2022年5月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)3月号の「百景共吟」に石寒太主宰が〈狼煙とも戦火とも浅春の丘〉〈戦禍の夜明けて菜の花明かりかな〉〈いにしへの火色渡良瀬大野焼〉〈畦焼きの地霊さざなみ昼の底〉〈眼窩黒き戦禍のわらべ春の雨〉の5句を発表しました。
- 結社誌「門」(鳥居真里子主宰)3月号の「一誌一会」(田中洋子氏)が「炎環」11月号を取り上げ、石寒太主宰の「北斗抄」から《ヘルメットの永遠の斜めや捨案山子》《またひとつはじまる戦唐辛子》の2句を引いて〈ヘルメットが永遠に斜めとはどういう状況だろう。戦が果ててもヘルメットと兵士は野ざらしという事だろうか〉と鑑賞しました。
炎環の炎
- 「第23回NHK全国俳句大会」(NHK・NHK学園、3月27日)が応募総数36,730句を予選選考によって7,447句に絞り、その中から12名の選者によりそれぞれが特選3句・秀作25句・佳作約60句を選出、そこから大賞3句を決定。
・坊城俊樹選「特選(二席)」〈保育器の中の万歳冬ぬくし 竹市漣〉=〈まことに目出度いではないか。まだ冬の初めの頃生まれたばかりの嬰児。今日のような暖かな冬の日差しを受けて、両手を大きく開いて万歳をしている。この赤子はきっとすくすくと育って元気な子となって、どこかの運動会かで万歳をするようになるだろう〉と選評。
・坊城俊樹選「秀作」〈石鹼玉弾け老女に戻りけり 森豊子〉
・坊城俊樹選「佳作」〈分校の山に一礼卒業生 鈴木経彦〉
・岩岡中正選「秀作(題「行」)」〈フクシマの土踏みしめて行く帰省 竹市漣〉
・岩岡中正選「佳作(題「行」)」〈行間はこころの余白冬木立 曽根新五郎〉
・鴇田智哉選「佳作」〈原発の音なき炎稲の花 竹市漣〉
・夏井いつき選「秀作」〈室の花絵本のなかの死のはなし 竹市漣〉
・西村和子選「佳作」〈保育器の(前掲)竹市漣〉
・堀本裕樹選「秀作」〈石鹼玉(前掲)森豊子〉
・堀本裕樹選「佳作」〈保育器の(前掲)竹市漣〉 - 「第六回円錐新鋭作品賞」(同人誌「円錐」(澤好摩代表)、4月30日発行)が応募総数62作品(1作品20句)より澤好摩・山田耕司・今泉康弘の各氏の推薦により、花車賞・白桃賞・白泉賞を決定。
◎「白泉賞」(今泉康弘推薦)星野いのり作「通信票」20句=〈阿部完市の初期の句のような、童話めいた、なにか異世界のような趣がある。コロナのことを言うために俳句を道具にするのではなくて、俳句によって独自の世界を作るためにコロナを道具にしている。そのような一つの世界を作れる才能を評価する〉と選評。
○「澤好摩奨励賞」内野義悠作「さめぎは」=作中の1句〈淡雪や耳それぞれにちがふ声〉について〈さまざまな声がする中で、自らが聞きとめるべき声のみが耳に届き、それ以外は雑音になるということが、複数の人物において同時進行的にあるということを言いたいのであろう。問題は上五の「淡雪や」がどのように働くかだが、いまひとつ判然としない〉と選評。 - 機関誌「現代俳句」(現代俳句協会)5月号の「列島春秋」に星野いのりが茨城県を代表して〈蔦青し旧姓に押す訂正印〉の1句を寄稿。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)5月号「令和俳壇」
・井上康明選「秀逸」〈金閣の雪銀閣の雪景色 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)5月号「投稿欄」
・高橋将夫選「秀作(題「走」)」〈競走のスタートライン風光る 曽根新五郎〉
・高橋将夫選「秀作(題「走」)」〈ばらばらに子の走り出す冬木の芽 松本美智子〉
・角川春樹選「秀逸」〈冴ゆる夜の遠くへ放つ耳ふたつ 山内奈保美〉
・辻桃子選「秀逸」〈枯蔓を引けば枯蔓引かれきし 結城節子〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)4月号「四季吟詠」
・浅井愼平選「秀逸」〈露座佛の冬日すべらす背中かな 曽根新五郎〉
・二ノ宮一雄選「秀逸」〈磯の間の寒満月の湯壺かな 曽根新五郎〉
・上田日差子選「秀逸」〈切り株の命の残る冬芽かな 曽根新五郎〉
・秋尾敏選「秀逸」〈行くあての途中に年を惜しみけり 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)5月号「俳壇雑詠」
・藤田直子選「特選」〈世の端で七味たっぷり心太 赤城獏山〉=〈心太は辛子醤油や酢で食べるが、辛口を好む人は七味唐辛子をたっぷりと掛けるであろう。「世の端で」によって、世の中をやや斜に見て、辛口批評をする人物像が浮かび上がる。諧謔味のある一句〉と選評。
・能村研三選「秀逸」〈大根の穴より島のゆるみけり 曽根新五郎〉 - 産経新聞4月14日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈身を病めど心は病まぬ啓蟄ぞ 谷村康志〉 - 毎日新聞5月2日「毎日俳壇」
・井上康明選〈決め球はストレートなり燕来る 谷村康志〉 - 朝日新聞5月8日「朝日俳壇」
・小林貴子選「1席」〈真つ暗になるわけでなし春の闇 谷村康志〉=〈闇にも濃淡はある。「春の闇」らしさが捉えられた〉 - 「宇多喜代子&星野高士の句会コース」(NHK学園)2021年第3回
