2023年3月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号が巻頭の「俳壇ヘッドライン」に、1月22日に実施した「炎環35周年記念大会」の模様を、カラー写真と記事で掲載しました。記事には、〈昭和六十三年一月に創刊した「炎環」。創刊の志は「心語一如」、すなわち、言葉にも情趣にも偏ることなく、いま詠いたいことを、自分の言葉で表現することとする。記念大会の第一部は、総会と「炎環」四賞の発表と講評、新同人の紹介などが行われた。石寒太主宰は、三十五周年を迎えることができたのも、本日集まってくれた二百名近い方々のお陰と、感謝の言葉を述べた。炎環新人賞に小笠原黒兎氏、炎環エッセイ賞に白夜マリ氏、炎環評論賞に高橋透水氏が選ばれた(炎環賞は該当作なし)。第二部は、小説家の荻野アンナ氏、金原亭馬生師匠、石主宰による鼎談「俳句とユーモア」。荻野氏と馬生師匠は、会場からのお題に即興で「謎かけ」問答を披露し、場内を沸かせた。その後、フルート奏者の吉川久子氏によるフルート演奏、第三部は新年句会が開催。最後は馬生師匠による三本締めで閉幕した〉と記述しています。
炎環の炎
- 「第40回兜太現代俳句新人賞」(現代俳句協会)が、応募総数70編(1編50句)から最終候補として絞り込まれた5編につき、8名の選考委員(小林恭二・穂村弘・赤野四羽・瀬間陽子・田中亜美・永瀬十悟・堀田季何・山本左門)により、2月18日、日本記者クラブにおける公開最終選考会で討議の末、受賞作1編と佳作4編を決定。
・「佳作」内野義悠作「息づかひ」50句 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)3月号が「第11回星野立子賞」(上廣倫理財団)を発表。その新人賞の「選評」には〈選考過程では前田拓さん「靴跡」も評価された〉とも記載。新人賞の作品は1篇50句、選考委員は今井聖・対馬康子・星野高士。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)3月号
・夏井いつき選「秀逸」〈縄跳の放物線へ学校長 阪上政和〉
・夏井いつき選「秀逸」〈月光のしみこむ砂の一握り 曽根新五郎〉
・佐藤文子選「秀逸」〈黙りゐる鷹よわが目に気づきをり 田辺みのる〉
・松尾隆信選「秀逸」〈地球儀の埃を払ふ文化の日 森山洋之助〉
・水内慶太選「秀逸」〈赤い羽根鏡の中にもう一つ 曽根新五郎〉
・行方克巳選「秀逸」〈鳴き砂を鳴かせて歩く星月夜 曽根新五郎〉
・古賀雪江選「秀逸」〈海鳥の乱舞となりし豊の秋 曽根新五郎〉
・能村研三選「秀逸」〈人形の影みて正す菊師かな 曽根新五郎〉
・髙橋千草選「秀逸」〈命日はいつも秋晴れ晴れ男 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)3月号「投稿欄」
・題「降」名和未知男選「特選」〈落葉松に落葉松の降る今朝の冬 結城節子〉=〈落葉松は新芽も見事ですが、一番美しいのは黄葉し、金色の針のような葉を降らせる時です。私は去年も一昨年も、その景色に出会いました。結城さんも同じような景に立冬の朝、会われたのでしょう。あとからあとから降り続く落葉松の落葉です。北原白秋も「からまつの林を出でて、/からまつの林に入りぬ。」と詩に詠んでいます。文人の心に通う植物なのだと思います〉と選評。
・大串章選「特選」〈十年日記買ふ九十の気合かな 松本美智子〉=〈「十年日記」は十年間を書き留める日記帳。それを九十歳の老人が買っている。百歳まで生きる決意で買っているのだ。「九十の気合」が胸に響き、励まされる。因みに、住民基本台帳に基づく百歳以上の高齢者の総数は、令和四年九月一日の時点で、九万五二六人だった〉と選評。
・題「降」高橋将夫選「秀作」〈鴨鍋のすいと二階へ昇降機 小野久雄〉
