2022年6月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)6月号の創刊70周年記念大特集「不易流行――俳句と時代」の「俳人70人による祝いの一句」に石寒太主宰が〈登高の八号目なり常の景〉の一句とエッセイを寄稿、エッセイでは〈角川書店の創業者源義氏からは、公私ともに沢山のことを学んだ。創刊以来、古典から近・現代俳句まで、あまねく広に特集を企画、編集してきた『俳句』の、来し方行方に、今後とも期待して注目していきたい〉と述べています。
炎環の炎
- 谷村鯛夢が、単行本『俳句ちょっといい話』を紅書房より5月26日に刊行。あとがきに〈本書は、俳句結社「炎環(石寒太主宰)」の機関誌「炎環」の二〇一四年四月号から二〇一九年十二月号までの連載から抜粋し加筆修正などを行ったもので、やっと刊行の運びとなりました。一九七〇年前後の学生時代は「政治の季節」でもありましたが、現代詩の黄金時代でもあり、私らも同人誌で「現代詩もどき」やら「小説まがい」を書きまくりのアマチュアの権化。サラリーマン編集者になってからは、「記事」を書きまくりました。これは商売。ただ、いずれにせよ、こうした「書く」ものと同じ「書く」ものとは、俳句はどうしても思えないんですよね。文芸には違いないんでしょうが、あんまり詩だ芸術だというのも、ちょっと、という感じ。「書く」と言ったとたんに何かが俳句からこぼれてしまうようで、どうも、なんですよね。じゃあ、俳句はどうするんだ、といえば……、本書を書きながらいろいろと教えてもらいました。皆様にも、その「いろいろ」のところをちょっとでも感じ取っていただければ幸甚です〉と記述。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)6月号の特集「新人賞作家大集合!」に、岡田由季(第67回角川俳句賞受賞)が「濃き日」と題して〈青き鳥黒く見えゐし若葉風〉〈水筒の麦茶濃き日とうすき日と〉など5句を発表、西川火尖(第11回北斗賞受賞)が「擦過」と題して〈筆圧と寝癖の強き子の朝寝〉〈春の月口約束は誰のもの〉など5句を発表。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)6月号の「俳壇プレミアシート」に谷村鯛夢が「五十年」と題して〈東京に来て五十年豆の飯〉〈粽買ふ婦人画報のお取り寄せ〉など5句を発表。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)6月号の「新作巻頭3句」に三輪初子が〈花は葉に政治・文化に木々の翳〉など3句を発表。
- 「第16回角川全国俳句大賞」(角川文化振興財団)が応募総数自由題9,080句、題詠「空」3,353句から、選者賞「特選」自由題各5句題詠2句・選者賞「秀逸」自由題20句題詠5句・都道府県賞を決定し、総合誌「俳句」6月号に発表。
○黒田杏子選「秀逸」〈新装版刊行八月十五日 曽根新五郎〉
○対馬康子選「秀逸」〈ゐるやうに逝つてしまひし夕花野 結城節子〉
○正木ゆう子選「秀逸」〈露の世の「死の灰」と言ふ小瓶かな 曽根新五郎〉
○宮坂静生選「秀逸」〈ゐるやうに(前掲)結城節子〉 - 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)6月号「俳壇雑詠」
・加藤耕子選「特選」〈はらばひに鳴きやどかりを聴く渚 曽根新五郎〉=〈やどかりの鳴き声は如何なるものであろうか。春の渚にはらばいになっている詠者の姿が何ともたのしい。いくつになっても人は、ファーブルにあこがれた少年の心情を持っている〉と選評。 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)6月号「四季吟詠」
・筑紫磐井選「特選」〈鬼は外こころの鬼と住まひけり 阪上政和〉=〈実際の鬼やらいというよりは、作者は自分の内部を見つめて感じたのであろう。「鬼やらい」という季題は、そうした思いを触発するきっかけなのだ。句としては少し類想がありそうだが、「と住まひけり」がぴったりとおさまり句を引き締めている〉と選評。
・筑紫磐井選「秀逸」〈筍を掘ってみるかと鍬もらう 赤城獏山〉
・筑紫磐井選「佳作」〈寒の咳燐寸のごときあばら骨 松橋晴〉
・鈴鹿呂仁選「特選」〈可惜夜の星の下なる会陽かな 赤城獏山〉=〈岡山市の西大寺にて毎年二月に行われる勇壮な裸祭りで有名な「会陽」は今年は規模を縮小して行われた、と聞く。川で水垢離をした男たちが神木を取り合い修正会が結願するもので、掲句の上五中七の措辞は例年とは違う粛々として行われた行事を別の角度から見た一景として立ち上がってくる〉と選評。
・松尾隆信選「特選」〈吊し雛母の端切れのみな柔らか 山本うらら〉=〈吊し雛を雛祭の傍題としている歳時記はないようである。伊豆では、観光に組み込まれているが、作者の住む神奈川でも、何代もの生活の一部のようだ。「母の端切れのみな柔らか」につつましやかな内にも受けつがれてゆく、豊かな文化、美意識と季節感、そしてその土地に生きる女性の気概を感じる〉と選評。
・山崎聰選「佳作」〈紅白の梅の若木の睦まじく 森山洋之助〉
・行方克巳選「秀逸」〈一月の母のリハビリメニューかな 曽根新五郎〉
・山田貴世選「佳作」〈学舎の窓の全開花の雲 長濱藤樹〉
・能村研三選「佳作」〈冬耕の鍬に楔を打ちにけり 赤城獏山〉
・髙橋千草選「秀逸」〈伊勢海老の網にこんがらがりにけり 曽根新五郎〉