・宇多喜代子選「秀作(題「干布団」)」〈干布団はちきれるまで日を溜めし たむら葉〉
・星野高士選「佳作(写真課題)」〈雪野原隠るるところなかりけり たむら葉〉 - 「宇多喜代子&星野高士の句会コース」(NHK学園)2021年第4回
・宇多喜代子選「佳作(題「ものの芽」)」〈ものの芽のしずかな音のあふれをり たむら葉〉
・宇多喜代子選「秀作(写真課題)」〈千年の棚田守りて櫻かな たむら葉〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)5月号の「わたしの歳時記」に三輪初子が寄稿し、「玉葱」について〈『山本健吉基本季語五〇〇選』(講談社)の中に「玉葱」の項目が見当らない。「葱」は日本古来のもの「玉葱」は外来種のもの。故に基本季語に適応されるのは、「葱」だけではわが玉葱派としては、甚だ寂しい。〈火を愛し水を愛して葱洗ふ 初子〉 この句は、十五年前に閉店した四十三年間夫と営業していた、居酒屋レストランの厨房から生まれた一句である。この洗う「葱」には玉葱が潜んでいる。わが店のメニューは洋食であり、玉葱は重要な食材として日々欠かせず、どれほど皮を剝き、どれほど洗い刻み、その辛さと甘さの美味を提供してきたことか。玉葱の国内生産量の大半は、わが故郷北海道産であることに、さらに愛しさが増す。 〈玉葱の透けてふるさと遠ざかり 初子〉〉と記述。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)5月号の特集「俳句における究極の擬人法とは」における「自作1句解説」にて宮本佳世乃が自句〈六階のあたりに今日の月が居る〉について、〈例句は、推敲後、結果的に擬人法を用いることになったパターンです。当初は〈六階のあたりに今日の月がある〉〈六階のあたりに今日の月がゐる〉という二つのパターンを考えました。その中で「月がある」といった即物的な句よりも「月がゐる」としたほうが、満月と出逢えたときの心の動きが表現できるのではないかと思い、後者にしました。ただ、その満月は赤みがかり、大きくておどろおどろしくも見えたので、その部分を表現しようと「月がゐる」から「月が居る」と漢字を使うことにしました。このように、擬人法を用いる場合は、ダイナミックに句を展開するように意識しています〉と解説。
- 毎日新聞4月13日のコラム「季語刻々」(坪内稔典氏)が《八重桜たわわに活けし今日の句座 波田野雪女》を取り上げ、〈句座とは句会、句会場。この語、句座をともにする、にぎやかな句座などと俳人はよく使うが、まだ一般的な語ではない。いわば俳人用語である。ちなみに、俳人とは俳句をたしなむ人、あるいは句座に集う人だ。「むらさき野」(紅書房)から引いた今日の句の句座ははなやか。和服の女性が集っている?〉と鑑賞。
- 結社誌『門』(鳥居真里子主宰)3月号の「一誌一会」(田中洋子氏)が、「炎環」11月号の「炎環集」から《身の丈に合ひし借金障子貼る 谷村康志》《はつけよいのこつた冬瓜掠り傷 中村月草》を引き〈まるで八っつぁん、熊さんの世界。借金の句でも下世話に落ちないのは季語の働き。冬瓜の句もユーモアたっぷり〉と鑑賞、また「梨花集」から《長き夜や母のほとりに布集まり 齋藤朝比古》《旅人の戻ることなき花野かな 市ノ瀬遙》を採り〈一句目、夜なべで針仕事をしている母親への眼差しが優しい。二句目、人生は旅。まるで芭蕉のようだ〉と鑑賞。さらに特別作品三十句の星野いのり作「水音」からは《空蟬を並べて父の枕元》《おとうとのだんだん沈む平泳ぎ》に対して〈平泳ぎを練習する弟を的確に楽しく描写。その弟が病臥している父の枕元に宝物の空蟬を並べている。健やかな家族愛〉と、春野温作「目が醒める」からは《はまなすや研究室の裏に穴》《ちんぐるま未知の魚の脳に皺》に対して〈研究室の裏に穴がある。ちょっと怖い。魚の鮮度を保つために脳天締めといって脳をアイスピックで突き刺す。待てよ、その皺は知能だ。人間は残酷でこれも怖い〉と鑑賞。そして第二十五回炎環賞の鈴木健司作「スクラップブック」からは《新入生手元のジョーカーは二枚》《白線に囲まれてゐる花野かな》《風花や鼻の先より溶けゆけり》を選び〈確かな写生句。鋭い感覚の若々しい句、俳味溢れる句など多彩。類想がなく個性的〉と鑑賞。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)5月号付録『季寄せを兼ねた俳句手帖2022夏』が《鳰の背をこぼれ鳰の子泳ぎだす 岡田由季》を採録。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)5月号の巻頭「俳句界ニュース」が、「『サーチライト』刊行記念イベント開催 3月27日(日)東京・マルジナリア書店」という見出しで、〈第11回北斗賞を受賞した西川火尖氏の第1句集『サーチライト』の刊行記念イベントが開催された。このイベントは句集をより深く多面的に読むことを目的としたもので、オンラインでも配信。第1部の司会は松本てふこ氏。事前募集した『サーチライト』を元にして詠んだ句を受けて、西川氏が自身の句や句集について語った。第2部のパネラートークでは若林哲哉氏が司会となり、堀田季何氏、松本氏、詩人の原口昇平氏がそれぞれ『サーチライト』や西川氏との交流などについて述べた〉という記事と写真を掲載。