2022年11月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)11月号の「作品16句」に石寒太主宰が「隠岐――秋から冬へ」と題して、〈読みさしの「遠島百首」初紅葉〉〈赭壁の知夫里切崖小鳥来る〉〈八百杉や遷幸八百年野分〉〈楸邨の師系ゆたかぞ秋の虹〉〈句碑守のわが二十年暮の秋〉〈大年の藁火の高し隠岐の牧〉など16句を発表しました。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号の「佐高信の甘口でコンニチハ!」にて佐高氏と対談した写真家の江成常夫氏が、「江成さんご自身の句はあるんですか」という佐高氏の質問に答えて、〈「俳句あるふぁ」の石寒太さんに強制されて作った一句があります。硫黄島を撮影、取材した時を想い起こして作ったんです。「凪の海鬼哭の島の仏桑花 常夫」 寒太さんが、句を解説してくださっています。「『鬼哭の島』は硫黄島である。成仏できない亡霊が、いまも声をあげて泣く島、という意。この島では、太平洋戦争で日本兵が約二万二千人、米兵が六千八百二十一人戦死している。なのに、遺骨が収集できたのは半数にも満たない。いまだに多くが『鬼哭』の状態にある。『仏桑花』はハイビスカス。作者は、日本軍の玉砕の島の慰霊取材をつづける」〉と語っています。
- 炎環同人で女優の水沢水音さんが投稿しているYouTube番組【水沢有美の I Love It ! 】に、石寒太主宰がゲストとして2回目の出演です。
炎環の炎
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)11月号「四季吟詠」
・古田紀一選「特選」〈漁火に囲まれてゐる島の秋 曽根新五郎〉=〈漁火に囲まれているのが見えているということは、さほど大きな島ではなく、その島の頂近くから眺めているのである。この島は海の中の地形が漁業に最適で、漁師や獲れた魚を観光客にもてなす宿や民宿も多かろう。作者は式根島在住の方、毎日のごとく大空と海、漁火と星空を見て心豊かな生活を送られていることであろう。その気分が「島の秋」に溢れている〉と選評。
・秋尾敏選「特選」〈心音の赫々金魚玉の罅 田辺みのる〉=〈「赫々」は「かくかく」とも「かっかく」とも。熱気を発し、ものごとがすぐれて盛んであるという意味だから、今、作者の心臓はこの上なく活発な音を発しているようである。だがその心臓が、これまで何の不具合もなかったわけではないことを、「金魚玉の罅」が暗示している。たしかに罅が入ったことはあるのである。けれど、それを乗り越え、今、夏を生き抜く命の音を、作者は聞いている〉と選評。
・秋尾敏選「秀逸」〈海草に風あるごとく熱帯魚 曽根新五郎〉
・浅井愼平選「秀逸」〈星屑の星降る島の夜光虫 曽根新五郎〉
・上迫和海選「秀逸」〈船虫の飴の匂ひの島の磯 曽根新五郎〉
・船越淑子選「秀逸」〈ふる里は一村二島虹の橋 曽根新五郎〉
・谷口智行選「秀逸」〈山からの島への暑中見舞かな 曽根新五郎〉
・森田純一郎選「秀逸」〈逃げ場なき島の真昼の暑さかな 曽根新五郎〉
・井上弘美選「秀逸」〈遠泳の島の子めざす無人島 曽根新五郎〉
・井上弘美選「佳作」〈白牡丹喜寿になつてもサユリスト 堀尾笑王〉
・二ノ宮一雄選「秀逸」〈魚影散る青水無月の忘れ潮 曽根新五郎〉
・上田日差子選「秀逸」〈潮引いて青水無月の渚かな 曽根新五郎〉
・上田日差子選「秀逸」〈指の間を息づく蛍母の手へ 阪上政和〉
・上田日差子選「佳作」〈潮騒や百葉箱の蝸牛 阪上政和〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)11月号「投稿欄」