・今瀬剛一選「秀逸」〈冬紅葉山ふところに父祖眠る 小野久雄〉
・能村研三選「秀逸」〈一本の蛇笏に重きすすきかな 曽根新五郎〉 - 読売新聞2月14日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈山眠る語り継がれしこと一つ 谷村康志〉 - 産経新聞2月16日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈水洟や目を凝らし見る求人票 谷村康志〉 - 毎日新聞2月20日「毎日俳壇」
・小川軽舟選〈息白し号砲を待つアスリート 岡良〉 - 読売新聞2月27日「読売俳壇」
・小澤實選〈投げられし後の握手や寒稽古 谷村康志〉 - 毎日新聞2月27日「毎日俳壇」
・西村和子選〈鶯やチェンソー置いてひと休み 谷村康志〉 - 産経新聞3月2日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈死に水をとりし震へや室の花 谷村康志〉 - 朝日新聞3月5日「朝日俳壇」
・高山れおな選〈飛ぶやうに売れるたこ焼農具市 谷村康志〉 - 毎日新聞3月6日「毎日俳壇」
・小川軽舟選〈底冷や路地に連なる酒場の灯 谷村康志〉 - 産経新聞3月9日「産経俳壇」
・寺井谷子選〈膝に猫居ればと蜜柑むきにけり 谷村康志〉 - 毎日新聞2月23日のコラム「季語刻々」(坪内稔典氏)が《クロッカスあなたのことはよく知らない 山岸由佳》を取り上げ、〈クロッカスは春の花、秋咲きのものはサフランと呼ばれる。句集「丈夫な紙」(素粒社)から引いたが、「あなた」はクロッカスから連想される誰か。クロッカスをくれた人であってもよい。その人をよく知らないが、なんだかいい感じがあって、その感じが眼前のクロッカスみたいなのだ。「ボクシングジムの子猫を見にゆかむ」もいいなあ〉と鑑賞。
- 結社誌「若竹」(加古宗也主宰)3月号の「十七音の森を歩く」(鈴木帰心氏)が《ほがらかに道汚しゆく耕耘機 齋藤朝比古》を取り上げ、〈「ほがらかに」の措辞から、この村の情景が立ち上がってくる。田畑の広がる村。村人は大人から子供まで全員の顔と名前を知っている。村全体が家族のようにごく自然に助け合っている。とれた野菜を誰かが玄関に黙っておいていく。農作が日常の村だから、耕耘機が道を汚すのも当たり前の光景。たっぷりと余白のある、のどかな村の空気感が、「ほがらかに」の一言で伝わってくる〉と鑑賞。句は『俳句年鑑2023年版』より。
- 結社誌「春耕」(蟇目良雨主宰)2月号の「句集燦々」(堀井より子氏)が三輪初子句集『檸檬のかたち』を取り上げ、その中の1句《切る前の檸檬のかたち愛しめり》について〈句集名となった句。平成19年生業の居酒屋レストランが地主から立ち退き要求され閉店を余儀なくされた。自己の存在する「かたち」の倒壊に譬えようのない喪失感を味わう。その儚さが切り裂かれる前のレモンの「かたち」であるとあとがきにある。レモンに託した作者の心境が手に取るように伝わってくる〉と、また《初鏡わたしを褒めてゐるわたし》《老ゆること初体験よ春の服》の2句については〈初鏡のわたしを褒める諧謔性、老いも初体験とおしゃれして出かける。春を迎えて心はずむ作者のゆとりがみえる句〉と鑑賞。
- 結社誌「ランブル」(上田日差子主宰)2月号の「現代俳句羅針盤」(高瀬瑞憲氏)が《人の世の木々は裸になりゆけり 三輪初子》を取り上げ、〈「人の世の」としたことで、人の世以外の世の存在に考えが及びます。人が生きて見ている現世の木々は冬という季節を迎えて葉を落としていき遂には裸木の姿に…。しかし、違う世では木々は葉を落とさずに繁り続け、巨大なアフロのような木に成長を遂げているやもしれません。言外に想像が広がる愉しさを秘めた句に思います〉と鑑賞。句は「俳句」12月号より。