2023年9月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句界」(文學の森)9月号の「特別作品21句」に石寒太主宰が「賢治幻想21」と題して、〈叩かるる丁丁丁丁灼熱下〉〈坦庵のタキス双柱五月雨るる〉〈空蟬の透明虔十公園林〉〈かなしみの力欲りゐし鹿踊り〉〈キックキックつつくつんつん月明り〉〈天狼星賢治ひとりの修羅の旅〉〈永遠の未完玄冬の海へ〉など21句を発表しました。
炎環の炎
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)9月号の「作品12句」に近恵が「あたらしい枕」と題して、〈網戸から雨の匂いのする夜明〉〈人形の着崩れている夜の秋〉〈蜩のしみ込むあたらしい枕〉〈利き腕に月を抱えた痕の濃く〉など12句を発表。
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)9月号「俳壇雑詠」
・能村研三選「秀逸」〈新涼の魚影ちらばる忘れ潮 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)9月号「四季吟詠」
・山田貴世選「特選」〈レース編むみどりの風を縒りあわせ 山本うらら〉=〈ときおり吹く気持の良いみどりの風。その風を身に受けて、脳裡に浮かぶさまざまなことを思いつつ、ひたすらレースを操る窓辺でのひととき。正に至福の時ではある。掲句、中七下五の措辞によって詩に昇華した。お幸せな作者の素敵な時間を共有させて頂いた〉と選評。
・松尾隆信選「秀逸」〈行く春の木道の先ゆずりけり 曽根新五郎〉
・松尾隆信選「佳作」〈虚ろなる我に眩しき花水木 森山洋之助〉
・松尾隆信選「佳作」〈芍薬の触れなば落ちん立ち姿 森山洋之助〉
・髙橋千草選「秀逸」〈行く春の行つてしまひし人のこと 曽根新五郎〉
・能村研三選「佳作」〈島の影とは美しき夏の蝶 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)9月号「投稿欄」
・題「植」高橋将夫選「秀作」〈ハザードマップの赤き地区植田かな 松本美智子〉
・稲畑廣太郎選「秀逸」〈解禁の鮎へ朝の竿しなふ 結城節子〉
・今瀬剛一選「秀逸」〈竜天に登り走り根遠くまで 結城節子〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)9月号「令和俳壇」
・小林貴子選「秀逸」〈留守居してすこし無頼や遠き雷 小野久雄〉 - 読売新聞8月15日「読売俳壇」
・小澤實選〈汗滲む警備日誌の署名かな 谷村康志〉=〈警備日誌は担当者が交代する際に記載し、次の担当に引き継ぐ。その署名に汗が滲んでいるとは、暑く、厳しい労働条件のようだ〉と選評。 - 産経新聞8月17日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈羽交ひ締めするかのやうに竹婦人 谷村康志〉 - 産経新聞8月24日「産経俳壇」
・寺井谷子選〈夕立や喪服のままにジャズ喫茶 谷村康志〉 - 読売新聞8月28日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈孫の誕生万緑の伯備線 谷村康志〉=〈待望の孫が誕生した。周囲の木々のみどりまでが祝福しているように感じられる。伯備線を利用して孫に会いにゆく作者の気分がよく伝わる句〉と選評。 - 読売新聞9月4日「読売俳壇」
・宇多喜代子選〈初七日の西日の部屋に母と在り 谷村康志〉=〈亡くなったのは作者の父だろう。初七日の法要を終え、母とともに一息ついているところ。なにかと多忙であった一日が終わった夕方の感慨である〉と選評。 - 毎日新聞9月4日「毎日俳壇」
・西村和子選〈夜の秋の耳に哀しき琉歌かな 谷村康志〉 - 産経新聞9月7日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈荒梅雨の駅に野宿やコップ酒 谷村康志〉 - 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)9月号の「今月の華」に宮本佳世乃が登場。《二階建てバスの二階にゐるおはよう 宮本佳世乃》を大見出しに掲げ、見開きの右ページに「ふらっと」と題した宮本の短章と「私の愛蔵品」として石寒太主宰揮毫の色紙2枚「大鷹の杜に育ちし巣立鳥」「楸邨の師系ゆたかぞ秋の虹」、左ページ全面に同誌発行・編集人西井洋子氏の撮影による宮本のポートレート。宮本は短章で〈掲句は二〇一九年の第二句集『三〇一号室』の掉尾の句。旅吟である。第一句集よりも自由に作ろうと思い、現代俳句新人賞を受賞した句群も入れつつ、無季の章を二つ作った。