・角川春樹選「特選」〈ロボットの運ぶステーキ星涼し 松本美智子〉=〈夏の暑い夜に星を仰いで涼気を感じることを「星涼し」という。掲句では、レストランでロボットがステーキを配膳してくれたことに感じるところがあったのだ。さまざまに態様の変化する食をとおして、人と自然を流れる時間の違いを感じているのだろう〉と選評。
・角川春樹選「秀逸」〈モアイ像の未完三百夏野原 結城節子〉
・能村研三選「秀逸」〈水の辺の水の影絵の白日傘 曽根新五郎〉 - 産経新聞10月13日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈案山子立つ梲上がらぬ者のごと 谷村康志〉 - 朝日新聞10月16日「朝日俳壇」
・長谷川櫂選〈仕舞前秋の風鈴手で鳴らす 荒井久雄〉 - 読売新聞10月17日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈茶と菓子と松江の城や秋高し 谷村康志〉 - 産経新聞10月20日「産経俳壇」
・宮坂静生選「特選」〈かげろふや生きる時間の不平等 谷村康志〉=〈短命な喩えに引かれる秋の季語蜉蝣は水面に群れ、交尾し産卵すると数時間でなくなる。掲句はその昆虫の儚さから、人の寿命の儘ならない長短を嘆息した〉と選評。 - 読売新聞10月31日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈相客は小三治に似て走り蕎麦 谷村康志〉 - 産経新聞11月3日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈そぞろ寒九官鳥に起こされて 谷村康志〉 - 日本経済新聞11月5日「俳壇」
・横澤放川選〈ラジオより極右の主張大根蒔く 谷村康志〉 - 朝日新聞11月6日「朝日俳壇」
・高山れおな選「一席」〈宵寒の易者にすがる妊婦かな 谷村康志〉=〈何やらただならぬ雰囲気。蕪村あるいは一茶の句にでもありそうな〉と選評。 - 毎日新聞11月7日「毎日俳壇」
・西村和子選「一席」〈見舞客なき日の窓の薄紅葉 谷村康志〉=〈入院中のつれづれに、ふと気づいた季節の変化。見舞客が来ない日は寂しいが、こんな発見もある。紅葉の深まりが楽しみ〉と選評。 - 産経新聞11月10日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈月の暈たとへば和解する心 谷村康志〉 - 「第29回都留市ふれあい全国俳句大会」(山梨県都留市)が応募総数3,183句から選者6名(井上康明・大串章・黒田杏子・高野ムツオ・西村和子・星野高士の各氏)により大賞など特別賞7本と各選者の正賞・準賞・入選を決定し、5月28日開催の大会にて表彰。
・井上康明選「入選」〈太陽へ向かつて吹きししやぼん玉 曽根新五郎〉
・井上康明選「入選」〈月涼し土偶に花の耳飾り 北悠休〉 - 「第33回お〜いお茶新俳句大賞」(伊藤園)が応募総数1,946,459句(小中高生等を除く一般の部は121,927句)から浅井愼平氏・安西篤氏ら9名の審査員により大賞・優秀賞・審査員賞・後援団体賞・都道府県賞・佳作特別賞など2,000句を決定して、10月30日発表。入賞の2,000句は市販の「お~いお茶」パッケージに掲載。
・「佳作特別賞」〈揚雲雀恋のはなしのきりもなし 真中てるよ〉
・「佳作特別賞」〈薔薇の夜深読みしすぎたることば 内野義悠〉
・「佳作特別賞」〈残業の父の机の雛あられ 前田拓〉 - 「第6回新鋭俳句賞」(俳人協会)が応募総数53編(1編30句)から井上弘美・小島健・髙柳克弘・西山睦の各氏により正賞1編・準賞1編とその他候補となった13編を10月に発表。
