がありますから。鳥という得意分野があることも長所の一つと思いました〉と評価。また小澤氏は、〈世界に対するしなやかな目があって、惹かれました。人間に対しても面白い目を持っていて、《兄弟に見える板前今年酒》、二人の板前を前に酒を酌んでいて、この二人は兄弟か、兄弟じゃないかとちょっと迷っている。そのことも酒の楽しみになってくるとは、いいですね。《相談者ふたりで来たり石蕗の花》、「相談者がふたりで来た」ということは二人で話してきたので、あまり大したことでもないかなと安心したり、逆に二人で来ているので大変な問題じゃないかなと不安になったり。そんな「揺れる思い」を《石蕗の花》で包んでいるところ、なかなか面白い〉と推薦。◎も○も付けていない岸本氏は、〈ものの見方、感じ方がとてもやわらかで、スッと受け入れられる作品が多々あったと思います。気になった句もいくつかあって、《菊活けて無人の時間長き部屋》の《無人の時間長き》あたり。《古書店を経由してゆく秋高し》の《経由してゆく》、《殺生をせぬ里芋のぬめりかな》の「殺生をしない」のは里芋だから当たり前だが、あえて《殺生をせぬ》と言ったことで、おかしみが出るのかもしれませんが、私は少し気になりました。《無理矢理に山茶花の薮通る猫》は《無理矢理に》まで言わなくてもいいかな。《間違へて入つてゐたり密柑山》、うっかり山道に入ったら密柑山だったというのかもしれませんが、ちょっとピンと来なかったところがありました。《笹百合の地図からずれて咲いてをり》は面白そうですが、《地図からずれて》はどういう状況なのか、理解しづらかった〉と指摘。他の候補作品と比較しながら最終候補を絞る段階で正木氏は、〈×の句がないことは大事です。全部、いい句であったということです。それが大きい。そして、この方の代表句になるような、スケールの大きい、いい句がある。角川俳句賞をとった後、三か月に一回、『俳句』誌に発表の機会がありますね。そのときに、ずっと発表していける人を、というふうにいつも思っています。この人ならばできるであろうという見方もしながら、全体を読みました。増幅したりデフォルメしたり強調したり、そういうことをしない詠み方で十七音を自由に使っている資質のよさを買いたいと思います〉と主張。
- 「第22回隠岐後鳥羽院俳句大賞」(島根県隠岐郡海士町・3月27日作品集発行、9月8日表彰式は中止)が応募総数2,140句から、選者4名(石寒太・稲畑廣太郎・宇多喜代子・小澤實)の各氏により特選1句、準特選1句、入選30句、佳作30句を選出、それをもとに大賞ほか各賞を決定。
◎「石寒太選特選」賞〈後鳥羽院八百年の木の芽かな 中西光〉=宇多喜代子選「佳作」
◎「知夫村長賞」〈後鳥羽院(前掲)中西光〉
◎「角川『俳句』編集部賞」〈楸邨の句碑に一礼初夏の隠岐 鈴木経彦〉=石寒太選「入選」、宇多喜代子選「入選」、小澤實選「佳作」
◎「島うた歳時記賞」〈花冷の息吹きかけて句碑みがく 曽根新五郎〉=石寒太選「入選」、稲畑廣太郎選「入選」
・石寒太選「入選」〈島を去る卒業生を送る牛 鈴木経彦〉
・石寒太選「入選」〈上皇の池畔の歌碑や小鳥来る 鈴木経彦〉
・石寒太選「入選」〈特攻の叔父と語らふ島の盆 鈴木経彦〉
・石寒太選「佳作」〈花冷の牛突きの瞳の潤みけり 曽根新五郎〉
・稲畑廣太郎選「入選」〈上皇の(前掲)鈴木経彦〉
・宇多喜代子選「入選」〈楸邨の一句となりし木の芽かな 曽根新五郎〉
・宇多喜代子選「佳作」〈隠岐牛に追はれ緋色の夏帽子 鈴木経彦〉
・宇多喜代子選「佳作」〈院のあと楸邨のあと歩く秋 伊藤航〉
・小澤實選「入選」〈花冷の牛突きの(前掲)曽根新五郎〉
・小澤實選「入選」〈産卵の貝満月の忘れ潮 曽根新五郎〉
・小澤實選「入選」〈海鳴りや冬青草のひとところ 前島きんや〉
・小澤實選「佳作」〈白鳥となりてゆきたし冬の隠岐 真中てるよ〉 - 「第22回隠岐後鳥羽院短歌大賞」(島根県隠岐郡海士町)が応募総数1,485首から、選者2名(三枝昂之・安田純生)の各氏により特選1首、準特選1首、入選30首、佳作30首を選出、それをもとに大賞ほか各賞を決定。
・三枝昂之選「入選」〈子の名さへ忘れし母が経を読む一語たりとも違へずに読む 鈴木経彦〉
・安田純生選「入選」〈子の名さへ(前掲)鈴木経彦〉
・安田純生選「佳作」〈島民に救助されたる特攻兵島に尽して骨埋めけり 鈴木経彦〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)11月号「令和俳壇」
・井上康明選「推薦」〈沖縄は今も沖縄沖縄忌 曽根新五郎〉=〈沖縄忌は、昭和の戦争で沖縄が戦場となった時、日本軍が壊滅した日。その沖縄を今も軍事基地が占有する。かつて戦場だった沖縄は今も沖縄でありつづけている〉と選評。 - 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号「投稿欄」
