2023年12月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の炎
- 総合誌「俳壇」(本阿弥書店)12月号の「俳壇プレミアシート」に増田守が「憂さ」と題して、〈寡黙なるヤングケアラー冬館〉〈ちり鍋やこの一年の憂さの嵩〉など5句を発表。あわせて、わが師の一句として《葉櫻のまつただ中へ生還す 石寒太》を記載。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)12月号に内野義悠が、第6回俳句四季新人奨励賞受賞記念作品として「放つ」と題し、〈永き日や巻貝に沿ふたなごころ〉〈鰊群来眺むる磁場の狂ふまで〉〈麦茶とつぷん山頂の混み合つて〉〈ADのカンペの映る良夜かな〉〈雪虫の揺れはらわたにあるかゆみ〉など20句を発表。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)12月号「四季吟詠」
・夏井いつき選「特選」〈乗る前の船を見てゐる夜の秋 曽根新五郎〉=〈この句の人物は、これから乗りこむ船を桟橋で見ています。旅人でしょうか。帰省を終え都会へ戻ろうとしているのでしょうか。それとも、新天地への出発でしょうか。「船を見てゐる」によってしみじみと旅愁が生れ、夜の海に、そして夜の旅全体に船の汽笛が響いてゆくようです〉と選評。
・夏井いつき選「佳作」〈転勤の友と揃いの黒日傘 山本うらら〉
・江崎紀和子選「秀逸」〈星涼しふたりの追悼特集号 曽根新五郎〉
・山田佳乃選「秀逸」〈ふる里の風は潮風青葉潮 曽根新五郎〉
・関森勝夫選「佳作」〈行く夏のリュックの紐に靴の紐 曽根新五郎〉
・松尾隆信選「秀逸」〈七夕の星ふる島の渚かな 曽根新五郎〉
・水内慶太選「秀逸」〈天水の減りゆく島の秋暑かな 曽根新五郎〉
・水内慶太選「佳作」〈敗戦忌洗濯物がひるがへる 森山洋之助〉
・行方克巳選「秀逸」〈先生も星に小島の星涼し 曽根新五郎〉
・古賀雪江選「秀逸」〈夕焼や見つけてくれぬかくれんぼ 結城節子〉
・古賀雪江選「佳作」〈夏休み遺影の前のおもちゃ箱 曽根新五郎〉
・山田貴世選「秀逸」〈青空のあまりに青き原爆忌 曽根新五郎〉
・山田貴世選「佳作」〈この暑さいつまで戦火絶えるまで 山本うらら〉
・能村研三選「秀逸」〈九十の母へと注ぐソーダ水 曽根新五郎〉
・髙橋千草選「秀逸」〈天水の青水無月の島の水 曽根新五郎〉
・小川晴子選「佳作」〈先生の青水無月の形見かな 曽根新五郎〉 - 総合誌「俳句界」(文學の森)12月号「投稿欄」
・柴田多鶴子選「特選」〈ふる里の島へ日焼をしに帰る 曽根新五郎〉=〈自然豊かなふる里の島に帰省する楽しみを、「日焼をしに帰る」と述べて、潮風や輝く太陽の明るさや光をすべて表わしている。都会では得られない、ふる里の恵みを受け取りに行くという大きな喜びを、端的に表わした良い句と思う〉と選評。
・能村研三選「特選」〈八月の沖みて見えぬものをみし 曽根新五郎〉=〈八月は終戦の日、原爆忌と祈りの月でもある。かつて戦いの場となった海は今は穏やかであるが、実際目には見えないものが今もなお語りかけているようでもある〉と選評。
・加古宗也選「秀逸」〈道問ひし人と道づれ片かげり 松本美智子〉
・角川春樹選「秀逸」〈さるすべり質屋の塀の高きかな 小野久雄〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)12月号「令和俳壇」
・井上康明選「秀逸」〈コップのパセリ地下街のつきあたり 木下周子〉 - 読売新聞「読売俳壇」10月16日
・小澤實選〈秋暑し湯切りの音のチャッチャッチャッ 鈴木正芳〉=〈秋暑のラーメン屋を訪れ、店主が行う麺の湯切りの音をしかと聞き取った。作者はそこに一種爽快さを感じているように見受けられる〉と選評。 - 読売新聞「読売俳壇」10月30日
・小澤實選〈ホームランボール花野に消えにけり 鈴木正芳〉 - 読売新聞11月14日「読売俳壇」
・正木ゆう子選〈恋すれば癒える肩凝り草の花 谷村康志〉 - 読売新聞11月20日「読売俳壇」
・矢島渚男選〈晩酌に区切りをつける熟柿かな 谷村康志〉 - 産経新聞11月23日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈竜淵に潜む真上を戦闘機 谷村康志〉 - 産経新聞11月30日「産経俳壇」
