2022年2月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の炎
- 西川火尖が、句集『サーチライト』を文學の森より2021年12月28日に刊行。序文を石寒太主宰が「『サーチライト』のひかりの先に」と題して認め、〈西川火尖が「炎環」に入ってきたのは二〇〇六年。この時二十一歳。火尖が散文より俳句という詩型を自ら選んだことは正しかった。今度の『サーチライト』でも、私から見てもいささか難解な句もあり、季語との関係が分かりにくいものもある。しかし、その大半の作品は何かを渇望しているのに満たされない、強い不遇感、深い闇を照らし出している。それが『サーチライト』なのであろう。既存の俳句世界にはない、火尖の心の底からの叫びが私に届いてくる。従来の俳句にはなかった強烈な世界を形作って私に、読者たちに迫ってくる。そこに、私は彼への未来性に賭けているのである。この句集の楽しみは、独白のような意識の世界と特徴的な季語との取り合わせの妙が、ひとつの魅力になっていることである。私は、その冒険的な手法の未来を拓く可能性に、大いに期待したいと思っている〉と紹介。
- 武山こゆきが、句集『ヴィヴァルディ』を紅書房より1月15日に刊行。序文を石寒太主宰が「人間味あふれる句集『ヴィヴァルディ』の世界」と題して認め、〈武山こゆきさんに、教室で、「俳句づくりはことばはやさしく、こころは深く」そんな写生からまず俳句に入り、それを信じて実践して欲しい、私はそう教えた。それを彼女は今日までかたくなに守り、つづけてきた。こゆきさんの句は、一見何でもないことを詠んでいる。そう思いながら、同じ句を何度もくり返し読みかえしていると、だんだんに一句にひろがりが出てきて、こゆきさんらしい生き方と人生が彷彿と浮かび上がってくる。五章に分けられた四時のひとつひとつの句には、さりげない中に、こゆきさんらしいやさしい気持ちが込められていて、心に沁みてくる句ばかりである。この句集は、こゆきさんの十年目の『夢ひとつ』につづく第二句集である。ぜひ、この句集を読まれる皆さんも、武山こゆきさんの世界を、ともに楽しんでいただきたいと心より願っている〉と紹介。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)2月号の「俳壇プレミアシート」に関根誠子が「学舎」と題して、〈学舎は胸張るかたち霜の中〉〈黒の忌かノーリターン忌か虎落笛〉〈凩や「空」と灯して駐車場〉など5句を発表、また作句信条として〈ある時寒太師から私にとって先師である加藤楸邨の直筆をコピーした紙をいただいた。それには「一、俳諧は自得のほかなしと存じ候。一、頭の藝より足の藝重しと存じ候。一、俳諧は人間の實證なりと存じ候。」とある。「句の対象を見つけたら勇気をもって全身で摑みに行け」という教えと受け止めている〉と記述。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号の「クローズアップ」に谷村鯛夢が「水色の日記」と題して、〈伯山の母音響くや十二月〉〈地下鉄を二回乗り換へ日の短か〉〈水色の日記が付録なので買ふ〉など7句を発表、コメントに〈長く女性誌の編集に関わりましたので、脳内のキーワードはほとんどジェンダーレス。性別も年齢も名前も超えて句だけが生きるのが名句といわれますが、少しでもそういう世界に近寄れたらと思っています。俳句は、「書いた」ことはありませんし、芸術だと思ったこともありません。七十代で考えが変るかもしれませんけれど〉と記述。
- 月刊誌「文藝春秋」3月号巻頭の俳句欄に山岸由佳が「氷上」と題して、〈氷上の晴れて人々しづかな息〉〈ストーブや文字の輝き欅にも〉〈荷を下ろす正午の鐘や春遠からじ〉など7句を発表。
- 「第24回長塚節文学賞俳句部門」(茨城県常総市・2月6日表彰式は中止)が応募総数5,065句から、3名の審査員(今瀬剛一・嶋田麻紀・星野高士各氏)により、大賞1句、優秀賞5句、佳作20句、入選74句を決定。
○「佳作」〈冬すみれ黙心地よき人とをり 内野義悠〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)2月号「投稿欄」
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈秋の宵ワイングラスに残る紅 堀尾笑王〉
・辻桃子選「秀逸」〈枯れ兆す大蟷螂の孕みをり 結城節子〉
・中村正幸選「秀逸」〈叱られて握りしめたる木の実かな 結城節子〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)2月号「四季吟詠」
