2021年12月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)12月号の特別企画「昭和・平成・令和の歳末」に石寒太主宰がエッセイを寄稿、「私の年末の思い出」と題して、〈子どものころは、十二月に入ると裏山(天城山)に、正月用の門松の松を伐りに出かけたものであるが、年々正月用意の行事はほとんどしなくなり、季節の節目がなくなったことは淋しい〉と書き出してから、〈楸邨の好きな煎餅十二月 寒太〉〈子と息を合はせて寝落つ小晦日 寒太〉〈除夜の妻他人のごとく振舞へり 寒太〉などをあげて、それぞれにまつわる思い出を綴り、最後に〈子どもたちもいつしか大きくなり、独立して自分たちの家を持ち、にぎやかだった部屋も空っぽになり、夫婦ふたりだけの年末になってしまっている。孫たちまでよりつかなくなり、年末年始の区切りもなく、ほとんど日常と変わりなくなってしまった〉と述べて、〈一期は夢一会はうつつ旅はじめ 寒太〉の句で結んでいます。
炎環の炎
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)12月号に「角川俳句賞受賞第一作」として岡田由季が「意中」と題し、〈椋鳥をばらまいてゆく風一陣〉〈真四角に生け垣刈られ鉦叩〉〈見えてゐる鰡を釣らんと行き戻り〉〈海に出て川成就する秋の声〉〈索引部のみの一冊星月夜〉〈色鳥の来てそれぞれに意中の木〉など21句を発表。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)12月号に「俳句四季新人奨励賞受賞記念作品」として星野いのりが「リンクス」と題し、〈連星の果てはひとつに年新た〉〈声いつもこころと違ふ花吹雪〉〈血まみれの夏帽で知る兄だつた〉〈兄の死の枷のごとくに海月浮く〉〈やさしさの噓は艶めく林檎剝く〉〈繋がりは見えぬあかるさ冬星座〉など20句を発表。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)12月号の「俳句四季新人賞最終候補者競詠」に倉持梨恵が「双眼鏡」と題して、〈秋深し撫づれば開く猫の指〉〈水鳥の羽音を拾ふ双眼鏡〉など5句を発表。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)12月号「令和俳壇」
・星野高士選「秀逸」〈潮引いて引いて残暑の渚かな 曽根新五郎〉
・井上康明選「秀逸」〈口笛に口笛応ふ霧ぶすま 鈴木まさゑ〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)12月号「投稿欄」
・名和未知男選(題「本」)「秀作」〈本陣に灯蛾一晩おはし給ふ 青山雅奇〉
・鈴木しげを選「秀逸」〈調律の済みたるピアノ水の秋 松本美智子〉
・鈴木しげを選「秀逸」〈初秋のすくすく双子パンダかな 堀尾笑王〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)12月号「四季吟詠」
・鈴鹿呂仁選「秀逸」〈六合庵法螺の声して雪太る 赤城獏山〉
・山田貴世選「秀逸」〈カレー屋の特大ヤカン夏氷 長濱藤樹〉
・能村研三選「秀逸」〈塩飴の一粒もらふ炎暑かな 曽根新五郎〉
・髙橋千草選「秀逸」〈七夕の夢の中まで島の夢 曽根新五郎〉 - 読売新聞11月16日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈哀しみの湧いてくる日の栗ご飯 谷村康志〉 - 毎日新聞11月16日「毎日俳壇」
・小川軽舟選〈絶交の友の訃報や金木犀 谷村康志〉
・片山由美子選〈便箋を選ぶ銀座の秋時雨 谷村康志〉 - 日本経済新聞11月20日「俳壇」
・横澤放川選〈田仕舞のしらけむに立つ老の背な 谷村康志〉 - 読売新聞11月22日「読売俳壇」
・小澤實選〈秋惜しむ焼ソバに乗る目玉焼 堀尾笑王〉 - 毎日新聞11月22日「毎日俳壇」
・井上康明選〈木枯をとらへサッカーボール飛ぶ 谷村康志〉 - 産経新聞11月25「産経俳壇」
・寺井谷子選「一席」〈桃一切れ食べて言葉の丸みかな 谷村康志〉=〈「美味しい!」という言葉。かぐわしい桃の実の甘い香りとともに、桃の実のようなうぶ毛を持つ少女の笑顔を思う。「言葉の丸み」の繊細さ〉と選評。 - 朝日新聞11月28日「朝日俳壇」
大串章選〈男でも女でもなし着ぶくれて 渡邉隆〉=〈何方でもないと言い切った。俳諧味あり〉と選評。 - 毎日新聞11月29日「毎日俳壇」
・西村和子選「一席」〈湯上りのたばこ一服後の月 谷村康志〉=〈伝統的な季題に、構えることなく立ち向かっている姿勢が現実感を強める。実際は力んでいたかもしれないが力を抜いた良さ〉と選評。 - 毎日新聞11月29日「毎日俳壇」
・井上康明選〈遺言のとほり散骨山眠る 谷村康志〉 - 産経新聞12月2日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈コスモスや口笛を吹く孤児ひとり 谷村康志〉 - 日本経済新聞12月4日「俳壇」
・黒田杏子選〈焼芋を友より貰ひ希望ふと 谷村康志〉=〈希望ふと。ここに感動しました〉と選評。 - 日本経済新聞12月11日「俳壇」
・横澤放川選〈身内みな逝きて落葉を好きになる 谷村康志〉=〈このひとのややに自虐を思わせる感慨はそれでも陰惨さを覚えさせない。落葉とはひそやかな〉と選評。 - 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)12月号の特集「俳人・評論家百人年末アンケート~この一年の成果と今後の抱負」に田島健一が応じ、「自選一句」として〈絨毯の目がひらくアーモンドの木〉、「この一年の成果と今後の抱負」としては〈日々呑気に過ごしている割には、会いたいひとに会い、話したい人と話し、俳句を深く語り合える仲間にも、若い優秀な人たちとの交流にも恵まれています。来年は、さらに愉快に、機嫌よく、俳句に取り組んでいきます〉と記述。
- 河北新報10月10日のコラム「秀句の泉」(及川真梨子氏)が、《長靴が茸山から戻りけり 宮本佳世乃》を取り上げ、〈茸狩りから帰ってきたんでしょ、と言われたらそれまで。ですが踏み込んで想像してみましょう。帰るのは人ですが、書かれているのは戻ってきた長靴だけです。きっと靴には泥や苔などの山の証しが付いていて、茸を探す道のりの険しさ、楽しさを物語っています。戻った人からは道中の話を聞かされるかもしれませんし、籠いっぱいの茸の下準備を手伝わされるかもしれません。食卓に並ぶおいしい料理の湯気までが、この句の期待と楽しさです〉と鑑賞。句は句集『三〇一号室』より。
- 「第48回沼津市芸術祭『ぬまづ文芸』部門」(沼津市・11月14日発刊、芸術祭は中止)の随筆部門が37の応募作品から森脇逸男氏の選により芸術祭賞・市長賞・教育長賞・文化協会賞の各賞と奨励賞7作品、入選10作品を決定、「市長賞」には鈴木経彦作「日中友好を願って」。また短歌部門が応募総数147首から栗木京子氏の選により各賞ならびに奨励賞15首、入選20首を決定、入選に〈梅雨空の丹沢山に御成り待ち陛下と植うる山桃の苗 鈴木経彦〉。