・宮坂静生選「一席」〈奨学金残し結婚障子貼る 谷村康志〉=〈障子を貼りながらの苦労話。学生時代奨学金を借りた。全額返せないまま結婚し、あれから苦労した。返し終えたのが2番目の子が生まれたときだったね〉と選評。 - 日本経済新聞12月2日「俳壇」
・神野紗希選「一席」〈街つつむ霧の無韻や危篤の灯 谷村康志〉=〈霧の夜、危篤の人の一室が灯る。無韻の一語が沈黙を深め、命の切迫感を強める〉と選評。 - 産経新聞12月7日「産経俳壇」
・宮坂静生選〈銀漢や地球はいつも泣いてゐる 谷村康志〉 - 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)12月号の鑑賞特集「夜の名句」において杉浦圭祐氏が、その選んだ12句の一つに《月なき夜人数分のヨガマット 岡田由季》を入れ、〈日本でヨガはカジュアルな講座となった。生徒は女性が多い。人数分のマットだけが教室に並び、人はいない。月もない夜。空虚感が残る〉と鑑賞。句は句集『中くらゐの町』所収。また同特集において西生ゆかり氏が、その選んだ12句の一つに《日暮里に近き西日暮里良夜 齋藤朝比古》を入れ、〈月は東に、西日暮里は日暮里の西に。山手線で一駅だが、満月だから歩こうか。「にっぽり」「にしにっぽり」という音が軽い足取りを想像させる〉と鑑賞。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)12月号の「合評鼎談」(奥坂まや・津髙里永子・堀本裕樹)の中で、同誌10月号掲載の岡田由季作「クローゼット」について、〈奥坂「《のびのびと退屈したり盆帰省》 〈盆帰省〉は、〈のびのび〉も詠われているし〈退屈〉も詠われています。でもこの句では両方ある。実情に近いと感じました。たまに帰ってのびのびもするけれど、都会と違ってやはりちょっと退屈。まさに現代的な盆帰省です」、堀本「一つの普遍的な盆帰省の風景かもしれませんね。都会から田舎に帰ると、海や山の自然でのびのびする。でも数日すると退屈してくる。とてもよく分かります。実感をシンプルに捉えていて感心しました」、津髙「《友にただついてゆく旅青蜜柑》 こういう旅は私も経験があります。あまりはっきりと宿のことなど聞いておらず、取り敢えず友の誘いに乗って一緒に旅に出る。忙しさもあって自分では計画せず、人任せにしている旅。楽しそうではあるけど、自分の気持ちも熟しきっておらず、「青蜜柑」の季語と合っています」、堀本「《両岸の花火に脳のいそがしく》 たしかに両岸に花火が上がったら、どっちを見ていいのかとなる。でもこの句、視線で捉えたら面白くありませんが、〈脳のいそがしく〉という岡田さん独特の捉え方で、俳諧味も出ました」、奥坂「〈脳〉と言ったことで、音も両岸から聞こえてくる感じが伝わってきて、余計に忙しくなりますね」〉と合評。
- 結社誌「澤」(小澤實主宰)11月号の「総合誌俳句鑑賞」(今朝氏)が《日焼けしていないところを掻いている 近恵》を取り上げ、〈紫外線を浴びた肌は炎症を起こし、当然かゆみも伴っているだろう。なのに、「日焼けしていないところを掻いている」のは、皮膚から信号を受けた脳の猛暑ゆえの誤作動か。普段日の当たらない部分を裏返して自分のほうに向け――あるいは服の中に手を突っ込み――ぽりぽりやる姿はなんとも間抜けで微笑ましい〉と鑑賞。句は「俳句」9月号より。
- 結社誌「風の道」(大高霧海主宰)12月号の「現代俳句月評」(羽鳥つねを氏)が《瑠璃蜥蜴予言者のごと岩の上 柏柳明子》を取り上げ、〈この作品の蜥蜴はふだんよく見る地味なものではなく、滅多に出会すことのないキラキラした蜥蜴である。そのきら煌した姿には神々しさを感じる。その蜥蜴が岩の上から見下す姿は、昔の映画で観た「十戒」の一場面を彷彿させる。作者は瑠璃蜥蜴にモーゼの姿を重ねて見ていたのかもしれない〉と鑑賞。また、《風鈴の他は小さなテレビ点く 西川火尖》を取り上げ、〈昭和の中頃迄は(風鈴が)窓に吊られていた。それがエアコンが普及するようになり、だんだん見かけなくなってきた。今はまだ不自由な時代を知る昭和世代が俳句界の中心に居るが、令和世代が活躍する頃には更に諸々が便利になり、風情あるものが少なくなってくるように思える。そのような時代が来たときに、このような作品が顧みられれば昭和の風情や情緒が思い遺されるのかもしれない〉と鑑賞。柏柳の句は「俳句」7月号より、西川の句は「俳句四季」7月号より。