・上田日差子選「秀逸」〈海神の二百十日の真夜の声 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)2月号「俳壇雑詠」
・山田貴世選「秀逸」〈流木に座してひとりの秋思かな 曽根新五郎〉 - 読売新聞1月10日「読売俳壇」
・小澤實選〈結納はしきたり通り神の留守 谷村康志〉 - 毎日新聞1月10日「毎日俳壇」
・井上康明選〈発電の唸りかすかに山眠る 谷村康志〉 - 毎日新聞1月17日「毎日俳壇」
・井上康明選〈大寒や一糸乱れぬ吹奏楽 谷村康志〉 - 朝日新聞1月23日「朝日俳壇」
・高山れおな選〈継ぎのある堪忍袋日向ぼこ 渡邉隆〉=〈何度か破裂した堪忍袋を繕って生きてきた…。味のある自分史の回顧〉と選評。 - 毎日新聞1月24日「毎日俳壇」
・西村和子選〈寒柝や故郷のことは兄まかせ 谷村康志〉 - 朝日新聞1月30日「朝日俳壇」
・大串章選〈風花や貨車の音より旅ごころ 谷村康志〉 - 読売新聞1月31日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈寄合の最後列の隙間風 谷村康志〉=〈まず「寄合」という言い方が懐かしい。さらにサッシ戸にはない「隙間風」。これは寒い。地域の会合の寸景だろうが、実感がこもる〉と選評。 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号の「合評鼎談」(佐怒賀正美・望月周・相子智恵各氏)の中で、同誌12月号掲載の岡田由季作「意中」について、〈望月「《蓋のなき水路の町や草の花》 最初の句。言われてみれば蓋のある水路、暗渠もあるので、〈蓋のなき水路〉は気付きの一句です。この作者、角川俳句賞受賞句の〈はたはたの優しき腹の飛び交ひぬ〉、着眼点、絞り込みが非常にユニークだと思いましたが、そういう良さが、〈水路〉の句にも出ています。 《邯鄲や成層圏を風の吹く》 〈邯鄲〉と〈成層圏〉の〈風〉をぶつけてきた。まだちょっと分裂したままになっている感じで、お互いに響き合うところまでは行ってない気もしますが、凄く大胆な取り合わせに注目」、相子「私も驚きました。〈成層圏〉は雲もない、澄んだ青空です。〈邯鄲〉の澄んだ声と宇宙的な感覚で結び付けているのでしょう。実際には成層圏を見ていないでしょうが、大胆で面白い」、佐怒賀「この作者は正攻法というか、まっとうな書き方です。平明な詠み方で、ふだんの風景を客観写生していった句にいい句が出てきたようだ。ふだん、なんでもなく見過ごしているものを書くことによって発見していく。そういう姿勢がよく出ている。透明な光を感じる句が多かった。例えば最初の、〈蓋のなき〉は、〈草の花〉によって、秋の光が見えてくる」、相子「風の句とと鳥の句がよかった。 《椋鳥をばらまいてゆく風一陣》 〈ばらまいてゆく〉に椋鳥らしさがある。鳥が群れ飛ぶさまを「風がばらまいた」という詩心に感心しました」〉と合評。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)2月号の特集「若手が選ぶ“推し”俳人」において西川火尖が藤田湘子を挙げ、〈すべての俳人が活字の向こう側の存在だった初学時代に知った藤田湘子、それも彼の自伝に描かれた青年期の藤田湘子は間違いなく私の推しだったと言えるだろう。藤田湘子の自伝『俳句の方法 現代俳人の青春』(角川書店)には、十六歳から第一句集出版に至る二十九歳までの、若手俳人としての俳句活動と悩みや不安が赤裸々につづられている。俳句を始めたばかりの私は、結社や俳壇といった未知の世界へ、怯みながらも果敢に挑み、自らの居場所を築いていく歳の近い湘子の活躍に胸を熱くした。私は湘子に倣って、俳号を自らつけ、結社の門を叩いた。若い湘子が掲げた「五年で巻頭、十年で同人」という目標を私も掲げた。推しとのお揃いコーデにこだわるファンそのものだった。俳句にかまけるあまり成績が下がった事さえ、湘子をなぞったようで嬉しかった。あれから好きな俳人はさらに増えた。しかし、後にも先にも、こんなにも非対称で一方的な好意を向けたのは「若手俳人藤田湘子」に対してだけだろう〉と記述。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)2月号付録『季寄せを兼ねた俳句手帖2022春』が、《春疾風耳うらがへる犬連れて 関根誠子》《船どれも働いてゐる春の海 岡田由季》《嬉しさの長持ちしたり桜餅 岡田由季》《根の国の父母と落ち合ふ桜の夜 鈴木まさゑ》を採録。