・髙橋千草選「佳作」〈大寒の日の燈台をすべりけり 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)6月号「投稿欄」
・今瀬剛一選「秀逸」〈大雪の里を気遣ふ能登杜氏 森山洋之助〉
・大串章選「秀逸」〈啓蟄や地下へ乗り継ぐエレベーター 松本美智子〉
・大串章選「秀逸」〈黒髪の馬上の少女風光る 曽根新五郎〉
・加古宗也選「秀逸」〈ドローンの枯野の空を戻り来し 結城節子〉
・能村研三選「秀逸」〈黒髪の(前掲)曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)5月号「令和俳壇」
・星野高士選「秀逸」〈山影のほかは星空鳥総松 鈴木まさゑ〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)6月号「令和俳壇」
・岩岡中正選「推薦」〈籠もり居は獄に似たり虎落笛 赤城獏山〉=〈私たちのこのコロナ禍の長い「籠もり居」のふさぐ思いを、〈獄に似たり〉と大胆に言い切ったところが秀抜。外は寒々と心もすさむ「虎落笛」。私たちの気持ちを代弁してくれた一句である〉と選評。
・山田佳乃選「推薦」〈ひとり子の一人二役木の根明く 鈴木まさゑ〉=〈雪国の閉ざされた時期一人子は家の中で遊ぶことが多いのだろう。一人二役を演じ分けて楽しんでいる様子が暮らしぶりを感じさせている。「木の根明く」という季題がこれよりの日々の明るさを感じさせる〉と選評。
・星野高士選「秀逸」〈御陵の森黒々と春の月 小野久雄〉 - 読売新聞5月16日「読売俳壇」
・矢島渚男選〈捨て猫の鳴き声を背に遍路かな 谷村康志〉 - 産経新聞5月19日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈コンビニに停まるパトカー春寒し 谷村康志〉 - 朝日新聞5月22日「朝日俳壇」
・高山れおな選〈商ひもまた修羅道や薪能 谷村康志〉 - 毎日新聞5月23日「毎日俳壇」
・片山由美子選〈撤退の決まる工場や花は葉に 谷村康志〉 - 産経新聞5月26日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈初蝶来齢五十の初婚なり 谷村康志〉 - 読売新聞5月30日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈また母を叱つてしまふ五月闇 谷村康志〉 - 産経新聞6月2日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈ぶらんこや晴れても星の見えぬ町 谷村康志〉 - 毎日新聞6月6日「毎日俳壇」
・西村和子選〈菓子皿を選ぶ愉しみ葛桜 谷村康志〉=〈透明な衣のくず桜だからこそ皿の色も吟味したい。和菓子はつくづく視覚でも味わうものだ〉と選評。 - 読売新聞6月6日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈ベンチでもあれば良いのに牡丹寺 谷村康志〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)6月号の「新刊句集から一望百里」(二ノ宮一雄氏)が三井つう句集『さくらにとけて』を取り上げ、《ときどきはさくらにとけてバスを待つ》《桜咲く幹の体温背に添ふ》《煩ふは花咲くまでのこととせむ》《きのふけふはざまにひらく櫻かな》など9句を引き、〈そのときどきの桜との出会いの思いは深い。単なる思いだけではなく作者の生きた体感があり、句の世界をより深めている〉と鑑賞。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)6月号の創刊70周年記念大特集「不易流行――俳句と時代」の中で、『俳句』とその時代との関わりを今日の視点から捉え直す論考「『俳句』と時代 1952-2022」のうち「PART4 1997-2022」(生駒大祐氏)が、同誌2012年2月号に掲載された田島健一作「杖は終日」から《兎の眼うつくし紙のような自我》《霜夜愛のいっさい誤読して入浴》を採録し、〈言葉派の先達、例えば阿部完市と異なるのは定型感による言葉同士の接続の強度か。俳句特有の係り受けの非自明さを詩に昇華させている〉と評価。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)6月号の「合評鼎談」(佐怒賀正美・望月周・相子智恵各氏)の中で、同誌4月号掲載の岡田由季作「玉ねぎ小屋」について、〈望月「着眼点がユニークな句が多いですね。季語の選択がよく、臨場感が高まっているようです。 《自転車に子を乗せてくる潮干狩》 これがいちばんいい。「潮干狩」は行楽地の景として詠まれますが、これは近所から貝を掘りにきた感じです。「潮干狩」の句として類想がないのでは」、佐怒賀「実際に行動している、その内容が面白い。そこから発見するものがたくさん出てくるようだ。〈自転車に〉の句、日常感のある潮干狩です。 《雉の駆け込みし玉ねぎ小屋の裏》 〈玉ねぎ小屋の裏〉をうまく持ってきた」、相子「〈自転車に〉の句、私もいちばん好きでした。砂遊びの延長みたいな、そういう潮干狩って、意外と書かれていないところじゃないか。〈雉の駆け込みし〉の句、実景の面白さ、それをうまく俳句にした面白さがある」〉と合評。
- 佐賀新聞5月25日のコラム「有明抄」(中島義彦氏)が、その文中に《てのひらの闇ごとわたす蛍かな 宮本佳世乃》を引用。句は句集『鳥飛ぶ仕組み』所収。