・西池冬扇選「秀逸」〈箱庭の今朝は晴れゐし平和かな 結城節子〉
・能村研三選「秀逸」〈被災地の命の数の蛍かな 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)11月号「四季吟詠」
・浅井愼平選「特選」〈戻らざる遠くの人へ水を打つ 曽根新五郎〉=〈ふと、口をついて出た、この日常、この素直さにこころが動いた。少年のようなこころの有様といってもいい。作者のこころの真直ぐが、夏の日の透明感を伴って届いた。かつて、近かった人も、ここには戻らず、遠くにあり、人は水を打っている。日常と非日常は重なり、時は過ぎてゆくのだ〉と選評。
・浅井愼平選「秀逸」〈祝祭の幟のほつれ夏つばめ 松橋晴〉
・井上弘美選「秀逸」〈行く夏の仏足石の土ふまず 曽根新五郎〉
・上田日差子選「秀逸」〈シンプルは母の身上天瓜粉 山本うらら〉
・上田日差子選「秀逸」〈木もれ日の青水無月の遊歩道 曽根新五郎〉
・秋尾敏選「秀逸」〈熱砂に魚人魚の片鱗を残し 田辺みのる〉
・秋尾敏選「秀逸」〈公園の子等の黙食合歓の花 長濱藤樹〉
・秋尾敏選「秀逸」〈土偶みな空を見上げて雲の峰 赤城獏山〉 - 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)11月号「俳壇雑詠」
・森田純一郎選「特選」〈千枚田千枚分の豊の秋 曽根新五郎〉=〈千枚田とは、たくさんの田が階段状に作られている所、つまり棚田のこと。豊の秋とは、稲の実りのよいことであり、この句では千枚田全てが見事な黄金色に染まっていたのだろう。美しい句だ〉と選評。
・能村研三選「秀逸」〈まつすぐな木道果てし雲の峰 曽根新五郎〉 - 読売新聞10月12日「読売俳壇」
・小澤實選〈起重機の解体されて秋の虹 谷村康志〉 - 産経新聞10月14日「産経俳壇」
・寺井谷子選〈遠花火果てて看取りの灯を消しぬ 谷村康志〉 - 読売新聞10月18日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈十六夜や妻子に涙見せられず 谷村康志〉=〈ややドラマチックだが、俳句でかように心中を吐露されると、何があったのだと身を乗り出したくなる。十六夜のせいでもあろう〉と選評。 - 毎日新聞10月25日「毎日俳壇」
・片山由美子選〈色鳥の声にも色のありにけり 谷村康志〉=〈秋に渡ってくる彩り豊かな小鳥の中には声の美しい鳥も。それを「声にも色」ととらえた〉と選評。
・西村和子選〈木の実降る丸太造の童話館 谷村康志〉 - 産経新聞10月28日「産経俳壇」
・寺井谷子選〈病床へ方便のうそ秋扇 谷村康志〉 - 読売新聞11月3日「読売俳壇」
・矢島渚男選〈六十の手習ひに手話秋ざくら 谷村康志〉=〈手話は見ているだけでも楽しい。出来たらなぁと思って志を立てた。手習いだから運動にもなる。どうか、三日坊主になられぬよう〉と選評。 - 産経新聞11月4日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈教会に奉仕ほうしと法師蝉 谷村康志〉 - 日本経済新聞11月6日「俳壇」
・黒田杏子選〈色鳥や介護と書きし特技欄 谷村康志〉=〈色鳥やのあつせんがすばらしい〉と選評。 - 産経新聞11月11日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈摑む運逃げてゆく運蚯蚓鳴く 谷村康志〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)11月号の「十一月の名句」(藤原暢子氏)が《死に行くときも焼きいもをさはつた手 宮本佳世乃》を取り上げ、〈死に行くときの手は、つい少し前、生きていた間に焼きいもを触っていた手でもあると想像してみる。生きている間には、焼きいもの他にも様々のものに触れているだろう。それらの中でも、温かい、生活感のある焼きいもを選んだことで、死が決して特殊なものではなく、日常の中にあるということを、作者は気づかせてくれる〉と鑑賞。句は句集『鳥飛ぶ仕組み』より。
- 読売新聞10月26日のコラム「四季」(長谷川櫂氏)が《大いなる力は吾を組み伏すや再び立ちて二度と倒れず 永田吉文》を取り上げ、〈佐渡の最高峰、金北山にある白雲台展望台。佐渡島のくびれの部分が眼下に見わたせる。絶景に見とれるあまり転んだときの歌らしい。「大いなる力は吾を組み伏すや」とは自分の運命との格闘のようでもある〉と鑑賞。歌は歌集『実朝の風』より。