・「候補」前田拓作「花の雨」30句=髙柳克弘選第4位。 - 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)11月号の「難解俳句を齧る――その鍵を求めて⑰難解俳句各論(ニ)」(栗林浩氏)に柏柳明子が、栗林氏の求めに応じて「難解俳句」を選び、その鑑賞を執筆。選んだ句は〈翁かの桃の遊びをせむと言ふ 中村苑子〉で、〈翁と彼が語り掛けている相手。いずれもその姿は茫洋としている。そして両者の間に存在する「かの桃の遊び」。「かの」ということで遊びの内容は両者にとって既知のものであることがわかり、読者は翁と相手との密事(=桃の遊び)をうっかりのぞき見してしまったかのような感覚に陥る。さらに桃という語からは「桃源郷」が連想され、翁=彼岸の存在による異界への怪しき招請のようにもみえる。いかなるイメージの広がりをも許す掲句の世界観は、韻文ゆえに成立しうるものであろう。俳句形式の揺るぎなさと言葉の喚起力。双方が真価を発揮したからこそ出現した豊穣な異界を前に私はただ陶然とするのである〉と記述。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)11月号の特集「今こそ「社会性俳句」」では10名の論者がそれぞれ冒頭に5句の「社会性俳句」を掲げて論評。その中で安里琉太氏は《非正規は非正規父となる冬も 西川火尖》を、中村安伸氏は《花を買ふ我が賞与でも買へる花を 西川火尖》を、橋本直氏も《非正規は非正規父となる冬も 西川火尖》を5句の一つに選出。中村氏は文中で掲句に触れ、〈かつての社会性俳句の句群に比較するとややニヒルで個人的な現代における労働者像が表現されている。掲句に描写されるのは連帯し権利を勝ち取ろうとする者ではなく、所与の権利の範囲内でささやかな幸福を享受しようとする個人の姿である〉と記述。句はいずれも句集『サーチライト』より。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)11月号の「俳句へのまなざし」(大西朋氏)が《越し方は全て錯覚夏の星 増田守》を取り上げ、〈越し方を思う時、これでよかったのだろうか、などとどこか冷めたような感覚が襲うことがある。夏の星、蠍座のアンタレスの赤い色を仰げば尚のこと、人生は全て錯覚である、あればよいという思いにかられる〉と鑑賞。句は「俳句」9月号より。
- 愛媛新聞10月19日のコラム「季のうた」(土肥あき子氏)が、《木の実落つ新しき影いま生まれ 三輪初子》を取り上げ、〈秋風に背を押され、木の実が大地へと着地する。地に触れたことで手に入れた小さな影が、種として踏み出すチケットのようにも見える。しかし、小動物や虫に食べられることなく、無事に発芽する確率はわずか。そのうえ樹木になるまで育つための条件はさらに厳しい。小さな影の前途は多難であるが、生まれ落ちた瞬間を見届けた母なる視線は、新しい門出を祝福せずには居られない〉と鑑賞。句は句集『檸檬のかたち』より。
- 同人誌「閏」(守屋明俊代表)第11号(2022年10月1日発行)の「未来を紡ぐ俳句たち」(受贈句集より代表が抄出)が、8句のうちの1句に〈もうすこし人間のまま月のまま 三輪初子〉を選出。句は句集『檸檬のかたち』より。
- 結社誌「山彦」(河村正浩主宰)11月号の「句集燦燦」(主宰抄出)が、8句のうちの1句に〈戦争の終はらぬ星の星まつり 三輪初子〉を選出。句は句集『檸檬のかたち』より。
- 結社誌「軸」(秋尾敏主宰)11月号の「句集紹介」(山口明氏)が三輪初子句集『檸檬のかたち』を取り上げ、《にんげんでよかつたかどうか花筵》など10句を引いて、〈度重なる逆境や試練を前向きに捉え、乗り越えてきた著者ならでは、ひりひり感や奥行きのある表現が堪らない。繰返し読み耽りたい詩情あふれる感動の一冊〉と紹介。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)11月号付録『季寄せを兼ねた俳句手帖2022-23冬・新年』が《地下鉄を二回乗り換へ日の短か 谷村鯛夢》《籠もり居は獄に似たり虎落笛 赤城獏山(本田巖)》を採録。