2024年10月
ほむら通信は俳句界における炎環人の活躍をご紹介するコーナーです。
炎環の軸
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)10月号が、6月27日~29日に開催された第25回隠岐後鳥羽院大賞表彰式の特別ツアーの中で行われた、石寒太主宰と小澤實氏との対談「隠岐の楸邨俳句」を採録しました。加藤楸邨は、1941年3月、突然、隠岐へと旅立ち、そこで一気に176句を詠みましたが、そのときの楸邨の思いや背景を、石寒太主宰が余すところなく語っています。
- 同人誌「天晴」(津久井紀代代表)秋号(9月15日発行・季刊)の「現代俳句鑑賞」(杉美春氏)が〈武蔵野のキャンパスさくらさくらどき 石寒太〉を取り上げ、〈「一期一会」と題する作品16句より。「有馬朗人」と前書がある。人との出会いもその年のその桜との出会いも一期一会である。有馬朗人は二〇〇六年から終生武蔵学園の学園長を務められた。石寒太氏は、武蔵学園に有馬先生を訪ねられたのだろう。さくらどきのキャンパスは新入生や学生の姿が溢れ、若い活気に満ちている。「さくらさくらどき」のリフレインから、キャンパスの華やぎ、お二人の親交の温かさをうかがい知ることができる〉と鑑賞。句は「俳句」5月号より。
炎環の炎
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)10月号の「精鋭16句」にこのはる紗耶が「水切りネット」と題して、〈蟬時雨ぺそりと割れしラングドシャ〉〈ていねいに水切りネットかけて処暑〉〈龍淵に潜むよ星の囀るよ〉〈祖父のギターさやかに弦を張りなほす〉〈秋高し当日券をもとめけり〉など16句を発表。
- 総合誌「俳句」(角川文化振興財団)10月号の「作品8句」に三輪初子が「物落つる音」と題して、〈変はる世の心どうする草紅葉〉〈母待てる花野へ道連れいらぬ旅〉〈ひとつの月ひとりのわれと見つめあふ〉〈ケア医院の物落つる音秋の夜〉など8句を発表。
- 総合誌「俳句四季」(東京四季出版)10月号「四季吟詠」
・髙橋健文選「佳作」〈飲み掛けのワイングラスや明易し 森山洋之助〉
・渡辺誠一郎選「佳作」〈母の小言ふと思い出す酸葉かな 本田巖〉
・渡辺誠一郎選「佳作」〈半夏生水の匂ひをかぎにけり 松橋晴〉 - 毎日新聞9月10日「毎日俳壇」
・井上康明選〈西瓜甘し十五の頃の日記帳 岡良〉 - 読売新聞9月16日「読売俳壇」
・小澤實選〈炎熱や盗塁阻止の砂埃 谷村康志〉=〈炎熱のなか、野球の熱戦が続いている。投手が盗塁を阻止するために投げた球が、ワンバウンドになって砂埃をあげたか。緊張の一瞬〉と選評。 - 毎日新聞9月16日「毎日俳壇」
・西村和子選〈無住寺となりて十年盆の月 谷村康志〉 - 読売新聞9月23日「読売俳壇」
・小澤實選〈賢治忌の青クレヨンの手紙かな 高橋郁代〉 - 毎日新聞9月23日「毎日俳壇」
・井上康明選〈機嫌良きゴルフボールや天高し 谷村康志〉
・片山由美子選〈月代や肌ざはりよき入院着 谷村康志〉 - 毎日新聞10月7日「毎日俳壇」
・井上康明選「一席」〈ねぶた来て閻魔過ぎたるあとに闇 岡良〉=〈青森市のねぶた祭である。エンマ大王のねぶたが、にぎやかな踊り子と共に去ると、初秋のみちのくの闇が静かに広がっていく〉と選評。 - 総合誌「俳句界」(文學の森)の連載「俳人の本棚」を今年担当している田島健一が、10月号で取り上げた本はスラヴォイ・ジジェク著(酒井隆史・田崎英明訳)『否定的なもののもとへの滞留』。〈本書で著者が伝えようとしていることは明白である。タイトルの『否定的なもののもとへの滞留』とは、ヘーゲルの『精神現象学』から引用された一節であり、著者は、カントやヘーゲル、ラカン、あるいはハリウッド映画やオペラ作品などを引用しながら、まさに現代における「否定的なもの」の在りようについてさまざまに論じるのだ。本書が書かれたのは一九九三年。今から三十年前の著作だが、まるで現代を予言していたかのように、「今」を生きるヒントを与えてくれる。それは同時に今この困難な時代で「俳句を書く」ということへのヒントでもある。俳句の内にあって俳句以上のものは、常に隠されている。書き手と読み手がやりとりするのは、俳句に書かれた意味内容ではなく、そこに隠された俳句以上のもの――それが生み出した「欲望」である。俳句を「読む」ことが、書かれた句の解釈にとどまらないのは、そこで生み出された「欲望」のパフォーマティブな効果ゆえである。問題は――そして、本書から読み取るべきことは――俳句における「欲望」が生み出す運命を、現代の我々は乗り越えられるのか、という一点にかかっている〉と論述。
- 総合誌「俳句界」(文學の森)10月号の「俳句界トピックス」が、西川火尖が開催した俳句・写真・造形による三人展「凧、ハウリング、百葉箱、」展(7月21日~26日)を取り上げ、〈西川氏の展示はトレーシングペーパーに俳句と作句の背景や推敲の課程を印刷して重ねたユニークな作品。「普段俳句に触れていない人にも俳句を読んで欲しかった。ジャンルを超えた会にすることで、新しい発見や反応があった。今後も俳句を体験してもらえる場を作りたい」と手応えを語った〉と記載。