ひとつは東日本大震災をきっかけに生まれた句から成る「そのほかは」。もう一つは最終章であり、身内の死の章「フリスク」だ。句集を編んだ当初から、締めくくりの頁は決めていたので、上梓できたときにはほんとうにひと区切りついた気分だった。愛蔵品は二〇一七年、第三十五回現代俳句新人賞を受賞した際に主宰からいただいた色紙。私は色紙を目にした途端に浮足立ち、恥ずかしげもなく「『巣立鳥』って私のことですか」などと聞いてみたりした。もう一枚は、二〇二二年にふらっとくださったもの。思えば「ふらっと」というのは私の性分に合っている。ふだんの暮らしはできるだけ自由に、上手な俳句も作らず、気が向いたときにふらっと、そこにいたい。でもまぁそんなにうまくいくものでもないので、今日もビールを飲んで、心地よく寝てしまおう〉と叙述。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)9月号の「新刊サロン」が「岡田由季が評する角川書店の新刊」を掲載。岡田はここで横井美音句集『加賀しぐれ』、小川晴子句集『榾明り』、栗田せつ子句集『師恩』、深川知子句集『緑の夜』の4冊を批評しつつ紹介。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)9月号の「俳句へのまなざし」(大西朋氏)が、《天牛や遊びの中の王と臣 西川火尖》を取り上げ、〈遊びの中の「王と臣」とは王様ごっこの極みであるが、そうやって疑似の世界で学んでいくのが成長の大切な過程であろう。そこに現れた天牛。中々に手強い虫である。一致団結して捕まえたい〉と鑑賞。また、《爪あかく乾いてゆきぬ夏の蝶 柏柳明子》も取り上げ、〈マニキュアを塗っているのだろう。その爪が乾いてゆく時間はどことなく艶めかしい。「夏の蝶」もまた色鮮やかで大きな翅を翻す姿はあでやかである。真っ赤な爪と夏の蝶。刺戟的である〉と鑑賞。西川の句は同誌7月号より、柏柳の句は「俳句」7月号より。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)9月号の「全国の秀句コレクション」が、同誌編集部が多くの受贈誌の中から選んだ29句(1誌1句)の一つとして、「炎環」誌より《歓声の街の膨らみ祭かな 野中黒戸》を採録。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)9月号の「合評鼎談」(奥坂まや・津髙里永子・堀本裕樹)の中で、同誌7月号掲載の柏柳明子作「玩具」について、〈津髙「《まだ眠り足りぬ木香薔薇の家》 黄色や白い花が咲く「木香薔薇」。私はちょっと重たい感じの、八重のものを想像しました。それが垣根や壁を覆っている家。そんな家だと、見ていても眠くなりそうです。家自体が眠り足りていない、そんなイメージも浮かびます。木香薔薇の句として面白いですね。 《木葉木菟まなこに夜の揺れてゐる》 木葉木菟のぎょろりとした眼に夜の闇が揺れている。闇全てを感じている、いかにも木葉木菟のイメージです」、奥坂「夜行性なので夜じゃないと目を開けないですし、しかも体に比べて大きな目を持っています。獲物を狙うので、目もよく動く。そして周りは夜の闇。光っている眼に〈夜が揺れてゐる〉感じがしました。動きまで捉えたところが、いい写生句だと思います。 《糸ほどの水に噴水果てにけり》 よく目が利いている句だと思いました。噴水が終わる時、糸のように細くなってチョロっと終わる」〉と合評。
- 結社誌「氷室」(尾池和夫主宰)9月号の「現代俳句鑑賞」(大島幸男氏)が《制服に着られてゐる子ひめぢよをん 柏柳明子》を取り上げ、〈中学校に入学したばかりの女子の制服姿と思う。この年頃は成長が早いから入学にあたっては、少し大きめの制服を誂えられるので「制服に着られている」ようなアンバランスさがあり、それが一層初々しさを引き出す。そんな姿に配した季語の「ひめぢよをん」は、時に道端に群落をなすが、一つひとつを見ると地味な姿をしていて、どこと言ってまだ特徴の見えない少女のイメージに呼応するのである〉と鑑賞。句は「俳句」7月号より。
- 結社誌「雪解」(古賀雪江主宰)7月号の「何でも読もう夜」(青井正行氏)が、谷村鯛夢著『俳句ちょっといい話』から「俳句は下手でかまわない――結城昌治」の段を要約しながら引用。専門俳人の書く入門書は「上から目線」になりがちだが、結城の著わした『俳句は下手でかまわない』は「横から目線」で書かれており、結城が句を作る時のモットー、座右の銘である「俳句は下手でかまわない」という言葉、これを「ありがたくいただきます」と言う谷村に対し、〈しかし、「俳句は下手でかまわない」という言葉は案外難しい〉と青井氏。